乱入

「離せよ! 奏斗!」


「君が動いたら、事態がややこしくなるんだ」


 この均衡状態は、解かれてはいけない。

 今の均衡状態は、互いに無言で結ばれた契約だ。


「奏斗くん。君たちが危害を加えないのなら、僕の情報の知ってる全てを話してあげよう」


「じゃあ、契約成立かな。颯太君、香織ちゃんを、この島のみんなを助けたかったら、みんなを連れて家に帰りな」


「なんで、どうしてだよ! 俺は、そいつを殺さないといけないんだ」


「葵は、死んでいない。ここでこいつを殺したら、キミは島民の多くを殺した大犯罪者になっちゃうよ?」


「さすがだね、奏斗君。よくわかっている」


「その君付けやめろって」


「どういうことだよ、説明しろよ!」


「簡単な話、ラスボスは紫苑じゃない。むしろ紫苑は味方だった。でも、ラスボスに仕立て上げられたんだよ。……今の君には理解できないだろうね」


「香織ちゃん! こいつ頼んでいい?」


 灯台の扉の裏に、香織ちゃんがいるのは分かっていた。

 危険かと思って、颯太は待機させていたのだろうな。


「ここから先は、大人の仕事の時間だ」


「奏斗さん、葵のことお願いします……」


 俺は黙ってうなずいた。

 香織ちゃんは、颯太を連れて灯台を離れた。


「葵、目覚めてるんだろ」


 人気を感じなくなったころ、葵の頬を叩く。

 すると、唸りながら彼はその目を開いた。


「俺、腹撃たれてるんだけど?」


「んなもん知らん。島の一大事だぞ」


 葵はその責任感から、無理矢理体を起こした。


「もう、話していいかい?」


「どうぞ」


「アセビの治療薬は、最後の一つになった」


「その最後の一つは⁉」


「僕が今持っている」


 紫苑は歩いて、葵の前で立ち止まる。


「約束だっただろう? 最後の一つは僕が守っておいてあげたよ」


 葵は紫苑から薬瓶を受け取った。でも、どこか疑心暗鬼な様子だった。


「……僕が今まで君に嘘をついたことあるかい? やったことは悪化もしてれないけど、それは嘘ではないよね」


 その時、パトカーのサイレンがけたたましく響いた。


「……長谷川。また君は僕の邪魔をするのか」


 激昂。紫苑は長谷川に対し、震えるほどの怒りを示した。


「紫苑様は、この島で私と幸せに暮らすのですよ」


 黒い、影のような不気味な革靴で、ゲシゲシと長谷川の顔を踏み抜いた。血が流れても、抵抗の意志を示しても絶対に止まることはなかった。


「紫苑さん! あなたが今すべきことはそんなことじゃないでしょ?」


 葵の声に、紫苑は笑った。


「そうだね、ごめんね葵君」


 紫苑は走り出し、灯台から飛び降りた。

 灯台の元には警察が来ている。普通に逃げることなんてできない。

 仕方ないことだろう。


 でも、ここから地面までは軽く十数メートルはある。

 着地するにもただじゃいられないだろうな。


 とはいえ、こっちもこっちでめんどくさくなったな。


「お前ら、手上げろ!」


「待って、刑事さん」


「お前、昼のガキ!」

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