第3話

俺の少し後ろからあの先輩が入ってくるが、その時には既に着替えを終えていた。



「あ、伊達ー!俺、あの女に声かけた!」


「……で?」



殴りたい衝動を抑え結果を聞く。



「で、どーでした?」


「メアド、今から聞く。良かったらお前も-」




もう耐えれなくなって下駄箱から靴を乱暴に取る。


靴の入ったロッカーがガシャン、と鳴る。




「あれ、俺の彼女です」




それだけを言い残し俺は客席に向かった。



「やまもと」



俺が声をかけると、見上げる。



「あ、だてー。お疲れ様」


「何か食ったか?」


ニコやかな山本にぶっきらぼうに聞いた。


「アイス食べた」


確かに山本の前にはアイスの器が置いてある。



「……帰るぞ」



俺が言うと立ち上がり財布なんか出そうとするから慌ててしまわせる。



レジにお金をはらい軽く、頭を下げてスタスタと店を出た。



「伊達、早いよ」



しばらく歩いてからピタッと立ち止まる。

山本は軽く走って俺の隣に並んだ。


山本は今日に限って妙に胸元の開いた服を着ている。



「何しにきたんだよ」


「伊達に会いにきたんですけど」


サラッと答えた山本に、最近全く鳴ることのなかった鼓動が高鳴る。



「……だったら家に来いよ」


「だって今すぐ会いたかったんだもん」



そして俺の目を見た。



「なんちゃって」



山本の笑顔が愛しくて。



「……話しかけられてただろ」



俺の言葉に一瞬悩み納得する、山本。



「何か言われたか?」



真剣な俺を見て山本が笑った。そして楽しそうに言う。


「可愛いって言われた」


「それで?」



「あとは覚えてない。興味なかったし」



そして山本は俺に言ってくる。



「私、伊達以外興味ないよ」




少し顔を赤くした山本が、すごい可愛くて。



「なぁ、山本」




ん?と、俺を見たその瞬間、唇に軽くキスした。

あまりに軽く触れたから感覚はあまりなかった。



そんな俺を見て山本は笑う。



「もう少し、男見せてよ」


「……調子乗んな」




唇にもう一度長く触れ、苦しそうにしても離してやらない。



少しだけ口を離すと酸素を求めて口を開くから、すぐに舌を絡ませた。




暗い夜道で人通りもなくて、自販機だけがやたら明るくて。




「ん……、くるし……」



離れようとする山本の頭をグッと引き寄せた。


山本の腕の力が弱くなり俺はゆっくり唇を離す。


「……まだ時間、平気?」


「うん。……ドキドキする?」



山本は呼吸を整え肩で息したまま微笑み、聞いてくる。



そんな山本に俺は薄く笑って答えた。




「全然。だって俺、五月病だもん」







2010.05.11

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俺の不等式 斗花 @touka_lalala

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