第42話声優編【完】

ヤマダは無料ですからどうぞとくれる。

経済効果をバク上げしているゼクシィだから大盤振る舞いなのだろうが、流石に気が咎めるなぁ。

悩んでいるとジャニクがアイテムボックスから山田にこれやるよ、と石を取り出した。


「ジャニク?それはうちの唯一無二の生物じゃないのかな?石もスライムも今のところ増えてるって報告がないから、減っても増やせないと思うんだけど?」


私は丁寧に、レッドデータに載るのも余裕だと思い込んでいる、うちのスライムモドキをアイテムボックスから取り出すと、フルスイングをかます。

ジャニクの頭にぶち当たると石はスポーンと飛ぶ。


「ジャニク!」


「ええ!今のはお前が俺を激しくぶつからトンだんだろ?」


ぶたれたのにケロ、としてる幼児に山田も周りもびっくりしている。


「絶滅危惧種を軽々しく渡すなんて、大統領にお説教してもらわないとね」


「えーっ」


「あのー、その、石みたいに見える石とスライムに見えるスライムは?」


山田に聞かれて、そう言えば地球には紹介したことなかったな、と思い出す。


「それが、謎なんです」


「謎ですか」


「はい。一応ゼクシィなりに調べ尽くしたんですけど。生物なのか、生物じゃないのかも良く分かってなくて」


「そちらの技術力でも解析が出来ないとなると、地球でも無理でしょうね」


「はい。私達は長年そこにずっと居続けているので、ゼクシィ人以外の住人として昔から親しまれています」


謎の生物を大切に抱き抱える。

尚、フルスイング用の打撲に使用したスライムも大切にしていると豪語する彼女。

星に帰ろうね、などと二つの物体に語りかけていた。

アルメイはなどと供述しています、と内心思っていたが賢いので無言を貫いた。

生物(?)を保護するリーシャは1人で満足至極なので深くは関わらないことにしてある。


「美味しいものもご用意してますので、楽しみにしていて下さい」


本番の収録が終わった後の話も加えて、モチベーションをあげていく。

3人の中で一番食べ物に固執しているリーシャはそれを聞くとパァ、と笑顔を綻ばせる。

2人はやれやれという母と良かったな、という二つの顔をしていた。


(リーシャさんの食への並々ならぬ興味は我が国、ひいては地球にとって、かなりのアドバンテージだ)


山田は慣れない、裏を読むという作業を行いつつ、3人を観察。


「山田さん、なにがあるんですか?」


「先に聞きます?待ちきれなくて手につかなくなるかもしれませんよ」


山田はアニメが宇宙へ飛び出す様を、白昼夢のような気持ちで俯瞰するようになる。


誰にも聞こえないくらいの小声で呟く。


「私達の作品が宇宙の方々に届いているんですね」




本番の収録も問題なく終わった。


3人は心も体も解放される。


「終わった終わった」


「これがあと2回ですか」


「楽しみだね。収録も楽しかったし」


スケジュールに関しては予定通りだけど、セリフが増えたりしてまたきてもらうことになるといったこともあるという説明も受けている。


「さて、どこか行く?」


「この施設をもっと見て回りたい」


ジャニクたちが望むので、山田に伝える。

勿論、構いませんよと許可された。

そういう予定もあるかもしれないと説明してあるのだという。

根回しが早くて凄い。

さすがは地球の外交を任されているだけある。


「いつでも回れますよ。休憩が終わったら行きますか?」


「「今行く〈いきます〉」」


アルメイとジャニクがハーモニーしていた。

相変わらず考えたら即声が出る2人だ。

2人だけじゃなくて、ゼクシィの人達って皆そんな人柄。

山田は予期していたのだろう、ニコニコして頷く。

えー、わたしは休みたいな。

声がで続けてクタクタ。

ゼクシィ人としてのステータスはピンピンしているけど、精神的にならないことをしたのだから疲弊。

休ませておくれよ。

山田にわたしは残って休憩しますと伝える。

山田は出来れば付いてきて欲しいと言う目をしたが、疲れて体がダルイ。

そりゃ、私だって対応したいからついていきたいけど、体がぴくりとも動かない。

本格的に疲れている証拠。


「山田さん、2人をどうにかするコツは、放置することですよ。時間になったら確実に回収されるので安心して下さい」


「ですよね。知ってました」


どうやら既に彼らの集中力の長さを知っている様子。

どちらかがもうやってしまっているな?


「リーシャ、行ってきます」


「なにか見つけたら教えてやるからな」


「うん。今日中に観終わればイイネ」


ここはノラエモンを日々扱っている会社。

彼らが無事に帰って来れるなんて、初めから思ってない。


休憩から1時間、漸く疲れがとれた。

1時間もあれば一度くらい戻ってこれるだろうという思考も、予想も予定通り戻ってこない面々。

化学式カメラをアルメイ達を追跡し、見つける。

どこのブースで停滞しているのかと確かめると、今はノラエモンの大きな原寸大の所で抱きついていた。

そこって、入り口では?

