第47話 沖縄料理を満喫

 その後の実習は順調に進んで、一日目のスケジュールは無事終了した。


 帰りがけ、知念に声を掛けられる。


「どう、水島君。久しぶりに一杯行く? 彼女も一緒に」

「嬉しいですけど、彼女、疲れていると思うから」


 言い掛けた龍輝に、一華がぶんぶんと首を横に振る。

「大丈夫だよ。行こう」

「え、でも疲れてない?」

「大丈夫。久しぶりなんでしょ」


 私の知らない龍輝さんのこと、いっぱい聞けるかも。


 内心ワクワクで了承すると、龍輝もぱあっと顔を輝かせた。


「じゃあ、お願いします!」


 一緒に向かったのは、龍輝にとって懐かしい定食屋。一華を連れていきたいと思っていたお店だった。 


「うわ、嬉しいな。ここ、ここ。一華さんに食べさせてあげたかったんだ」


 テンション高く言えば、店の親父さんが「おおっ」と目を丸くした。

「あれ? 龍君じゃないか。いやー久しぶりだねぇ」

「ご無沙汰しています」

 頭を下げた龍輝に、親父さんが「落ち着いたねぇ」と笑う。


「年中ここで食べていたんだ。美味しいんだよ」


 ここにも、龍輝を育てた味があるんだなと思った。


 まず出されたのは、海ぶどうの酢の物。プチプチとした食感も面白く癖のない味。

 甘酸っぱい味は、疲れた体に染み込む回復薬となる。

 続けてゴーヤチャンプルーとラフテー。昼間の弁当も美味しかったが、こちらのお店は味が濃厚でゴーヤの苦味を全く感じ無い。ほろほろと蕩けるラフテーも分厚くて食べ応え満点だ。


「美味しい!」


 一華の食べっぷりに、知念や新城をはじめとするダイビングショップの人々からの好感度も爆上がり。


「いいねぇ。美味しそうに食べてくれると嬉しいよ」

 お店の親父さんもご機嫌だ。


 続けて出されたのは、キングクリップやイカ、アオサ、島らっきょうやゴーヤの天ぷらの盛り合わせ。

 衣はフリッターのように厚めでしっとりとしている。


「美味しい」

 またまたパクパクと食べながら、龍輝とみんなの会話に耳をそばだてる。


 ショップ仲間でファンダイビングをした時、龍輝が写真を撮りまくっていて驚いたこと。でも、その時の写真や映像をショップの宣伝に使ったら、人気が出たこと。

 海の生き物と一緒に自分たちも生体観察されていて笑ったとか。龍輝のオタクぶりをみんなが可愛がっていた様子が伝わってきた。

 会えなかった間の空白を感じさせない雰囲気が心地良い。


 龍輝さん、愛されてる!


 照れたように笑いながら、こまめに龍輝が一華を振り返る。

 にっこりと微笑み返せば、また嬉しそうにみんなとの話しに戻る。

 そんな気遣いが嬉しかった。


 ほらね。龍輝さんはちゃんと気配りができる人なんだから……

 


 最後の〆は、島そば。

 豚骨ベースに海の幸の旨味を合わせた透明感あるスープ。少し太めの麺は汁なじみが良い。

 

 つるりと一口啜れば、お腹いっぱいにも関わらず、するすると食べられてしまった。


「濃厚なのに、さっぱり。これ、毎日食べたくなる」

 一華の感想に親父さんは更に顔が緩んでいた。


「美人にそう言われたら、最高だねぇ。また、おいで」


 

 今日は龍輝の過去に触れることができたと、一華は大満足で車に乗り込んだ。

 お酒を飲んでしまった龍輝の代わりに運転する。


「悪い。飲んじゃった」

 バツが悪そうな龍輝が、叱られてションボリしている犬の顔と重なって思わず吹き出した。


「久しぶりに皆さんと飲めて良かったね。みんな優しい人達」

「うん」

 素直に頷く龍輝の顔が可愛くて、一華の顔も綻ぶ。


「もうシャワーも浴びているし、帰ったら寝るだけだわ」

「疲れただろ。明日もあるから早く寝よう」


 運転免許はあるものの、普段あまり乗る機会が無い。レンタカーと言うこともあって、ちょっと緊張した面持ちの一華。


「あ、やっぱりごめん。緊張してるよね」

「うん、久しぶりだから。道もわからないし」

「ナビするから」

「よろしく!  でも、何よりも私に命を預ける時点で勇者だわ」

「あはは」

 大笑いする龍輝。

「本当は運転苦手なの?」

「そんなことは無いけど」


 そう言いながらも、いつもの勢いは無い。慎重に操作を確認して、イメージトレーニングをしてからようやく出発。

 おっかなびっくりな様子で、そろそろと動き出した。



 なんとかホテルに辿り着き、ほっと一安心。


「ありがとう。お疲れ様」

 龍輝はさっと外に出ると、運転席側の扉を開けてくれた。

「なんか素敵。有能執事みたい」

「ん、羊? 白いTシャツだからかな」

「え!?」

 

 一華の目がまん丸に。次の瞬間、弾けるように笑い出だした。


「違う、違う、執事。って言ったの」

「ああ、執事。燕の尻尾みたいな格好の」

「んふふふ、今度は燕の尻尾」


 ツボに嵌って肩を揺らす一華を見下ろしながら、龍輝は真面目に悩んでいる。


「執事の真似って……どうすればいいんだ? こんなのはどうかな」


 そう言って恭しく手を差し伸べた。


「一華お嬢様、お手をどうぞ」


 運転の緊張から解放されてちょっとハイな一華、優雅に手を重ねると立ち上がった。そのままエスコートされながらホテルへ。


「うふふ、楽しい」

「良かった」


 二人で見つめ合って、また笑い合う。


 なんだか、龍輝と居ると一日中笑っている気がする。

 

 とても幸せな日々だなと思った。    

 


 次の日の天気も快晴。講習も順調に進み、無事『PADIオープン・ウォーター・ダイバーライセンス』取得。

 

「やったー!」 

 とライセンス証を掲げる一華に、龍輝が労いの言葉をかける。

「お疲れ様。明日はいよいよマンタだよ」


 マンタ! 


 またキラキラとし始めた一華の瞳を、龍輝は愛おしそうに見つめ続けた。

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