第3話 合体

 弾かれたように、俺はその道を走り出した。

 

 走るうちに、いつの間にやら以前の形に戻ってきている。すげえ、ちゃんと走る足がある!

 道のりは、思うほど遠くはなかった。

 なぜならそいつは、あの桜色の言う通り強い引力で俺を引き寄せていたから。

 

 しかし凄まじいスピードだ。近づくにつれ、そいつは引力を増してくる。実感を伴う熱く大きな光となって、目の前に迫ってくる。

「くっ」

 俺は歯を食いしばった。

 ヤベェな、このままでは本当に俺はアイツに吸収される。アイツの一部となって、自我のないただのエネルギー体に成り果てるだろう。

 だがもう、後戻りはできない。

 黄色い光はもう太陽みたいに熱く、間近に迫ってきている。

 無理だ、俺死ぬ!

 俺は思わず目を閉じた。

 が、ちょっと待て。そこで再び思い出した。

 桜色あいつは言った。

『自分から、真っ直ぐそれにぶつかりなさい。吸収されないように、合体するの』

 要は負けんなっつうことだ。俺は無理矢理に目をこじ開けた。


 黄色い太陽は強烈な光を放ちながらも、明滅と膨張を繰り返している。なるほど、アンタもう命が尽きようとしているんだな。

『さあ、行って。あの光が消えてしまう前に!』

 桜色あいつの言葉の意味が分かった。


 さらに近づくと、か細い声が聞こえてきた。

「だれか助けて、怖い、痛い、死にたくないよ。悔しい、負けたくない。ちからちから。ちからが……欲しい」

 あの思念の本来の持ち主のようだ。

 待ってろよ、今から俺が行って助けてやる。世界最強の魔王と言われたこの俺が。

 ま、お前の身体ごと貰うんだけどな。


 黄色い太陽はもう目と鼻の先だ。身体の形を保っていられないほどの強い圧力グラビティで引っ張られる。

 強い光に、閉じてしまいそうな目を無理矢理かっぴらく。


 球体の中に、華奢な女の身体が見えた。そうか、あんたがこの思念の持ち主か。

 ふん、女と合体なんて得意中の得意だぜ。

 無防備に身体を大の字に開く。

 っしゃ、来いやンナロー!

 

「だぁらあああああああああああああああっっ!!」


合体フュージョン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る