第5話 ~小宮 沙智 side~

「あれ?小宮じゃん」

 急に声をかけてきた主は、真田くんではなかった。声をかけてきた、不敵な笑みをうかべる中肉中背の男子の他に、モデル並みの高身長で金髪ポニーテールの女子、小太りで前髪をぱっつんに揃えた男子がいた。

「ほんとだ。元気〜?なんかちょっと垢抜けたねぇ。」

 ポニーテールの女子が、長い爪を私のおでこに押しつけて言う。

「や、やめて…」

 嫌な記憶が蘇る。この子は先生が見ていないことをいいことに、トイレで私の髪を引っ張ったり、この長い爪を皮膚に突き立ててきたりしたのだ。

「えーやだぁ〜なぁんにもしないっつーの。ほんとあんたって自意識過剰だね。」

 体が勝手に震える。言い返さなきゃ。このまま黙っていたら、あの頃と変わらない。

「…やめて!もう話しかけないで!!」

 咄嗟の大声に、周囲の人々が一斉にこっちを見る。ちょうどその時、両手にりんご飴を持ち、こっちに歩いてくる真田くんと目が合った。こんな情けない姿は見せたくなかったのに……。と思った瞬間、真田くんはもう、私の目の前まで来ていた。いじめっ子たちも逃げたのだろう。もうその姿はなかった。


「なんだよあいつら!許せない!小宮さんはこんなに優しい人なのに…っ」

 真田くんがこんなに激昂しているのを見るのは初めてだった。私のことで、そんなに怒ってくれるの…?

「ご、ごめん…怪我はない?」

 何かに気づいたようにはっとして、真田くんは私を見た。そのに見つめられると、なぜか心の内を言い当てられたような気持ちになる。けれども依然、震えは止まらない。膝からガクッと崩れ落ちた。


 その時、誰かが身体ごと支えてくれる感触があった。支えてくれるというか、抱きしめてくれる感覚。目が合う。この人の瞳は、やっぱりずるい。震えていた心と身体が、だんだんと落ち着いていくのがわかった。

「大丈夫。大丈夫だよ。」

「ごめん、ごめんね……」

 情けない。

 恥ずかしい。

 自分なんて大嫌いだ。

 涙が滲んできて、顔を上げることもできず、私はただごめんと謝ることしかできなかった。

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