慟哭


 灯台は、ゲームでいえばラスボスのいる魔王城。

 ラストダンジョンのような、禍々しい最凶の空気を纏っている。


 心のどこかで、胸騒ぎが収まらない。

 

「香織さん、本当に大丈夫?」


 その空気を肌で感じられる。


「ふぅ……。大丈夫、行こうか」


 俺達は、その一歩を踏み出した。



 コツン、コツン。

 足音は響く。吹き抜けの螺旋階段に。


 心はまだ、ドキドキと音を響かせている。

 

 階段を一つ登るたびに、汗が流れる。

 流れる汗に比例し、緊張感が張り詰めていく。


「この先に、葵が……」


 確証はない。けれど、ほんの少しの可能性があってもその可能性に賭けたい。


 学園で知り合って、まだ少しの付き合い。

 それでも、葵の考えていることは分かる。


「私の為に、無茶し過ぎだよ……。バカ野郎……」


 扉を開けた。そこにいたのは、血に濡れた、葵の姿。


 慟哭は響いた。空気を振るわせて、島中に響くほどに……。

 殺意に満ちた。力一杯に拳を握って。

 

「会話もなしに、いきなり殴るなんてひどいね」


 紫苑のヘラヘラとその不気味な笑顔は絶対に消えない。

 その目に吸い込まれて、感情が奪われていく感覚……。


 心に取り残されるのは、恐怖という感情だけ。


「ちなみに言うと、やったのは僕じゃないよ~。犯人はそこ」


 紫苑が指差すその先に、いたのは長谷川と、ナイフを向けられた香織さん。そのたった一つの行動で、俺の身動きは完全に制圧された。


「もったいないね、あと少しの寿命を短くするなんて」


 でも、それは脅しなんかじゃなくて、明確な殺意をもって振るわれた。心臓に向かって、風切り音が響くほど素早く。


「葵に、よろしくね」


 その時、香織さんはそう言ったように、見えた。


***


「奏斗さん、夜さん。なんで……」


 一時間ほど前に、送られたメッセージ。

 颯太から、灯台に向かう。とだけ送られてきた。


 昼間のこともある。胸騒ぎが収まらないのだ。

 この二人がいるという事実が、胸騒ぎを大きくさせる。


「俺達も呼ばれたんだ、伊織ちゃんは一人なの?」


「はい、さっき颯太から連絡が来て……」


「夜」


「分かってる」


 二人は目を見合わせ、うんと、頷く。その瞬間に奏斗さんが灯台の階段を駆け上がっていった。


「伊織ちゃん、俺達も行こうか」


「はい……」


 私たちが階段を駆ける間も、時計の針は進んでいる。

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