7.百合の話
「コンコンッ」
今日はいつもよりも不格好なドアを叩く音が、クロの小部屋に響く。
「入っていいわよ」
半ば反射的に反応するクロは、予想外の人物と目を合わせる、
「夜分遅くにすみません」
「別に構わないわ。いつものことだし」
「?」
「ともかく、要件はなに?」
「えっと、ちょっと、クロさんとお話したいな〜……なんて」
「お話なら今日散々したはずよ。……何か外では言えない話……?」
「まあ、そんなかんじです……」
アルは、次の一言を躊躇う。
「……クロさんと……[[rb:姉妹 > シュベスタ]]になりたくて……」
クロは一瞬黙る。
「……言ってなかったかしら……私に姉妹を作る予定はないわ……」
「ネオさんから聞きました……その……[[rb:実妹 > いもうと]]さんのことも……」
「……ネオは口が軽いから困るわ……で、その話を聞いてなお、私と姉妹になりたいの……?」
「……はい」
クロは悩んだ。適切な言葉を見つけるために。
絞り出した結果、
「……正直な話……無理ね……」
「……え?」
アルも、無理なことぐらい知っていた。
でも、ここまで冷淡無情に言われるとは思ってなかった。
「……今は」
「??」
余計にアルはわからなくなった。
クロは、アルにちゃんと伝わってないことに気づき、更に訂正する。
「こ、言葉足らずだったかしら……その……私は、姉妹になるのは、今は無理って言いたかったの……」
今だけは顔を赤くしながらも、まっすぐアルの目を見るクロは、ぎゅっとアルの手を握る。
あの日のアルとまではいかないが、クロにしてはしっかりと握ったほうだ。
するとアルの肌も、クロの赤みがかった肌の色が伝染したかのように、全体的に赤っぽくなる。
「だって……私、あなたのことを知らなすぎるもの……」
「……!」
その言葉にアルはハッとさせられる。
「そうです。そうですよね……!」
「お互いを知るためにも、今夜はもう少し話す……?」
「はい!」
◇
それから、2人は飽きずに一時間ほど談笑した。
好きなことや、思い出話など、とても他愛のない話が大半を占めた。
「……そろそろ寝ましょうか……」
アルがあくびをしているのに、気付いたクロは、そんなことを呟く。
「……は、い……」
アルの返事は、まったくもって覇気はなく、今にも眠ってしまいそうな声をしている。
「これだけ戻してくるから」
と言って、コップを洗い場に置いてきたクロの目には、自分のベッドで、スヤスヤと眠るアルの姿があった。
(寝顔も可愛い……)
そんなことを考えていたクロは、あるアルの話を思い出す。
◆
「私、EMP体外に出すことはできないんですけど、激しい戦闘とかをすると、体が魔法を使ってると勘違いして、せっかく体内で作ったEMPを、無意味に消滅させちゃうんですよ」
ふ〜んと、クロはその話を聞いたときに思いながら、コップの中にある飲み物に口をつける。
「でもでも、EMPをたくさん作る訓練はしてないので、結構すぐにEMPをほとんど消滅させちゃうんです」
「なんだか、力を制限させられている主人公みたいね」
「そんなカッコイイものじゃないですよ〜。だって、EMPがしっかり体内にないと、まともに歩けなくなったり、しちゃうじゃないですか」
アルの言う通り、女性はEMPを文字通り力の源として体を、動かしているのだが、逆に言えば、EMPを蓄えないと運動能力が著しく低下することになる。
ただ、詳しいことは、現代ではまだまだ解明されていない。
「え?……じゃあ、EMPが全くなくなったらどうするの?」
「熟睡したり、薬を飲んだりすれば治りますが、即時性は薄いです」
「すぐに立ち直したいときは?」
「……クロさん、中等部で習いませんでした?『口腔移動式魔力蘇生法』あれを使えば一発です♪」
クロは記憶をたどり思い返す。
そして、アルの言うその方法の特徴を思い出した。
『口腔移動式魔力蘇生法』……読んで字の如く、人工呼吸のようなものだ。
「だから……私がもし倒れたら、クロさんが試してみてくださいね」
「……つまり、それって……キス……ってこと……?」
「クロさんって意外とピュアなんですね♪……ここで練習しても、私は構いませんよ」
「……あんまり私の心を弄ばないで……」
「えへへ。でも、私が倒れたらキスをする。これは私とクロさんの約束ですよ!」
「わ、わかったわ……」
◆
(キス……)
クロにも気になるものだ。
でも、流石に寝ているアルにするのはどうだろう。倫理的に。とクロは思う。
クロの中の天使と悪魔が戦った末……
「……ちゅ」
アルのおでこに一瞬だけキスをすることで、天使と悪魔は和解した。
「にしても……どうしようかしら……」
クロが寝る分の陣地を、占領して健やかに寝るアルを見ながら、クロは考える。
アルを起こしてアルの部屋で寝かせるのも、自分がアルの部屋で寝るのも、どちらも癪だったクロは、寮室のベッドは、決して小さくはないので、自分もアルの横で寝ることにした。
「……おやすみなさい。アルさん」
クロはアルの髪を、そっと撫でてから、だんだんと眠りについていった。
ちなみにクロは、魔法で宙に浮かして、アルを寝たまま連れて行くという方法を、次の日に思いついた。
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