美波ちゃんのライバル

斗花

第1話

私は試着の白いワンピースを着たまま驚きの声をあげてしまう。



「引越しぃー?!」


「おう、引越し。流星の隣の部屋に」



サラッと答えたあと私の方に寄ってきて「似合うじゃん」と、笑顔を見せる。



「また、流星!」



私は触ろうとしてきた野上の手をはらい試着室のカーテンを勢いよく閉めた。




こんにちは、横溝美波です。

今月から短大生になりました。


本日は彼氏の野上優二と買い物デートです。



「引っ越すってどーゆーこと?」



私はワンピースを買い、店を出ながら野上に聞く。


野上は私の鞄を半ば強引に持ってくれた。


「ありがとう。

でっ!何で引っ越す必要があるの?!」


「とりあえず休もうぜ」


野上は頭をかきながらコーヒーショップに入る。



そして注文して席に着き一息ついて言った。



「まぁ要するにな?


なんか勢いで一人暮らしするハメになり、そしたら伊達も丁度、家を出てくらしいから、なら二人で流星の隣に住むかーって」



淡々と話す野上の頭を思わず叩いた。



「いって!何するんだよ?!」


「だって意味不明なんだもん!」



説明不十分なのと、伊達と暮らすってのが、どうしても納得いかなかった。


私の彼氏の野上優二は私大に通う普通の大学生。


三月の半ばからカレー屋でバイトしてて、もともと働き者な野上はそれはそれは働いて、私と会う時間も裂いて働いて、自分の友達の

伊達朝長と一緒に働いて、私に会わずにその伊達と会う為に働いて!!!



「それで更に伊達と暮らしたら、もうほぼ一日中伊達と一緒じゃん!」



コーヒーを飲みながら笑っているが。


あの伊達朝長と四谷流星に私はいっつも野上を取られる!




「何で伊達と暮らすの?!」


「家賃一人じゃ払えないから」


「何で流星の隣の家なの?!」


「大家さんと知り合いになって家賃安くしてくれたから」



これまた淡々と答えるけど私は不機嫌になる。




伊達だて朝長ともなが。私の親友の彼氏。


そして野上の中学からの友達。



四谷よつや流星りゅうせい

私の後輩の彼氏。


野上とは高校入ってからの友達。




友達って言ってるし、実際二人とも彼女いるけどっ!




「野上って、あの二人の彼氏なの?」



私の質問にコーヒーをこぼした。



「変なこと言うなよ!」


「だってそうじゃん。


野上はいっつも伊達、流星、伊達、流星って口を開けばあの二人」



細いストローからミルクティーを吸い上げた。



「あいつらの為に何で野上がそこまでするの?」


「なに拗ねてんだよ」



野上は笑いながら聞いてくるけど、そんなの面白くないからに決まってんだろうがっ!


飲み終えたミルクティーの氷をストローでつっつく。



「だいたいさぁ、流星の隣に住むなら家から出てく必要なくない?」



私のことを見て笑って答える。



「第一落ちたら親父が怒ってな。


『予備校にいくらかけたか分かってんのかー!お前みたいな親不孝、さっさと出てけー!』って言われて。


弟にも『俺もうこんな狭い部屋に一緒にいんのやだ。ここは男らしく出てっちゃえよ』って言われてさ。


まぁ俺はあの大学も気に入ってんだけどな」



なんだか途端に申し訳ない気持ちになる。



そんな私を見てか明るく続ける野上。



「そしたら母さんにも『もう出てっちゃえ!』って、それはそれは軽いノリで言われてよ。


まぁ、俺の家7月に子供産まれるから余計狭くなる前に出ていってほしかったんだろ」



……ん?子供、産まれるから……?



「え?野上、弟できるの?」



すると野上は平然とコーヒーを最後まで飲んだ。


「あれ?言わなかった?正確には妹な」



いやいや。性別とかの問題ではなく。



「何で言ってくれなかったの?!」



野上は少し悩んでから思い付いたように言った。




「伊達と流星に言ったから、横溝にも言った気でいた」

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