十六夜月
それは、紅いウサギの呪いだ、と神社の娘の言葉からこの話は始まった。
紅いウサギが怒り狂っている。
大事なモノを奪われて、だから怒っている。
紅いのはそのウサギの血だ。
痛くて痛くて、泣いて怒っている。
そうしてできたルール。
日が沈んでから外に出てはならない。
星のない月夜は日が沈む前に家の中に入る。
戸締りをしっかりする。
食べ物を供えて、無闇に動物を傷つけたりしない。
「そうすることで普通の幸せを享受できるの」
「普通………」
「町の外の人からしたら、夜出られないのは不便でしょうけどね」
「ないならないで、出なければいいだけだから、慣れれば平気よ」
あっけらかんと彼女は言う。
それから犠牲者はぐっと減った。
その神社の娘を巫女として、紅いウサギを鎮めるための祭事も執り行われるようになった。
そうして、町は平穏を取り戻した。
閉鎖的のようになってしまうが、それでも夜という時間だけが制限されるだけで、
慣れてしまった町の住民たちからすれば、大きな問題もなかった。
何より、子供がいなくなるのでは、という不安から解放され、穏やかに過ごせるのだから、
その決まり事を守るのも当然だった。
ただ、他所からきた人たちは、そんなこと知らないため、よく犠牲となった。
それはとある猟師のように。
それはとある子供のように。
だから、誰もが祈った。
自分の大事なモノが奪われませんように、と。
けれど、誰も知らない。
紅いウサギが何を探しているのかを。
巫女だけが知る。
紅いウサギの探しモノを。
けれど、巫女たちは知りながら何もできなかった。
紅いウサギの大事なモノを誰も用意できないから。
だから、ただ祈った。
紅いウサギの大事なモノが見つかりますように、と。
月は眠る
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