8. 私が居なくなって
家を出発してからしばらくすると、馬車は最初の町に差し掛かった。
ここはバードナ伯爵領で一番栄えている街で、お義母様がよく宝石を買うために訪れている。
だから、お義母様に見つかって連れ戻されないか心配になってしまった。
「エリシアは軽く変装していこう。
雰囲気が今までと変わっているから気付かれることは無いと思うが……念のためだ」
「この帽子だけでは心許ないかもしれませんが、万が一の時はしっかりお守りします。
こう見えて、一通りの武術は嗜んでおりますので」
つばの広い帽子をイリヤさんに手渡され、深く被る私。
上の方が見にくいけれど、これなら顔が隠れるからお義母様に遭遇してもやり過ごせると思う。
……今の私は自分でも見間違えそうなくらい雰囲気が別人のようになっているから、あまり心配はしていないけれど。
用心はしておいた方が良いよね。
「エリシア、昼食はここで良いだろうか?」
「はい! ここ、すごく美味しいと聞かされていたので、良いと思います!」
「聞かされていた?
エリシアは食べられていないのか?」
「私はお義母様達が美味しそうに食べているところを見ることしか許されていませんでしたから、どんな味か気になっているのです」
「それは辛かったな……。
もしエリシアの義母が手を出そうとしても、俺達で護るから安心して欲しい」
「ありがとうございます!
もうお腹と背中がくっついてしまいそうなので、早く入りましょう」
お金のことは気にしなくて良いと言われているから、心配せずにレストランの入口に向かう私。
ライアス様は私の後をすぐに追ってくれている。
中に入るとすぐに給仕の方が私達を出迎えてくれる。
「個室でお願いします」
「畏まりました。何名様でご利用でしょうか?」
「二十三人で」
「畏まりました。
お部屋が少し窮屈になってしまいますが、それでも宜しいでしょうか?」
「構わない」
「それでは、お部屋の方にご案内致します」
給仕さんの案内で、何度も見た事がある部屋へと案内される私達。
それにしても、ライアス様が護衛さん達の分の席も個室にするなんて思わなかったから、少し驚いてしまった。
「流石にこの人数だと狭いな。エレシア、狭かったら言ってくれ」
「これくらい大丈夫です。
それよりも、護衛さん達が窮屈そうなので、もう少し詰めましょう!」
「エレシア様、俺達のことは気にしないで下さい!
俺達は男同士なので、当たっても問題ありませんが、エレシア様とライアス様では大問題になりますので!
おい、お前達もっと詰めろ! エリシア様とライアス様が窮屈にされているぞ!」
「おい、お前もう少し痩せておけ! 一人で二人分の幅があるのは流石に邪魔だ」
「これ筋肉だぞ! 文句言うならお前は立ってろ!」
「よし分かった、お前の前に立ってやるよ!」
……なんだか騒がしいけれど、護衛さん達の仲は良さそうだから、安心してみて居られる。
でも、気が付けば私とライアス様の周りは両手を伸ばせるくらいの余裕が出来ていて、申し訳ない気持になってしまう。
イリヤさんはというと、護衛さん達のことを呆れ顔で見ている。
年齢を聞いたことは無いけれど、イリヤさんはお義母様と同じくらいの歳だと思うから、ここに居る若い護衛さん達のことは子供のように見ているのかもしれない。
でも、お互いに信頼し合っていることは見ていれば伝わってくる。
「もうすぐ料理が来るだろうから、全員座れ」
「「はいっ!」」
ライアス様の言葉で護衛さん達は一瞬で静かになって、それから間もなくお皿だけが運ばれてきた。
一緒疑問に思ったけれど、すぐに大きなお皿に盛り付けられている料理も運ばれてきたから、安心して待つ私。
今日は人数が多いから、大きなお皿から欲しい分だけ取れば良いみたい。
これなら一人分も食べられない私でも安心して楽しめそうだ。
「ライアス様、お先にお取りください!」
「ありがとう。
エリシア、先に取って良い」
「えっと、私はあまり食べられないので、最後でも……」
「それは駄目だ。彼らは一切残さずに食べてしまうからな」
「そ、そうなのですね……。
それでは、お先に頂きます」
そう口にして、私が食べきれる分だけをお皿に取る。
私が取り終わるとライアス様も普段の量を盛り付けて、それから護衛さん達が順番に取っていった。
私が取ったのは、小さめのハンバーグとサラダにスープだけ。
立派なステーキは食べきれないから、今日は諦めることにした。
「「いただきます」」
まずはハンバーグを小さく切ってから口に運ぶ私。
説明は難しいけれど、すごく美味しいと思う。
ハンバーグだけだと少し味が濃いけれど、サラダと一緒に食べると丁度良い。
スープの味は控えめだけれど、具が沢山入っているから、もっと沢山食べられる人なら満足できると思う。
私は……少し無理して食べているから、最後の方になるとスープはあまり美味しいと思えなかった。
もっと沢山食べられるようになったら、きっと最後まで美味しいと思えるはずだけれど。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「「ごちそうさまです」」
私が食べ終わると、私の何倍も食べていたはずのライアス様や護衛さん達も食べ終わったみたいで、そんな声が次々と聞こえる。
それから少し間を置いて、クラウス様がこんなことを口にした。
「あまり長居している時間は無いから、そろそろ出よう。
エリシアは満足出来たか?」
「はい! でも、少し食べ過ぎてしまいました」
「そうか。もし具合が悪くなったら、すぐに言うように」
「分かりました」
そんな言葉を交わしながら、レストランを後にする私達。
けれど、レストランを出てすぐに、見たくない顔を見つけてしまった。
「ライアス様、あの三人が……」
「分かった。一応、怪しまれないように堂々としていよう」
お義母様達は最初こそ私達のことを気にしていなかった様子だけれど、クラウス様と視線を合わせると、こちらに真っすぐ向かってきてしまった。
「ごきげんよう、ライアス王太子殿下。わたくしの領地にいらっしゃるのでしたら、連絡して頂ければご案内しましたのに」
「案内は必要無い。アイシューヴ殿から、エレシア嬢が行方不明になっていると聞いて、捜索に来ているだけだ。
貴女は随分と余裕そうだな? まさかとは思うが、自らの手で危害を加えたのではないか?」
「義理とはいえ、大切な娘にそんな事するはずありませんわ!
あの子が居なくなって、私達は本当に大変ですもの。お屋敷の仕事がほとんど回らないから、早く見つけないといけませんのに……」
少しだけお義母様の目を見てみたけれど、視線は一切泳いでいないから、隠し事は下手ではないみたい。
……ここに私が居て、事実は全てライアス様に伝えているから、隠すだけ無意味なのだけど。
それに、私が居なくなって大変なことになっているみたいだから、もやもやとした気持ちが少しだけ晴れた気がした。
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