魔王なのに、魔法少女に転生した。 ~この俺様が、天然年下可愛がられポジションだと?~

佳乃こはる

第1話 裏切り

 ピシャッ。

 ゴロゴロゴロゴロゴロ……。


 雷雲の中にそびえる魔王城には、常に雷鳴が響いている。その最奥の、最も広く、豪奢で快適な部屋が俺の棲家だ。

 その日も俺は、そのさらにそのど真ん中にある黄金の玉座に腰掛け、いつもと同じように、臣下、ベルゼホーンから血の色のワインを受け取った。

 ちびちびるなど、せこい真似は性に合わない。王者の風格を持って、それを一気に飲み下すと、俺は傍で跪くベルゼホーンに問いかける。


「で、今日の報告は……ぐ、ぐごがっ」


 俺は思わず喉を抑えた。

 息が苦しい。

 まさか……、まさか、さっきの酒に何か入っていたのだろうか。

 口に手を入れ、さっき流し込んだ液体を懸命に吐き出そうとする。

 しかし、俺に毒は効かないはずだ。だから毒味係なども用意してはいないのだが。


 はたと横を見ると、ベルゼホーンの奴がニヤニヤ嗤いながら俺を見ていた。


「き、貴様あっ。言えベル! 俺に何を飲ませたのだ」

 片手で喉を抑えつつ、もう片方でヤツの襟首を掴むと、俺はベルゼホーンを恫喝した。

 だが、俺の力で身体を宙に浮かせながらも、ベルは薄笑いを浮かべるだけ。俺は奴を睨みつけた。


「言えっ。貴様ごとき、この片手で捻り潰してくれようぞ」

「くっくっ、なるほど。流石は稀代の大魔王と呼ばれるお方だ。中級の魔物であれば、消し飛ぶほどの即効性の猛毒ですのに、何のなんの。まだ私を怒鳴る元気がおありとは。

 ですが、一動作で躊躇なく一気飲みされる魔王様の癖。これはいささか、まずかったですなあ。

 くっくくく。その薬は、猛毒のなかの猛毒、生きながらに聖なる乙女から搾った血を使った即効性。それも最高位の聖力を持つ聖女のもの。たとえ貴方様とて、無事には済まされますまい」


「く、くそっ、くそっ。一体どうやって……! 貴様ごときがそのようなものを手に……

 ま、さか……アイツか!? アイツが……ぐあっ」


 喉を抑え、苦しむ俺の足を払い、ベルは私を床に転がした。

 そうして、むき出しになった腹の真ん中を思い切り鉄のブーツで踏みつける。


「ぐっ、があああっ」

「くくく、ずっと、貴方をこうしたかった。そらっ! 血で汚れた歪んだ顔も、ああ何て美しい……んほっ。たまらない。そらあっ、うらあっ」


「ぐ、ぐああっ、ぐげっ」


 ベルは恍惚とした表情を浮かべながら、尖った足先で蹴り上げると、踵のヒールで同じ場所を幾度も踏みつける。

 くそっ、完璧に油断していた。反撃を試みるも、身体に全く力が入らない。

「くっ、あ……あ……」


 バキッ、ボキッ、ゴシャッ。


 骨が折れ、皮膚が破れ、肉が散る音。何てことだ、己の肉片が、俺の目の前に飛び散る。

 左の目玉が転がっていくのが狭い視界に映ったかと思えば、やがてはそれも見えなくなった。


 ああ、いけない。身体が……崩れてゆく……。


「はあっ、はあっ、あ、イイッ、イきそうっ。はあ……あっ」


 クソ変態め。こいつ、勃起してやがる。

 

 でもまあ……こんな最期も、仕方ないのか。

 残忍、悪逆、退廃、背徳。それが俺たちの存在意義なんだから――。

 

 薄れゆく意識の中で、そんなことを考えた。

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