読んだ後、ゼンメルワイスという大昔の医師を思い出しました。
患者の高い死亡率を、医師が手を洗うことで下げられるのでは……と考えたこの人。
しかし彼の主張は医学会には受け入れられませんでした。
その後何年も経って、ウイルスという存在が発見されるまで。
今では当然である手の消毒でさえ、意味不明とバカにされた過去がある。
ここからわかるのは――――因果が「見えない」からといって「存在しない」とは限らない、ということですね。
本作での異常現象は、突然英語が話せなくなるというものでした。
伝染性の脳梗塞と考えられたこの症状は、国際問題にまで発展し得る重大な案件。早急に対処せねばなりません。
ピィ事案を専門に捜査する刑事たちが突き止めた原因とは?
序盤から伏線は張られているものの、この結末は奇想天外。
しかし、関係ないとは言い切れません。知らないだけかもしれないのです。
人類はそうやって、常識をアップデートし続けてきたのですから。
不条理を得意とする作者様の、原点ともいえる本作。
読んでおくと、他の作品の見方も変わるかもしれません。
すごく深いところに切り込んでいる作品でした。
読み終えた後、因果関係とか、「常識」とか「非常識」とか、そういうことについて色々と考えてみたくなりました。
作中で焦点となるのは「ピィ事案」という謎めいた現象。
なぜか「英語と認識されている言葉」を口にすることができなくなる。
主人公の庄司は上司である元院に言われ、その事態を調べていくことになるが。
他にも謎めいた現象は多く発生しており、「身長が突然3メートルに伸びる」、「信号機から謎のワードが発せられるようになる」など不条理なことが多数。
そんな中で繰り返し提示される言葉。「カール・ギブソンがゴールを止めると日本は国際社会から一歩遠のく」というもの。
いわゆる「風が吹けば桶屋が儲かる」に通ずる言葉。
「とある現象が起こった理由」について、「とある原因」が提示される。その辺の因果関係について、「どんな答え」が出てくると、人は納得しやすいか?
本作で扱われているのは、そういう「因果関係」の「受け入れやすさ」ともなっています。
「ありえそうな話」と「ありえなさそうな話」の境界線とはどこか。「納得できる」のと「納得できない」の違いはどこから来るか。
本作を読んで、そんな心理的なラインについて、色々と考えてみたくなりました。
世間で受け入れられ、「真理」とされているものでも、時代が違えば「ありえない」と思われていたかもしれない。これから先で解明される科学法則だって、もしかしたら最初に見た時には「嘘だろ?」と思わされるかもしれない。
人間が「当たり前」に享受しているそんな「心理的ライン」について問い直し、強く揺さぶりをかけてくる。そんな強いテーマ性のある作品です。
物語として興味深いだけでなく、世の中の見え方も変わってくる。そんな強い問題意識やメッセージ性もある、とても読み応えのある一作でした。
「風が吹けば桶屋が儲かる」に曲解による曲解を重ねて完成したような、不条理な小説
まず、サブタイトルが面白い
「カール・ギブソンがシュートを止めると、日本は国際社会から一歩遠のく。」
「台東区を工事中のクレーンに鳥が止まる間、鮎川瑞穂は眠りにつく」
「報道官制が敷かれると、葛原奈々美の二日酔いが治る。」
まさしく「風が吹けば桶屋が儲かる」だ
そして、読み進めていけば、このサブタイトルこそが伏線になっていることがわかるだろう
たとえ不条理な出来事があっても、それがどれほど不条理な流れであっても、必ず原因は存在する
こんな小説、初めて読んだ
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ある日埼玉を中心に、突然英語が話せなくなるという症状が発生する。病院が調査したものの患者の脳内に特別な変化はなし。刑事である庄司孝介はこの謎の現象の原因について調査するよう命じられ、「ピィ事案対策部」という怪しげな部署に異動させられる。
本作ではこうして突然起きる不条理な現象の正体に対して一切触れない。問題とするのはどのような状況で事案が発生するかであり、その時の共通点だけを調べひたすら原因を遡っていく。
奇妙な事案を扱っているようで、調査の方針自体はわりと古典的だ。しかし、奇矯な言動を繰り返す謎多き上司、捜査に不慣れだがやたらと腕の立つ女性警察官。スパコンを使いこなすデータマイニングのプロなど癖の強い面々が集まり、捜査の過程は読んでいて読者を飽きさせない。また事案の危険性を鑑みた海外勢力が捜査に介入し、捜査員の中にも英語が話せなくなる者が発生するなど、捜査はどんどん混沌へと陥っていく。この奇妙な現象の原因をピィ事案対策部は突き止めることができるのか? その真相は是非自身の目で確かめてほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
非常におすすめの作品です!
この作品は『ピィ事案』と呼ばれる、あまりにも不可解で非常識で意味の分からない、それでいてほっといたらとんでもないことになる事象に立ち向かう刑事たちのお話です。
ピィ事案対策課が出来て初めての事案を扱った、言わば始まりの物語と言っていいでしょう。
当然、意味の分からないことを相手にするのですから、もう何も分かりません! 全てが手探り状態からのスタートです。
何をしようとも真相に手が届かなくて、霧は晴れなくて、しかしこちらは次第にすり減って、読んでいて絶望感に苛まれます。
しかしそれでも地道に原因を探ろうとする主人公たちの姿に胸を打たれます!
歴史を振り返れば、現実世界でも意味不明な不条理は噴出し、その度に原因究明へ尽力した人類の姿がありました。この作品はその姿を痛快なまでに描き出した傑作です!
……が、しかし。
この事案に対処している時、『ピィ事案対策課』のメンバーは6人。
彼らが相対する事象は、これまでの常識が通用しない、化け物級の不条理……。
果たしてこれまでの歴史と同じように、上手く原因を突き止められるのでしょうか!? 必見です!
展開やテンポも良く、キャラクターも個性豊かで、シリアスながらもユーモアも忘れない、非常におすすめの一作となっております!