番外編 ④ トリプルデート

第59話 グランピング

 互いの腐れ縁を巻き込んで……一華が思っていたことが実現したのは、十月半ばの秋晴れの空の下。

 

 都内から一時間半ほどでやってきたのは千葉県の総合レジャー&ヒーリング施設『シルフの森』。

 広大な森の木々を使ったアスレチックーワールドと、温泉やスパなどのヒーリングエリア。

 ウッディなログハウスに、キャンピングテント等、自然の中で思いっきり楽しめる演出がいっぱいだ。


 龍輝と一華、五十嵐と妻の理沙。燈子と蓮。

 三組のカップルの顔合わせを兼ねた一泊イベント。


 それぞれカップルごとに予約したグランピングテントは、柔らかな木漏れ日が映し込む光あふれる布張りのテントだったが、広さも快適さも兼ね備えた贅沢な作り。

 二つのクィーンベッドにラタンのソファなど、リゾート感溢れるインテリアと、バーベキューもできる広いウッドデッキが一続きになっていた。

 食材や道具を一切持ってこなくても、気軽にキャンプを楽しめるようになっている。


 五十嵐夫妻のテントのウッドデッキを使って、みんなで早速バーベキューを始めた。


 まずは互いに自己紹介。


 年長であり、話術の巧みな五十嵐が、やはりここでも率先して場を盛り上げてくれる。


 浅黒い肌、少し硬めのストーレートな髪は、短くカットされていて爽やかだ。

 眼光鋭く一見ワイルドな印象だが、笑うと目じりの皺に人の好さが駄々洩れになる。

 温かくて包容力のある男性。それが一華の見た印象だった。


 ああ、とっても魅力的な先輩。

 龍輝が惚れ込むのも分かるわ。


「で、俺の奥さんの理沙だ」

 指名された理沙が柔らかく微笑んで挨拶をする。小柄で小動物系の見た目だが、落ち着いていて芯のしっかりした女性。

 以前は総合病院に勤めていた看護師だったが、今は個人診療所の日勤らしい。 

 兄貴肌でちょっとやんちゃな五十嵐の手綱を、影でしっかりと握っている様子が伝わってきて、龍輝は思わず確信した。


 ああ、五十嵐さんがべた惚れして『理沙ちゃん』呼びする気持ちが分かった。

 きっと、一緒に居て安心できる女性なんだろうな。


 燈子の旦那の蓮は、この中で一番年下で繊細そうな色白イケメン。それにも関わらず、華やかで力強い印象を持つ燈子と並んで負けないだけのオーラを放っている。

 うちに秘めた情熱を感じさせた。


 燈子に一途なんだろうな。


 お似合いの二人を見つめながら、一華はもう一度祝福の言葉を贈ったのだった。



 自己紹介の後は、みんなで火をおこしたり、食材の準備をしたり。


「龍輝、私、五十嵐さんに直接お礼を言いたいんだけれど」

 一華の言葉が嬉しくて、いそいそと五十嵐の元へと案内する龍輝。

 

「五十嵐さん。初めまして。草間一華です。いつも龍輝さんから五十嵐さんにお世話になっていると聞いていました。色々お気遣いをいただきまして、ありがとうございました」

 頭を下げる一華に、五十嵐の顔が緩む。

 

 おお、写真で見ていた印象通り。忍耐強くて賢そうだ。この口調だと、俺が色々陰でアドバイスしていたことに気づいているな。流石だ。

 水島、彼女と出会えて本当に良かったな。


「いや、俺は何も、水島のこと、よろしくお願いします」

「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」


 そう言いながら二人で見つめ合うと、瞳の中で二人だけにしか通じない労いの言葉を交わしあった。


 龍輝さんに、的確なアドバイスとナイスフォローの数々をありがとうございました! 

 水島を立派な男に育て上げて、素晴らしい彼女だと思っていたよ。お疲れさん!


