孤独に笑う魔女を見た
斗花
第1話
昨年の11月、君と初めて出会った。
君はその時も図書館の一番端の席で大きな窓から空を眺めていた。
本を手に持ったまま、しかしそのページが進むことはない。
「あの、前に座っても良いでしょうか?」
僕が日本語で尋ねると彼女は少しだけ驚いて、だけどすぐに笑顔を作った。
「どうぞ。皆の図書館だから」
英語で答えた彼女の前で学校の課題を進める。
すると彼女は空を見ながら日本語で呟いた。
「世界はこんなに広い」
僕が顔をあげるとまた、優しく笑う。
「そう思いません?」
「僕は日本語勉強してるから、日本語で大丈夫だよ」
そう言うと君は覗き込むように僕を見た。
「私の英語、下手かな?」
君のその不安げな声に僕の鼓動は少し高鳴った。
君の声はその時から耳に心地好かった。
「とても綺麗だけれど、でも日本語のがラクじゃないですか?」
僕の言葉に君はほんの少し止まってから、また優しく微笑んだ。
それから君と僕は友達になった。
彼女の名前はユカ。名字は発音が難しい。
「ユカは何歳ですか?」
「17歳。seventeen。
アランは?」
ユカは最初、僕に気遣って丁寧で簡単な日本語を選んで話していた。
「僕は20。大学生」
ユカが言うには僕は20には見えないらしい。
「もっと若く見える」
ユカの笑顔はいつも僕の心を温かくする。
「アランに兄弟はいる?」
「うん、いる」
「お姉さんでしょ」
ユカはとっても勘が良い。
ユカはこの辺りにあるハイスクールに留学してる。
「寮で生活してるの」
「たのしい?」
ユカは少し黙ってから首を振った。
「分かんない。楽しくないかも。だけど、楽しいかも」
ユカの日本語は時々とっても難しい。
だけどユカは言葉を選ぶのが、上手。
英語を話す時もすごく良い言葉を選ぶ。
「ユカの言葉は魔法みたいだよ」
「まほう?マジックのことであってる?」
「いつも僕の心をやさしくしてくれる」
ユカと出会うまで僕には友達がいなかった。
大学に行って、僕の周りから人がいなくなった。
「僕は少しおかしい。
だから大学の人達みんなに気味悪いって言われる」
ハイスクールの友達には理解してくれる人もいたけど大学に行ってからは誰も相手にしてくれなくて、悩むとまでは言わないけど退屈だった。
「ユカは友達が多いよね」
ユカはその頃、既に図書館に来ない日曜日も沢山増えていた。
同い年のお友達と出かけたり、ホームパーティーに呼ばれたり。
「ユカは国が違うのに頑張ってるから。
みんな、ユカが好き」
そしたらユカはまた笑った。
「私もとっても変な子だよ」
「変じゃない。可愛くって、いい子」
ユカの隣は居心地が良い。
きっと皆もそうなんだ。
ユカと話してるとホッとする。
「ユカはいい子」
そしたらユカは何も言わず、また窓の外を見た。
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