第3話
6月になるとユカが白いペンで手紙を書いていた。
「……また、イズミ?」
「ううん。これはシュウ」
新登場の男の子に僕はまた興味を惹かれる。
「シュウもユカの大切なひと?」
ユカは少し迷ってからまた、窓の外を見て「ただの友達」笑顔でそう言った。
「でも、良い友達」
「悪い友達がいるの?」
「いるよ」
ユカがそう言った時、風が強くなった気がした。
「……なんてね」
ユカは何だか天気までも支配してる気がする。
「ねぇ、アラン?」
手紙に封をして切手を貼りながらユカはまた、笑っている。
そして窓を見て続けた。
「世界は広いね」
それがユカの口癖。
「広いね」
「だけど、もしかしたら世界はとっても狭いのかもしれない」
彼女はいつも対照的な言葉を並べる。
「どっち?」
「どっちかな」
僕は初めて聞いてみた。
「何でユカは留学してるの?」
僕を静かに見つめ、また優しい笑顔で言う。
「言葉を学ぶため」
「将来、海外で働きたいの?」
少し考えて「確かにその手もあるね」と、僕を指差した。
「だけど、違うかな」
「日本語だけじゃダメなの?」
「足りないの」
ユカが一言、そう呟くと外にいた鳥が一斉に飛んだ。
「日本語じゃあ、足りなくて」
ユカは生き物も支配する。
本を片付けて図書館を出る。
僕はユカの話の続きを一人、真剣に待っていた。
「恋じゃなんだか可愛すぎるの」
「イズミへの気持ち?」
ユカは何も答えずに、そのまま一人で話し出す。
「かと言って愛は重過ぎる」
「友情は?」
僕の提案に首を振る。
「だけど恋よりは近い」
「好き、じゃ伝わらない?」
「それだと今度、軽すぎる」
僕がうーん、と悩んでいると面白そうに覗き込む。
「ラブはどうかな?」
「それだと、お洒落すぎるね」
「ライクは軽い?」
「軽いねぇ」
僕は両手を挙げてため息をついた。
「降参」
そしたらユカは微笑んで僕にサンドイッチをくれた。
「イズミはユカの何ですか?
恋人?家族?友達?それとも、兄弟?」
ユカはまた空を見て
僕を見ずに呟いた。
「幼なじみ」
その発音しづらい単語は初めて聞いた言葉だった。
7月になるとユカは僕に言ってきた。
「もうすぐ、日本に戻る」
「ズット?」
「8月末に戻って来る」
そして僕に「お土産、買うね」と、笑ってみせた。
「ねぇ、ユカ?」
「なあに?」
「ユカはアメリカに独りで寂しくないの?」
するとユカは少し考えて「寂しいね」と、頷いた。
だけど、とまた空を見上げる。
「日本にいても大差ないの」
太陽が雲に隠れていく。
「私は結局、独りなの」
そして遠い雲を見てユカは言った。
「イズミに早く逢いたいな」
今日も彼女は遠くを見つめ、独り静かに微笑んで。
するとなぜだか知らないが曇り空は晴れていった。
2010.06.08
孤独に笑う魔女を見た 斗花 @touka_lalala
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