密室勇者殺人事件

ハシモトレオン

第1話人類の希望

魔族と人類は500年もの間戦争を繰り広げていた

魔族と人類は拮抗しているように思えたが人類は疲弊しきっていた

だが人類は希望を失っていなかった

それは勇者がいたからだ

巫女の予言により存在が判明した勇者は20年もの間人類の希望となり続けていた

そして勇者ダニエルの20歳の誕生日に勇者は魔王討伐の旅に出る

「勇者ダニエルよ、貴殿は魔王を討伐し人類の希望となることを誓うか」

国王が威厳ある喋り方で勇者に問いかける

「はい、誓います」

勇者もまた威厳ある喋りで返事をする

「よろしい、では貴殿とその仲間達に巫女から祝福を授けよう」

「まずは勇者ダニエル」

ダニエルは国王に呼ばれると巫女の前に跪いた

「あなたに祝福を」

巫女がそう囁くと勇者は淡い光に包まれる

「次、魔術師ニーナ」

ニーナは茶髪の女性で魔術学校を首席で卒業した天才だ

「あなたに祝福を」

祝福を受けている間ニーナの横顔は少し複雑そうだった

「次、弓使いシロン」

シロンは白髪の男性で元狩人このパーティーで最年長だ

「あなたに祝福を」

祝福を受けている間シロンは静かに祈っていた

「次、僧侶エリナ」

エリナは金髪の少女でとても美人だ小さい頃から教会で僧侶をしていて女神と一部の人から崇拝されている

「あなたに祝福を」

祝福を受けているエリナのはとても美しかった

「次、槍使いエレン」

やっと俺の名前が呼ばれた

俺は人類を救うために今まで槍を磨いてきたんだ

俺がみんなを救ってやる

「あなたに祝福を」

祝福を受けている間俺はそう息巻いていた

「皆、祝福を授かったな今日は休んで明日朝イチで出発する」

少なくともこの日までは人類は希望を持っていた

俺もみんなを救うと息巻いていた

だがこの日人類は希望を失った


その夜自室で勇者の遺体が発見された


ダニエルの訃報を聞いてすぐに俺たちはシロンに集められた

「全員集まったな」

シロンもそうだか他の二人の顔もひどくやつれていた

「皆聞いていると思うが、先刻ダニエルの遺体が見つかった」

ニーナやエリナは信じられないといった表情だったがシロンは淡々と話を続ける

「死因は刃物で首を切られたことによる失血死だ、そして凶器として使われたナイフにダニエルの指紋が検出されたそして祝福以外に魔術がかけられた痕跡も見つからなかった、今回の件はおそらく自殺だろう」

「そんなはずないわ‼」

シロンが話を終える前にニーナが強く否定する

「彼は人類の希望なのよ、そんな彼が自殺なんてするわけがないわ、きっと誰かに殺されたのよ」

涙ぐみながら激高するニーナに対しシロンは苦悶した表情を浮かべていた

「今回の件は自殺だ、自殺じゃないといけないんだ」

「いったい何故」

「今回の殺人は密室で行われた、密室殺人を実行するには魔術師の透過魔法が必要不可欠だ」

「何が言いたいのよ」


「君しかいないんだよニーナ、透過魔法を使えて勇者を殺せる実力を持つ魔術師は」


「2人とも落ち着け」

俺は一触即発状態となった2人を止めるべく2人の間に割って入る

「そうですよ、落ち着いてくださいまだ他殺と決まったわけではありませんもっと話し合いましょう」

エリナもそう2人に呼び掛ける

「私、部屋に戻るわ」

そう言うとニーナは足早に部屋へ戻っていった

残された俺たちの間には居心地の悪い空気が流れていた


「あんな言い方をしたらニーナが怒るのも当たり前だ、一緒に謝りに行こう」

俺はシロンを諭し一緒に謝りにいくことを提案する

「いや、今行ってもまた口論になるだけだ少し頭を冷やしてくる」

そう言うとシロンも自室に戻ってしまった

「私はニーナの方へ向かいますのでエレンはシロンの方に行ってあげてください」

エリナはそう告げるとニーナの部屋へ向かっていった


俺はシロンの部屋の前に立ち扉をノックする

「シロン、少し話をしないか」

しかしシロンからの返事はなかったが扉には鍵がかかっていなかった

中に入り部屋を見渡すとシロンが部屋の角でうずくまっていた

心配して駆け寄ったが何かあったわけではなく、ただ落ち込んでいるだけだった

「シロン、もう一度ニーナとしっかり話し合わないか?」

そう問いかけるとシロンは独白するように話し始めた

「俺はいつもそうなんだ、他人の気持ちがよく分からないから分からないうちに人を傷つけてしまうだから周りから人がどんどん離れていくんだ...

