星願いのアサンブル 真夏のオリオン

冬夜ミア(ふるやミアさん)

プロローグ

真夏の三ツ星

 真夏の太陽を失った夜空。そこで私は冬の三ツ星を目にした。普段であれば、早くとも秋の始まりと終わりにかけて現れるその三ツ星は、あの日、私たちが逃げるための大きな道標として、燦々と輝いていた。


 もう何年も前の話だ。あの時は本当に死ぬかと思った。家族と一緒にその日食と言われる現象を見に、領外に出て、人混みに呑まれて、気付けば私は檻の中。何でこうなったのかと、外の世界に失望をしたが、すぐにその想いは希望と興奮に変わった。


 だって、私の隣でおにぎりをすり潰し、床の砂を混ぜて、拘束をしている縄を切る道具を作り出す変な少年がいたからだ。


 変というには失礼かもしれないけど、何も知らない少女にとって、初めて子供のやるような遊びで、大きな脅威を穿つその光景は、新鮮どころか、どんなことでもバカにできない浪漫と広がる可能性を与えた。


 その後、迷路のような建物の中で犯人と鬼ごっこをしながら外に出て、これで逃げられたかと思ったら、何と外は真っ暗。隣にいた少年は「太陽の日差しで目が眩んでいるうちに振り切りたかった」と叫んでいたが、そのお陰で普段、見ることのない冬の三ツ星を目にし、太陽がある位置と私が憶えていたその三ツ星の位置関係で方角を割り出し、少年が遊んでいた簡素なソリで完全に鬼から距離を突き放すことに成功した。


 そこまでの道のりは、私の初めての冒険であり、初めて異性という存在に魅力を感じる出来事となった。でも世界は、そのことを一切憶えていない。


 家族のもとに戻て、さっきあった出来事、助けてくれた少年の話をして、私は振り返り少年にお礼を言おうとした。けれどそこには、もう少年の姿はなく、まるで世界が光を取り戻した瞬間に、彼を亡き者にしたのではないかと思うほどに、私の目の前から居なくなっていた。


 それは決して、私の見ていた夢や幻なんかじゃない。確かに、拘束された糸の擦れた跡があるし、逃げてる途中で負った傷もある。何より彼に触れて、温かいと思った感情も体温も憶えている。


 なのに世界は、家族は、「走って転んだんだね」と母は一蹴し、「せっかく来たのに日食が見れなかったのは残念だな」と父は私の話を夢の中の出来事と片付けた。


 その扱いにすごく落ち込んだが、兄だけは「居たんだな。いつかお礼をしたいものだ」と信じてくれた。


 いつか、あの少年に会ったときにはしっかりお礼をしよう。


 そして、あの日のようにもう一度――――私を救ってほしい……。

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