 自分のことが語られているなどとは思ってもいない龍輝。ニコニコと嬉しそうに二人を見守っている。

 

「もう、先輩風ふかせちゃって」


 横で見ていた理沙がくすりと笑った。五十嵐のテレ顔とどや顔が混ざったような表情を嬉しそうに見つめながら、龍輝を気遣う言葉をかける。


「水島君、主人からうるさいこと言われたらスルーしちゃっていいのよ」

「いえ、五十嵐さんのアドバイスはいつでも俺にとってとても大切なことばかりです。これからもよろしくお願いします」

 どこまでも真っすぐな龍輝、一華と一緒に頭を下げた。



「今日はお三方に張り切ってもらいましょうね」

 理沙の声掛けで、焼くのは男性陣に決定。


 女性陣はテーブルについて、ゆっくりと飲みながら待つことに。


「たまには待っているだけって言うのもいいわよね」

 理沙が二人にビールを渡しながら微笑んだ。


「実は、うちは普段から主人が夕飯担当で」


 燈子がここぞとばかりにさり気なく自慢してくる。

 そんな様子が可愛いと、今日の一華は余裕の表情。


「え、そうなの。羨ましいわ。たー君は。あ、ごめんなさい。もう、みんないつもの呼び名でいいわよね」


 理沙はちょっと恥ずかしそうに笑った後、開き直ったように言う。


「たー君は、全然。やる気がないわけじゃないんだけれど、時間が無いのと不器用なのと。手伝ってもらうとかえって散らかるの。やってあげようって思ってくれるだけで嬉しいはずなのに、なんだかなーってついつい思っちゃうのよね」

 

「あ、わかります。その感覚」

 意外なことに、燈子が相槌を打つ。


「うちは蓮君が器用で料理も片付けもやってくれるんですけれど、ゴミの分別はいい加減で」

 そう言って苦笑い。


「家事もたくさんやってもらっているから、あんまり言うのも悪いなって思って黙っているけれど、私が後からやるのは二度手間だなって、時々ストレス」

 一華相手では絶対に言わないような愚痴を、ポロリと漏らした。

 

 年齢的には二歳ほどしか変わらないのに、理沙の持つ大らかで動じない雰囲気が二人に安心感をくれる。

 素直になれた。


 ああ、だから……五十嵐さんは理沙さんにぞっこんなのね、と納得。


「うふふ。一緒に住めば色々でてくるわよね。小さな不満って。でも、不満を隠したり我慢しないといけないとは思ってないの。できれば小さなうちに、ちゃんと彼と話し合って互いに譲り合って。そういう時間を持つことが大切だし、それこそが彼を信頼している証かな、なんてね」

 悪戯っぽく笑った顔が、なんとも魅力的だった。


「確かにそうですね。変に遠慮すると後で違和感が大きくなっちゃいますよね。理沙さん、ありがとうございます。今度、蓮君と話し合っておこう」


「なるほど……」

 二人の話は、これから一華も通る道。結婚後のリアルを突きつけられたようで一瞬愕然とした一華だったが、神妙に傾聴した。


「あ、なんか説教じみてたわね。ごめんね」

 ビールを一口飲んだ後、ちょっと顔を赤らめながら理沙が続ける。


「でもね、話し合っていると気づけるから嬉しいの。私が好きな彼は料理ができる彼でも、片付けが上手な彼でも無かったなって。だから仕方ないかーって。たー君は一見おおざっぱに見えるけど、周りの人のことを良く見ているのよね。リーダーシップがあって面倒見がいいし、いざとなるとスッゴク頼りになる。俺に任せとけって感じで」


「あ、わかります。龍輝が本当に頼りにしていて。とっても尊敬しているんです」


「そう言ってもらえて嬉しいな」

 可愛らしくまた「ふふふ」と笑った。


「たー君が褒められると嬉しい」


 素敵な夫婦だなと、一華も燈子も心酔してしまった。

 女三人はアッと言う間に仲良くなって、バーベキュー後の温泉タイムもずーっとしゃべり続けていた。

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