第31話 最終章 未来を名乗る

秋が深まり、山の木々は燃えるような紅に染まっていた。

稲刈りを終えた田には陽光が差し、村には確かな“収穫の手応え”が満ちていた。


蒼真と茜は、屋敷の縁側に座っていた。

肩を並べるのは、もう当たり前の風景になっている。


そんな静かな午後――


一羽の伝令鳥が、屋敷の庭先へ舞い降りた。

その足には、都からの最終報告を封じた文書が結ばれていた。


護衛がそれを取り外し、蒼真のもとへと届ける。


彼は封を解き、じっと目を通す。

やがて、ゆっくりと息を吐いて――静かに笑った。


「……どうやら、ようやく都も“村の言葉”を理解し始めたらしい」


「え?」


茜が身を乗り出す。


蒼真は文を彼女に見せながら、簡潔に説明した。


「都の旧派勢力による監視は“解除”。

外部の介入を控え、“村の自治は妨げず見守る”という内容だ。

……つまり、“黙認”という形で、俺たちを認めたということだな」


茜は、ふっと息をつき、そして目を潤ませながら笑った。


「……やっと、ここまで来たんだね」


「長かった。でも、全部必要だった。

お前と出会って、村と向き合って、何度も疑われて――

それでも貫いた“共に生きる”っていう選択が、ちゃんと届いた」



その夜、蒼真は村の広場に皆を集めた。


秋の収穫祝いと、もうひとつ――

村の未来に関わる大切な報告をするために。


茜も彼の隣に立ち、村人たちと同じ目線で、広場を見渡していた。


「都より、正式な通知が届きました。

今後、この村の統治については、私・蒼真に一任するとのこと。

皆が守ってきた暮らしは、今後も変わらず続けていけます」


歓声と拍手が、広場に満ちた。


「そしてもう一つ。

……私事ながら、この場でご報告したいことがあります」


蒼真は一拍置いてから、茜の手を取った。


「この村の未来を、私はこの人と共に作っていきたい。

茜と共に、歩んでいきたい。――どうか、皆さんにも見届けていただけたら」


村の誰もが、茜に向かって温かな拍手を送った。


「よう言うてくれた!」「茜ちゃん、ほんまにおめでとうな!」


子どもたちは手を振り、老婆たちは目を拭っていた。


茜は深く頭を下げてから、蒼真にささやいた。


「……ねえ、私、これからどう呼ばれるのかな」


蒼真は少しだけ考え、そして――


「“茜”でいいよ。それが俺の、これからの“名字”だ」


茜は目を丸くしたあと、静かに笑って、彼の腕にそっと寄り添った。



その夜、村の灯りは遅くまで消えなかった。


笑い声、歌声、揺れる火の粉。

そしてその中心には、二人の姿があった。


誰でもない、ただの若当主と、ただの一人の女性。

けれど、世界でたったひとつの、“村の未来を繋ぐかたち”。


静かに、でも確かに――

その物語は、語り継がれていくことになる。


かつて「血」で縛られた一族に、

「信じ合うこと」の強さを示した、蒼真と茜の物語として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蒼月の縁(えにし) 灯月冬弥 @touya_tougetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