∫ 1-5.過去と再びミライ dt
レイは小学校で同級生からいじめを受けていた頃の夢を見ていた。
いじめっこの一人がレイの百点のテスト用紙を持って逃げている。
それを追いかけるレイ。
いじめっこは裏庭まで行き、テストの答案を破り捨てた。
「お前の父ちゃんのせいでうちの車が壊れたんだ。弁償しろよ。」
つるんでいる仲間も一緒になって言う。
「弁償しろー。」
「ヤクサイの子ー!」
レイはそれに反論する。
「父さんは何もやってない。父さんのせいにするな。」
「じゃあ、証拠でもあんのかよ。お前の父ちゃんがやってないって言う。」
「どうやって天文学者があんなことやるんだよ。真空崩壊みたいな現象をどうやって起こすって言うんだよ!?どれだけのエネルギーが必要か分かってるの?」
心の声が聞こえる。
(あのデータは科学的なデータなんだよ。何で分からないんだ!!)
「はあ?なんだよ。真空なんとかって。。」
「こいつ、ちょっと頭が良いからっていい気になってんじゃねーよ。」
「嘘つきやろーの子供のくせに!」
「やっちゃえー。」
必死に反抗した。父親をバカにされたことが許せなかった。
レイは何度も殴られたが、主犯格の男子の顔面に何度かパンチを食らわせた。
ただ、数人に勝てるわけもなく、ボロボロにやられた。
汚れた服のまま、引き取られた家に帰った。
「何やったんだ。ゴタゴタをこれ以上起こすなよ。」
「そんな服を洗濯機に入れないでよ。泥が他の服に付いちゃうじゃない。自分で洗いなさいよ。」
引き取り先の親の態度は実に無関心なものだった。
後日、その主犯格の男子はお約束のごとく、PTAの会長の息子で学校に文句を言ってきていた。
レイの引き取り先の親が学校に呼ばれ、レイは頭を無理やり押さえつけられて謝らせられた。それでもレイは涙を浮かべながらも謝罪の言葉は発しなかった。
学校からの帰りの自動車の中で、引き取り先の親が文句を言い続けた。
「仕事の途中で抜けて来たって言うのに何だ、その態度は!!」
「本当よ。まったくもう。いい迷惑だわ。」
レイを心配する声は一言もなかった。
家に着くと引き取り先の親が話をしている。
「めちゃくちゃ頭いいってったって金稼いでくるわけでもないし、これ以上面倒見きれないんだけど。」
「じゃあ、どうするってんだよ。」
「あんたが引き取るっていったんじゃない。あんたが責任取りなさいよ。」
引き取り先の両親のケンカが始まった。レイは耳をふさいでじっと堪えた。
次の日、レイは学校の図書館で孤児院のホームページを検索していた。
そして、その孤児院の地図を打ち出した。(携帯も持たせてもらえていない。)
学校の帰り、校門を出たところで立ち止まった。
レイはいつもの帰り道の方向を見た。
ただ歩を進めることなく、じっと見た後、いつもの道とは反対の方向に歩きだした。
歩きだした道の先に夏目ミライがこちらを向いて立っていた。
しばらくこちらを見たかと思うと、夏目ミライは振り向いて歩いていった。
そしてレイは夢から覚めた。
ハッと起き上がると、レイはプログラムを作って、そのまま眠ったことに気がついた。
いつもの通り、流していた涙を拭った。
そしてレイは鏡の時間を見た。まだ六時半だった。
また嫌な夢を見たと思った。普段ならその悪夢を頭の中でリピートしてしまうところだが、この日は最後になぜ夏目ミライが現れたのか気になった。
再び夏目ミライの顔を思い出す。
レイは横のテーブルに置いていたBCDを耳の後ろに着け、掌を自分の方に向けた。
ネットに繋ぎ、夏目ミライを検索する。
(数学の難問を次々解決!若干15歳天才少女、フィールズ賞受賞。
「数学は唯一無二の宇宙言語。世界の理を解き明かしたい。」)
出てきた記事の横には難問を解いて解説している動画も映っていた。
そして、今年、第二新東京工科大学に入学したとの記事もあった。その記事の中に自分の名前もあった。
(夏目ミライに柊レイ。世界唯一無二の数学、物理の天才児が集う。宇宙の真理が解き明かされる可能性も。)
(Mirai Natsume & Ray Hiiragi, world’s Only Math and Physics young PRODIGIES gather: Potential to Uncover the Secrets of the Universe.(夏目ミライに柊レイ。世界唯一無二の数学、物理の天才児が集う。宇宙の真理が解き明かされる可能性も。))
ある男が事務所の奥に構えている席に座り、柊レイ、夏目ミライの記事を表示して、その記事を睨んでいた。
その横には自分の記事もあった。
(Physics: GR Theory that Three forces unified. Within reach? Unified Field Theory combined All froces.(物理関係: 3つの力を統合。GR理論。全ての力を統合した統一場理論完成は目の前?))