ダニエルだけだったあいつだけが俺から離れなかったし、あいつだけが俺と皆を繋いでくれた、あいつがいなくなったら俺はもうダメなんだ」

そう話すシロンの表情はとても弱々しかった

「ダニエルはもういないから新しく仲間を作るのは難しいかもしれない、けどダニエルが繋いでくれたものはまだ残っている」

俺がそう諭すとシロンは決心したような表情を浮かべた

「きゃあぁぁぁぁぁ」

城中に響き渡るほどに大きな悲鳴がニーナの部屋から聞こえてきた

俺とシロンが急いで駆けつけたが

ニーナは首を切られ血を流しながら死んでいた


ニーナの死体の横には血の着いたナイフが落ちておりダニエルが死んだときと同じ状況だった

この事件が他殺だということは火を見るより明らかだった

「何か手がかりになるものがないか探してみよう」

俺はそう提案したがシロンはニーナの死にうろたえていて返事は返ってこなかった

ニーナの部屋を調べていると、死体の横に血で

"魔術"

と書かれていた、これはおそらくダイイングメッセージだろう、何故犯人の名前ではなく"魔術"という単語だけなのだろうか考えられる線は3つ

1つ目は、犯人にバレないように名前を書かなかった。これは違う魔術という単語だけでも消される可能性は高い

2つ目は、まだ書いている途中だったということ、

これもおそらく違う、ニーナほどのやつが先に名前を書かないミスをするとは思えない

3つ目は魔術で殺されたが相手が誰か分からない

おそらくこれが正解だろう、しかしニーナほどの魔術師を殺せる実力を持つやつなどそういないしかも魔術をかけるタイミングがない、魔術をかける実力とタイミングその両方を合わせ持つのはあいつしかいないだろう


ダニエルとニーナを殺した犯人が分かった俺は、もう一度皆を集めた。

「ダニエルとニーナを殺した犯人が分かりました」

俺がそう言うと皆固唾を飲んで話し出すのを待っている

「2人を殺した犯人は、あなたですよね巫女さん」

俺がそう巫女に告げると皆驚愕した表情を浮かべていた

少し間を置いて巫女が口を開いた

「何故そう思われるのですかエレン様」

そう語る巫女は自信に満ち溢れていた

「ダニエルの殺人現場は鍵がかかっていて密室だった、その状態で殺人を行うには魔術が必要不可欠だ、だから最初はニーナが犯人だと疑われただがニーナも殺された、ニーナの殺人現場からは"魔術"というダイイングメッセージが見つかっている、これは魔術によって殺されたということを表している、そしてこの情報から導き出される答えはこうだ

まず巫女が俺たちに祝福を送るタイミングで魔術を掛ける、そしてダニエルが自室に戻った時点で魔術を発動し自分の首をナイフで切らせるそうすることで自殺に見せかけ掛けた魔術も祝福ということで誤魔化せる、これが君が使ったトリックだ」

俺がそう言い終えると巫女はクスクスと笑っていた

「名推理ですねエレン様、そうですよ私が犯人ですバレてしまいましたがもうよいでしょう勇者パーティーを2人も殺せましたからこれで魔王様のお役にたてたでしょう」

巫女は言い終えるとナイフを取り出し自分の首をかき切った



ダニエルとニーナが殺されてから1週間がたった、俺たちは魔王討伐に向けて旅を進めていた、2人のいない旅はつらく苦しいものだけど頑張らなくてはいけないだって俺たちは


"人類の希望なのだから"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

密室勇者殺人事件 ハシモトレオン @hasimotoreon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