第9編 一人夜道を歩くとき

1 赤色灯


夜道にふいに輝くもの、赤色灯の瞬く光は瞳を刺して意識に届く。わずかな不安と引き換えに心がふっと軽くなる。



2 火の粉


激しく燃える薪から、一つ、また一つと舞い踊る。揺らめく炎がメロディで熱の揺らぎがリズムとなり、火の粉の演舞が開演する。



3 一人夜道を歩くとき


街灯が、照らしだすのはただの道。けれどひどく冷たく感じてしまう。そっと足跡を残してみると、そこだけ溶けた氷のよう。



4 後ろの正面


振り向くと、そこには何も待っていない。ただ空間が広がるばかりで寂しさすら感じてしまう。だからこそわずかな期待で向き直る。



5 迷路


入り口は不気味に口を開いている。入れば最後、抜け出すことはできないだろう。だから壁の外と沿って行く。出口はすぐに見つかった。



6 世界地図


広げた地図はただ白く、何も書かれていない。気まぐれに指を触れると土地の情景が浮かび上がる。それは意識の奥に描かれたもの。



7 カブトムシ


夕方、木の幹に食べ終わったスイカの皮を置いておく。次の日に群がっているカブトムシ。黒光りする外甲は夏の間の宝石だった。



8 ベテルギウスに思いを寄せて


夜空に煌々とベテルギウスがあり続ける。皆にその死を望まれながら、それでも体の芯を燃やし続ける。その終わりを誰が見届けるだろうか。



9 風と共に飛んできたもの


それはノートの切れ端で、描かれていたのは歌だった。誰かを想ったその歌はだれかにきっと届くと思う。きっとお礼の言葉も風と共にやってくる。



10 麦茶


冷蔵庫を開けると冷えたピッチャーが一本あり。茶色の揺らぎが喉の渇きを潤すと、何とも言えない心地よさが体を芯から冷やしていく。

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