その記事をその男は懐かしそうに、そして少し寂しそうな目で見ていた。
その時、記事を見ている男の事務所のドアにノックの音が響いた。
「グレイチーム長。ハリスです。入ります。」
「おう。入れ。」
事務所に男が入ってきた。
事務所に入ってきた男が奥の座席の男に近づきながら話し出した。
「グレイチーム長。先ほど反アンドロイド勢力幹部の逮捕に成功したとFBIから連絡が入りました。これで続いていたアンドロイド不活化事件も解決ですね。またもお手柄です。ご苦労様です。」
奥にいる男が座席から立ち上がりながら言った。
「フンッ、あんな簡単なのをなんでイチイチおれがやらないといけないんだ?どいつもこいつも。。。」
報告に来た男が苦笑いをしていた。
「もういい。下がれ。」
「はい。ご苦労様でした。」
啖呵を切った男がドアから出ていった男を見送った後、再び自分の記事を見ていた。少し過去を懐かしむような遠い目で。
記事を見ていたレイがその横の夏目ミライの写真をクリックして、少しアップにする。
夢の最後に見たミライの顔が思い出される。
レイは気恥ずかしさから、ブルブルっと頭を振り、ウインドウを手で払って閉じた。
なぜ気になるのか分からなかったが、とりあえずその疑問を頭の片隅に追いやった。
気恥ずかしさで思わず、BCDを外し、ベッドの横のテーブルに置いた。
そして、すくっと立ち上がり、服を脱いで部屋の隅に歩いていく。
「シャワー、と乾燥も。」
レイの言葉にセンサが反応しない。
一瞬戸惑ったが、すぐ理解した。センサを全て不在状態にしていたのだ。
仕方がないので、手動で操作する。
最初少ししかシャワーが出ず、少し強くしたらいつもの三倍程度の量が出て、危うく呼吸困難になるところだった。
乾燥も上手くいかず、まだ水が滴っているのに終了し、ガラスの仕切りが取り払われた。
脱いだ服もまだ床に置かれたままだった。
床を濡らしながら鏡の前に掛けられている小さいタオルまで歩いた。
そのタオルで身体を拭いた後、床の服を回収ロボットの近くに置いた。そして、ベッドに歩いていき、ベッドの横に置いたBCDを付けた。
レイの目の前に文字が現れた。
(8時45分 糸魚川教授 訪問、面談)
<あとがき>
本小説に出てくる第二新東京工科大学があるのが、第二新東京市という架空の街です。場所は芦ノ湖周辺を想定しています。
あのアニメでは第三でしたが、あのアニメにも設定としては第二新東京市もあり、それは長野県松本市あたりです。あのアニメではそこが首都となっています。
次話ではちょっと厄介な教授が登場します。
次回、「日本物理界の権威 && 衝突実験 = 違和感」。乞うご期待!!
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