どマイナースキル☆鍵師のおしごと~オレの子どもたちが持ってくる仕事が厄介すぎる!~

ちさここはる

第零章 女神カップ=ヌゥダールの戯れ異世界転移試験体の少年の悲劇

第1話 道民、神様の試し召喚で異世界転移に遭う。

 年が明けた北海道の一月。風雲急を告げた天気予報はまさかのど命中。

 初詣をするために、神社へ歩いて向かっていた十四歳のオレは、運悪くホワイトアウトに遭ってしまった。

 


「どうして、オレなんかが」



 高校受験の合格祈願に行っただけが――



「妖怪バックベアードめ!」


「鍵師? どうかしたの?」


「! なんでもないですっ、すいません!」



 ホワイトアウトを抜ければ、ゲゲゲのアニメで見たことがある妖怪、バックベアードが耳を疑う言葉をオレに言い放ったのだ。


 ***

 


『異世界召喚は簡単だな』

 


 ***



 誰を呼びたかったのか、オレは知らない。

 でもクソ野郎が試しに異世界召喚を行って、偶然にも呼び出されたのは、十四歳で高校受験を控えた中学生に過ぎない、オレだった訳ですよ。

 

 もちろん、帰りたいことを伝えましたよ。でも、バックベアード自身が召喚を初めてやった行為ということもあって、元の世界へと帰す方法を知らないと言い張った。


 つまり十四歳のオレは、異世界で生きていくことが確定した訳だ。


 だから、ムカっ腹のオレもバックベアードのクソ野郎に条件を提示したんだ。


 まずは、異世界で生活と食うことに困らない能力を寄越せと言ったら、野郎は褐色肌の女性教師ばりにリクルートスーツが似合う女の容姿に変わった。



 クソ野郎オンナは自身こそが異世界の女神、カッ〇ヌード〇と名乗る。



「それで、金庫は開けられそうなのかい!」


「もちろんです」



 クソ野郎は、オレに三つの能力をくれた。オレが可哀想だと、逆撫でるクソ野郎の言葉に叩き殴りたくもなったよ。

 

 

 一つ目は――【言語変更転換能力】だ。


 これは異世界の全種族の言葉が全て日本語訳で、文字なんかも読み書きが可能となった。これは本当に役に立ってくれている。


 二つ目は――【開閉能力】だ。


 これのおかげでオレは【鍵師】として開業、いい生活じゃないが飢えることもなく、苦しいが生きて来られた。これは、どマイナー能力の一つらしい。


 そして、三つ目は――【神の祝福】で、カッ〇ヌー〇ルの名前を困った局面で、名前を使うことで手伝って貰っている。


 クソ野郎の名前は絶大で、どんな神も協力的だった。

 金庫の守護神さえも屈しさせるほどに強力な呪文の言葉だ。



「《カッ〇ヌー〇ルの名において命ず!》」



 十四歳から二十五歳。


 たった一人、異世界で生きて来たオレにも精神的な限界が来た。早く旭川に帰りたい、ということが頭の中にいっぱいで、それしか考えられなかった。


 これ以上は無理だと、もう死んでしまおうと思った。


 でも、その前に酒場で死ぬ気で、いつもより倍以上に呑んだ。


 いい気持ちになって、どうでもよくなったオレは、へべれけと千鳥足で身体もふらふらだった。


 建築の神に建てて貰った山の麓の家に帰る為、路を短縮しようと、たまたま通ったゴミ捨て場で黒い毛並みをした子猫と出会う。


 旭川の家で猫を飼っていて、懐かしさで拾ってしまったんだ。


 ぎゅうと小さな身体を抱き締めると、さらにどこからか赤ん坊のか細い泣き声が聞こえてきた。


 慌てて周辺を見渡して確認をする。

 まさかという気持ちだ。


 子猫をジャケットのポケットに押し込んで、ゴミ箱を荒して探した。


すると壁とゴミ箱の間に段ボールがあって、それが小刻みに動いていた。


 恐る恐ると中を開けるとタオルケットに包まった赤ん坊が見えたことで、一気に酔いも醒めてしまう。


 異世界も旭川と同じ様に真冬の時期だった。しかも、ここは路地裏で人の通りもほとんどない。


 多分、オレが見て見ないふりをしたら――きっと、この赤ん坊は死んでしまうだろう。


 小さな命を無視できるほど、オレは強くなんかない。



「《開っっっっ錠!》」



 拾った赤ん坊は人の成りをした妖精種族の血を引く女の子だった。


 さらに、子猫だと思ったのが実は、獣人と人の間に産まれたことも、ことわりの神によって聞いて発覚する。


 つまり、オレは二十五歳で、二児の父親になってしまったということだ。この異世界で義家族が出来たということでもある。


 育児は大変で、何回も匙を投げて、もう無理だと、二人共施設に送ろうかと悩んだ時期もある。それを、大勢の神々に咎められ考え直した。


 十三年間、オレの育児に協力してくれた神々に感謝だ。子どもたちも十三歳で成人して、巣立って行った。嬉しい反面、寂しさが――今はある。


 十四歳だったオレは三十八歳のおじさんになった。子どもたちと出会えてことが転機だったのかもしれない。恐らく、出会っていなければ今頃、首を吊っていただろう。


 

「金庫、開きましたよ」



 オレは窪谷ショータ、三十八歳。

 異世界でどマイナー開閉能力を使い、鍵師で生計を立てる男。

 


「では、報酬を頂けますか」

 


 異世界なんて、一度も憧れたことがない人間だ。

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