爆弾魔の最期の恋
のう
爆弾魔の最期の恋
ムシャクシャした。全てがどうでもよくなった。
たったそれだけの浅はかな理由で作ってしまった爆弾をリュックにしまって、ある日の夜、僕は電車に座っていた。
ぎゅうっと抱きしめたリュックの中から、コチ、コチとかすかにタイマーが進む音がする。緊張感で、ぐっと息が詰まる。
人を殺すには十分だが、大規模テロを起こすには小さすぎる爆弾。
――これで今乗っている号車を爆破して、死ぬつもりだった。
衝動的につくった計画だったが、別に悔いはない。
自分の命も、たまたま自分と同じ号車になってしまった人の命も、心からどうでもよかった。
僕の心臓は、驚くほどに静かだった。
――だけど爆発の約三分前。
一人の女性が僕の目の前に座った。
控えめな雰囲気の、黒髪の美少女。大きな瞳に、愁いを帯びた表情。
……正直、めちゃくちゃタイプだった。
顔がぼっ、と熱くなる。息を吹き返したかのように、ばくばくと鳴る鼓動。
まずい、これは、疑いようもない。
――恋だ。僕はこの最期のときにひとめぼれをしてしまったのだ。
自覚をすると同時に、焦りが募り始める。
止めることのできない設定の爆弾に、手に汗がにじんでいく。
これが爆発するまで、後残すところ一分弱。
……いったい。いったい、どうすれば。
――20**年 *月*日 21時53分。 **線5号車が爆破された。
死者3名(犯人を含む)重体1名 軽傷5名が確認されている。
なお、証言によると、犯人は爆発の1分前に、3号車から5号車まで走って移動した模様。
理由ははっきりとはわからないが、3号車にいた女性の手に、犯人の手書きとみられる、とても短いメモが残されていた。
「すきです。ひとめぼれしました」
爆弾魔の最期の恋 のう @nounou_you_know
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