第15話  戦場の記憶を活かす

「こんな格好で出迎えてすまないね、カムイ先生! モカ殿から連絡は受けているよ!」


 俺たちが屋敷に入ると、椅子に座った状態で、額を氷で冷やしている虎獣人の女性がそう言って出迎えてくれた。


「声は元気そうだね、メイメルさん」

 

 牧場の主であるメイメルだ。

 声は大きいが、若干、肌の血色が悪そうに見える。


「まああいさつは基本だからね。それで、新人の店員さんと一緒に来るって話だったが、そっちの娘ちゃんが店員さんかい?」

 

「うん。そうだよ。そういえば、この前送ってくれた野菜は、この子達とおいしくいただいたよ」


 後ろのスノウとリリスもコクコクと頷くと、メイメルはニカッと笑った。


「それはよかった! モカさんを含め、ウチは薬屋さんにはお世話になってるからね。今回もまあ、お世話になるわけだが」

 

 頭を冷やす一環か、テーブルの上に盛られた氷をバリバリかみ砕いているメイメルはそう言って、右腕を見せてきた。


 牧場作業で鍛えられた腕には、やや白く盛り上がった傷跡が三本見えた。 

 

「それが今回ベノムウルフにやられたところかい? 回復魔法は受けたんだよね?」


「ああ。お陰で傷はふさがってるよ。ただ、この通り、客人を出迎える際にも立ってられないありさまでね」


 メイメルはそう言って、テーブルをつっかえにして立ち上がろうとしているが、足元はおぼつかない。


「毒が残ってるのかも、とは思ったが、ウチにかけてくれた人は浄化しているとも言ってたし。回復魔法を受けた経験が少ないから、なんでこうなってるのか分からんのさ」


「なるほど。戦場にでもいる人とかじゃないと、頻繁に回復魔法のお世話になることも少ないからね」


 そもそも回復魔法使いというものは、そこまで数がいるわけでもないし。街から離れた場で、医者などが対応できないところで活躍することが多いし。

 

「とりあえず診察させてもらいたいんだけど、触れてもいいかい?」


「おう? どういう診察か分からないが、任せたよ」


「では失礼して」


 そう言って、俺は、メイメルの腕をとり、口づけをするように顔を近づけた。すると、


「おいおい、先生。情熱的にがっつくのは嫌いじゃないが、いきなりすぎるぜ。後ろの娘ちゃんたちが顔を赤くしてるぞ」


 見れば、確かにそんな反応をしているが、

 

「はは、これは診察だからね。ベノムウルフの毒が体内に残っている人は、総じて僅かな甘い香りを発するからね」


「だから嗅いでいるのか。喰らった時は、ウチの鼻だと、甘い匂いなんてしなかったが」


 メイメルは虎の獣人で、嗅覚は人よりも鋭い。けれど、

 

「毒を食らったばかりだと興奮しちゃうし、本当に僅かな香りだからね。……といっても、俺の鼻でも感じ取れないから、浄化は間違いなくされてるね」


「だとすると、このふらつきは?」


「ふむ……何か変わったことは?」


「無性に氷を食べたくなるとかかな。今も頭を冷やすための氷とか、たまにつまんでるんだよ」


「それは昔からではなく、負傷してから?」


「そうなんだよ。なんか止まらなくてね」


 メイメルの言葉に、俺はふと思い当たるものがあった。だから、


「だとしたら、多分、貧血だろうね」


 診察の結果を伝えると、メイメルは目を見開いた。


「血が足りてないってことかい?」


「うん。血が足りないと、氷を食べたくなる症状は、時折見られることだから」


「そうなのか……。傷を負った際も、そんなに出血はしなかったんだが」


「正確には足りないのは栄養も、かな。回復魔法の効果に自己治癒能力の強化があるんだけど。それで傷はふさぐ際に、血液や体に蓄えていた栄養を使うことがあってね。それで、血を作る分が足りなくなったんだよ」


 戦場でもよくあった事だ。

 重傷を負い、回復魔法で死を食い止めても、栄養不足によりダウンする。生き残ったという高揚感もあり、気づけない人がそれなりにいた。


「肉体を一時的に強化もするから。魔法が掛かった直後は比較的元気なんだけどね」


 回復魔法を受けても、負傷は負傷だ。正常時から、何かが削れて失われている。その分の埋め合わせは、どこかで行われているのだ。


「ふうむ。先生、薬屋なのに回復魔法にも詳しいんだなあ」


「まあ、職業柄、人を治す、という点では同じだからね。魔法の得意不得意、薬の得意不得意を知っておくと、こうして対応もしやすいしさ」


 俺は言いながら、持ってきた薬箱から、いくつかの錠剤と薬剤入りの瓶を取り出す。


「これが栄養剤と造血能力を高める薬だ。即効性もあるから、これを飲んでみてくれるかい?」


「おう。頂くよ」


 メイメルは、こちらから渡した薬類を、一息に豪快に飲み込んだ。そして、目を瞑って、十数秒、


「おお……なんだか元気が出てきたよ……!」


 そう言って、立ち上がった。

 

 先ほどまでよろよろと座っていた様子が嘘のように。


「わ、私の知ってる薬とは違う気がします」


「ええ。即効性って言っても、こんなに早く効くなんて……」


 後ろでスノウやリリスが驚いているが、

 

「俺の調合した薬は、そう言うのがウリだからね。君たちに飲んでもらった時もそうだったろう?」


「確かに……そうでした」

 

「あれだけが特別ってわけじゃなかったのね……」


 勿論、遅く効く薬も作れはするし、人によってはそれを処方するが。今回の件は、即効性があった方が早く楽になれるし。

 

「おお、凄いぞ、カムイ先生。今日にも牧場仕事に復帰できそうだ!」


 メイメルはそんなことを言って、力こぶをアピールしてきていた。

 血色も良くなっているようで。元気になってくれたようだ。

 

「まあまあ。病み上がりなのは間違いないし、一応、今日は様子を見てくれ。何かあったら、連絡一本で飛んでくるからさ。街に来てもらってもいいけどね」


「ああ。何かあったらそうさせてもらうが、ありがとうよ、先生! 代金、持ってってくれ!」


 そう言って、メイメルは銀貨の入った袋をこちらに渡してくる。さらには、


「こんだけ元気があったら、今日依頼した冒険者たちに謝礼を払うついでに、メシも振舞えそうだ。ついでに食っていきなよ!」


「おお、良いのかい?」


「当然さ。後ろの新人ちゃんたちは、苦手なものはあるかい?」


「特には、ございません……」


「アタシも。なんでも食べれる、と思う」


「そうかい。じゃあ、腕によりをかけて作るから待っておきな!」


 そうして、メイメルは元気よく台所に向かっていく。

 とりあえずではあるが、竜の新人二人を連れた初めての出張は、上手く行ったようだ。

――――――――

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