第13話
朝起きると、非常に頭が痛いことに気付く。どうやら風邪を引いてしまったようだ。体温計を脇に挟み、熱を測ると三十九度と高熱だった。この様子じゃ今日はパトロールに行けないな。
僕はゆっくりと体を起こすとコップに水を注ぐ。それを一息に呷ると、再びベッドで横になった。学校に電話で休むことを伝え、意識を手放す。
姫宮さん、大丈夫かな……
インターフォンの音で目を覚ます。スマホを見ると時刻は十五時半。かなりの時間眠っていたようだ。僕は身体を起こし、マスクをすると家のドアを開けた。
「えっと、影野くん、大丈夫?」
姫宮さんが立っていた。僕は驚いて思わずよろけてしまう。姫宮さんが僕の体を支えると、家の中に入って来た。
「住所は先生から聞いたわ。大丈夫、影野くん」
「ちょっと風邪引いちゃって」
「看病してあげるわ。だからベッドで横になってて」
そう言うと姫宮さんは僕をベッドまで寄り添うと、優しくベッドに寝かせてくれる。
「キッチン借りるわよ。いろいろ買ってきたから」
「うん、ありがと」
熱を出した時ってどうしてこんなに心細くなるのだろうか。父さんたちは町の安全を見回っていて家にはいないし、僕ひとりだ。だけど、姫宮さんが来てくれた。お見舞いに来てもらえるだけで、どうしてこんなに救われるのだろうか。
しばらくベッドで横になっていると、姫宮さんがお茶碗にお粥を注いで運んできてくれる。
「お粥作ったから食べて。食欲はある?」
「正直あんまりないや」
「なら食べさせてあげるから食べて。少しでも食べないと元気にならないわ」
そう言うと姫宮さんはスプーンにお粥を乗せ、僕の口元に運んでくれる。僕はそのスプーンにぱくつくとゆっくりと咀嚼する。
「美味しい」
薄い塩気が渇いた喉を潤す。姫宮さんはお粥を吐息で冷ますと、僕の口元に運んでくれる。それを僕はゆっくりと口に含みながら、食事を摂っていく。正直、姫宮さんが来てくれなかったら僕は食事を摂らなかっただろう。それぐらい気が滅入っていたし、なんのやる気も湧いてこなかった。
そうして作ってくれた分を全部平らげると、僕は再び横になる。
「冷えピタも貼らなきゃね」
そう言って姫宮さんは薬局で買ってきてくれたのであろう冷えピタを僕のおでこに貼ってくれる。
「気持ちいい」
「なら良かったわ」
姫宮さんが微笑む。
「薬は飲んだ?」
「飲んでない」
「飲まないと。これ薬局で買ってきたやつだからどれぐらい効くかわからないけど」
そう言うと姫宮さんはコップに水を注いで持ってきてくれる。僕はそれを受け取ると、薬とともに飲み干した。
「それじゃあ寝なさい。寝れば治るわ」
「うん、ありがと」
しばらくすると薬が効いてきたのか眠気が襲ってくる。僕はその眠気に身を任せて意識を手放した。
どれぐらい眠っていただろう。目を開けると姫宮さんの姿は無かった。帰ったのだろう。今度会ったら姫宮さんにお礼を言わないと。
体温計を脇に挟む。熱は下がったようだ。体も動く。僕は立ち上がると、ベッドから降りた。
机の上に書置きがあるのを見つける。それを見ると「ゼリーは冷蔵庫」と書かれていた。冷蔵庫を開けると姫宮さんが買ってきてくれたゼリーが入っていた。僕はゼリーを取り出すと開封する。
「うん、美味しいや」
熱が下がったことで食欲が戻った僕はゼリーを食べる。ぷるんとした柔らかな食感が喉を潤す。
ゼリーを食べ終えると不意に電話が鳴った。僕は電話に出ると、切迫した声が響いてくる。
「えっと、影野くんのお宅ですか。私クラスメイトの外崎と言います」
「外崎さん、どうしたの?」
「あ、影野くん? 杏奈ってまだそっちにいる?」
「もう帰ったけど」
なんだか嫌な予感がする。冷や汗が噴き出るのを感じながら僕は生唾を飲み込んだ。
「杏奈、まだ家に帰っていないらしくて。私のところにお母さんから連絡が来て。影野くんのところに行くって言ってたからもしかしたらと思って」
「そうなんだ。わかった。外崎さんは家出たらだめだよ」
「う、うん」
そう言って電話を切る。僕は慌てて家を飛び出した。パジャマ姿だけど着替えている余裕はない。ゼロに変身すると、怪人レーダーを出す。怪人の動きは静かだった。今活動している怪人は全部で三体。この三体のうちどれかが姫宮さんを攫ったのだとすれば。姫宮さんがいつ帰ったのかわからないけど、時刻はまだ二十時。それほど遠くにはいけないはずだ。なら近くの怪人から潰していくのがいいだろう。
僕はそう判断すると全速力で近くの怪人の元へ向かう。
一番近い怪人はすぐに見つかった。だが、姫宮さんの姿はない。僕は不意打ちで怪人を倒すと、次の目標に向かう。
しかし次の目標の怪人も姫宮さんを抱えている様子はなかった。僕は舌打ちすると怪人を不意打ちで倒し、最後の目標に向かう。
最後の怪人は廃墟に逃げ込んでいる様子で、ここに姫宮さんもいる可能性が高い。僕は全速力でその廃墟へと急ぐ。風を切り、稲妻の速度で足を動かした。
廃墟に着くと、僕は慎重に中の様子を窺った。
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