入り口で1時間ということ。


リーシャはアルメイ達のところに向かい、2人の背中を押す。


「ノラえもん、ノラえもん」


「はいはい、進もうか。いつまでもここに居られないからね」


アルメイを買い物カートに乗せる。

ジャニクも。

これはこうなる予測をしていたからこそあらかじめアイテムボックスに入れておいた代物。


「ああ、早い、早いです」


「見たりねえよ」


「ただでさえ昼を過ぎてる時間で閉館する時間になっても離れらんないから。サクサク行くよ」


2人をカートでゴロゴロ進ませブースをテキパキと進める。


「よ、良かった」


山田が小声で安堵していた。

まさかの入り口で1時間居座られるとは思ってなかったのだろう。

リーシャのアドバイス通り放置したらその分山田もそこに居続けねばならない。

かと言って、目を離すわけにもいかない。

SPでもない山田には苦痛でしかなかったろう。


「ほら、もう中間」


カートを動かして遅いけどちゃんと楽しめる速度で前へ進んでいく。


「ほら、映画のパンフレット」


パンフレットをわざわざ持ってきてくれたスタッフから貰い、手渡す。

歴代のパンフレットに、映画関連のグッズ。


「パンフレットです!」


2人はキャワキャワとなり、ぼんやりしていた目をシャキンとさせる。

パンフレットは全ての映画のものもある。

流石に初期はレプリカという。

残ってないよね、うん。

でも、レプリカでもとても貴重であることは確か。

アルメイ達はパンフレットをめくり、読み込みしていた。

それを観ながらわたしも会社の中を見渡す。

パークとかでないから華やかではないけど資料はある。


彼らをカートで流していき、最後まで連れて行く。


「はい、最後」


「あと、20回繰り返してくれ」


「いやもう、わたしの手が壊れるって!」


手の前に足腰立たなくなる。

それに、自分たちで動けば良いといいかけて、本末転倒だったと思い出す。


「ほら、見学は次の機会に回そう。居座り続けると会社の人が困るからか。なんなら映画を詳しく纏めたブースを大統領に提案してみれば?そこじゃ、同じく好きな人とか見つけられるかもよ。同士とか、コミュニティとか」


わたしの場合作者だからコミュが偏るのはアレかなって、あんまり明言してない。

好きなものを好きと既に言っているからこれ以上詳しく言うのも野暮かなあって。

まあ、そういうことだから。

彼らを宥めて、私達は星へ帰る。

帰ると親達がわくわくした顔をして聞きたそうにしていた。

幼馴染の親達も集めて感想や映像を見せて、3家族は盛り上がっていた。

この星の人達は善人ばかりなので仲良く過ごすことも少なくない。

特に幼馴染という繋がりもあって、親達はすこぶる仲が良い。

というより、親達が仲が良くて、アルメイ達と接点を得たのが後と言うべきか。


ノラえもんスペシャルの声優を3回以上やり遂げると、地球で放送された。

地球と大統領が話し合ってゼクシィでも放映されることとなり、私達アニメ布教隊が声優として出演さていることをかなり早い段階で、大統領やリーシャ達は発信していたので、星民達の期待が日々高まる。


「あの、楽しみにしてます!」


「ありがとう。頑張ったから、観てくれると嬉しいよ」


星民=ファンの数であるので、毎日誰かしらに声をかけられる。


「ノラえもんを教えてもらえて、わたしの人生観も変わって、毎日最高です」


という声が聞こえる。

アルメイ達にもファンの人達が話しかけている。


「リーシャ!ほら、貴方の特等席を開けておいたわよ」


「あつあつのポップコーンとコーラもあるぞ」


「今行くよ、父さん、母さん」


3人で今日は年末スペシャルを見る日。

ゼクシィでも年と年の概念があるから、年末の今は皆分かる。

年の瀬に放送されるなんて地球は凄いなと純粋に驚いているゼクシィ民達。

地球じゃアニメは普通の扱いだから。


「ああ、始まったぞー」


父がニコニコと知らせてくる。

わたしが出演しているからいつもよりも嬉しそう。

待ち切れないと親達は前のめり。


「あ、リーシャよ!」


「アルメイくん達の演技が群を抜いてるね」


感想、レビューを早速してくる。

それを親の様な気持ちになりつつ、共に鑑賞していく。

エンディングを観ていると2人がスタンディングしていた。

いつもの光景である。


地球でもスペシャルは放送されていた。

視聴率が凄かったらしい。

特に幼馴染2人の演技がプロ並みとのことで、大変盛り上がっていた。


良かったなあ。

ジャニク達は泣いて喜び、泣いてた。

比喩じゃなく、本泣きしていた。


大統領は大統領で映画化について星民に伝え、最高潮になっていた。

こうして、私達は声優のお仕事を完遂した。

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