第16話

 少し軽くなった空気に、硬かった秋ちゃんの表情が緩んだ。


「・・・ありがとう、皆」


 迎えに行ってからずっと顔色の悪かった秋ちゃんの微笑みに、俺たちもほっと息を吐く。


「覚悟、か」


 そう呟いた秋ちゃんは、その眼を伏せて笑みを消した。

 そして、再び上げられた双眸には、強い決意を秘めていた。


「っ・・・」


 息を呑んだのは、誰だったのか。


 自分のような気もするし、もしかしたらその場の全員だったのかもしれない。


 それほど、その瞳はとても綺麗だった。


 触れれば壊れてしまいそうなほど脆く、深い哀しみを湛えながら、それでも真っ直ぐと前を向くその強さに、俺たちは魅入られる。


「『秋月 璃依』です」


 その唇から紡がれたのは、何故か自己紹介。


「まずはここから、やり直そうと思う」


 それに逸早く応えたのは、凛太郎さんだった。


「・・・『璃依』ちゃん、か。やっと聞けたね、君の名前。

貴一より先に聞いちゃったから、拗ねられそうだな」


 悪戯に成功したような貌で笑う凛太郎さんは、とても嬉し気だった。


 そこでやっと、その意図を悟る。


 名前が苦手だと言った秋ちゃん。


「璃依」


「茜、ごめん」


 意外に涙もろいらしい緋月姫に、秋ちゃんが苦笑する。


「緋月姫、泣きすぎだろ。ねぇ、り「てめぇらは呼ぶな」」


 この流れに乗ろうとしたヒトに待ったを掛けたのは、言わずもがな野郎だった。


「いいじゃん、名前呼んだって。ってか、そんなこと言ったら大樹は如何なんだよ」


「あれは犬だからいい。お前らは今まで通りで十分だ」


「帝!俺、犬じゃねぇ」


 キャンキャン喚く豆柴を無視して、俺は抗議する。


「本人から許可が下りたんだから、別に帝が口を挟むことじゃないよね」


「そうですよ。呼び方云々で一々嫉妬しているようでは、璃依さんに嫌われますよ?」


 しれっとスマートに名前呼びを成功させた零獅が、ニッコリと微笑む。


 こいつ、美味しいとこしれっと持ってくの上手いよな。


 案の定、眉間の皺を深くして殺気さえ放ちだす帝に、俺も畳み掛ける。


「そうそう。『束縛が強くてマジウザイ』って破局するカップル、結構多いんだよ?」


「中学のツレが、器が小さいって振られたことあったな」


 馨も後に続く。


 それに暫く沈黙した帝の応えは――。


「駄目だ」

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