第20話 実戦

 トナカイに似たモンスターは、凛人達を見るや否や、前足の蹄で地を蹴って突進する準備にかかっていた。

 授業の時に合間見えたタウルスのように、こちらへの殺気がしっかり伝わって来る。それに加え、今回の相手は人の管理下にはない野生。相手は加減など知らずに、死ぬまで襲いかかってくるのだ。凛人だけでなく、モンスターが現れた時には第六班はピリッとした空気に包まれた。

 一人を除いて――――。

 無謀にも、天宮寺はゆっくりとトナカイのようなモンスターに近づいて行った。

 恐れなど端から無いのか、身を構えることすらしていないのは余裕からなのか、ただの恐れ知らずからなのか。

 「て、天宮寺くん!さすがに危ないんじゃ――――!」


 「スキル【蹂躙者じゅうりんしゃ】――――スキル内容選択・強魔ごうま威厳いげん

 

 凛人の呼び掛けも無視して天宮寺は自身のスキルを使用。すると、赤黒いオーラが天宮寺から湧き出た。

 その変化をあからさまにモンスターは警戒していた。

 そして一人でモンスターに立ち向かおうとする天宮寺に、瀬野村が聞く。

 「天宮寺!行けるか!?」

 「あ?当たり前だろ。てめえらは見てろ。しゃしゃり出たやつは、諸とも潰す!」

 どちらが狩る側なのかわからない状況のまま、天宮寺とモンスターは向かい合った。

 天宮寺が一歩踏み出た瞬間、雄叫びと共にトナカイ型のモンスターが全速力で突進してきた。

 それに対して天宮寺は、左手の掌をゆったりとしたスピードで前に突き出す。

 あまりに不釣り合い過ぎる対応を見かねた凛人達は即座に魔法を使ってサポートを試みたが、それよりも早くモンスターが天宮寺に接近してしまった。

 その後。

 ドガンッ!という激突音が響いた後、信じられない光景が現れる。

 モンスターは全速力で走って天宮寺に頭突きを食らわせた。

 そしてその頭突きは、意図も容易く天宮寺の左掌で止められていた。

 「くくっ、随分とつまらねえ攻撃だな」

 勝利を確信した笑みを浮かべ、天宮寺は、頭を掴まれ、停止したモンスターを鼻で笑い、更に握力を込める。

 「どうだ、すごいだろう俺のスキルは、」

 瞬間。天宮寺は左手だけでモンスターを持ち上げ、横に投げ捨てた。

 地面に倒れたモンスターを見下しながら、言う。

 「俺のスキル内容の一つ、強魔の威厳はな、一定時間、すべての物理攻撃を無効化させる」

 自身が持つ、凄まじい力を秘めたスキルの内容を開示する。

 聞いていた天宮寺以外の第六班も、その恐ろしいスキルに唖然とした。

 天宮寺の持つスキル内容の一つは、言うなれば魔法やスキルなどの超常的なパワー以外のすべての攻撃を無効化させるもの。

 人一人難なくスクラップにする兵器も、死角からの攻撃も物理的なものなら一定時間は天宮寺にとっては全て無意味。

 相手が魔法やスキルを使わない限り、天宮寺にダメージを当てるのは難しいということになる。

 改めて天宮寺という男は口だけではなく実力も半端ではないことを凛人は痛感した。

 しかし、モンスターの方はそんな言葉など通ずる筈もなく、再び立ち上がって体制を整え攻撃を仕掛ける。

 そのモンスターを天宮寺は邪悪な笑みで見つめた。

 「今度はなんだ?」

 言葉など聞こえる訳ないがそれに応えるように、モンスターの大きな角全体がゆらゆらと揺らめく。

 その後も少し揺れた後に、巨大な角は更に巨大な大角へと変貌した。

 しかも大きさは通常の2倍は優に越えており、角だというのにとてつもないスピードで伸びながら天宮寺を襲う。

 「相変わらず無駄だな」

 「〈氷獄壁フローズン・ウォール〉!」

 巨大化した角と天宮寺の間や地面に魔法陣が出現し、巨大な氷の壁が現れた。

 瀬野村が繰り出した氷魔法によるもの。そのお陰でモンスターは攻撃は阻まれるどころか、角が触れた部分から凍結していきそれ以上動くことが困難となった。

 ウゴォォォォォ!、と、モンスターの苦しむ声が聞こえた。

 掻き消すように、天宮寺が拳で氷の壁を破砕しながらモンスター殴り飛ばした。

 殴られたモンスターは木々を薙ぎ倒しながら遠方へと吹き飛び、最終的には生死すらも判明できない。だがとりあえず、勝利は決定した。

 それでも天宮寺はあることを気に入らないらしい。

 「おい瀬野村。何してくれてんだてめえ。そもそも、物理攻撃は効かねえつったろ。馬鹿かてめえは!」

 瀬野村のサポートが気に入らなかったらしく、不機嫌に文句をいう天宮寺。

 「ごめんごめん。さすがにあの攻撃はヤバいと思ってさ。なにせ、お前だけに手柄を与えるのは少し尺だからな」

 「チッ。邪魔くせえんだよ、あの氷は」

 割り込まれたことに苛立つ天宮寺と、サポートとした筈が文句を言われる瀬野村。

 その後ろで凛人と日比谷は。

 「嘘だろ。天宮寺くんってあんなに強いんだ。それより、あんな無茶苦茶に強いスキルとパワーって、反則過ぎなんじゃないか?」

 「ふ~ん。まぁ、そこそこって感じかな」

 「え?、何で日比谷はそんな上から目線ができるんだ?」

 「だって、至極当然のことだから」

 「すごいよ、君は、」

 天宮寺の実力を見ても余裕そうな日比谷を素直にすごいと凛人は思う。

 同時に思った。あれだけ強いなら、自分に出番などないのでは、と。

 瀬野村も十分な魔法を使える。それに日比谷や篠塚も控えているから本当に活躍の場面がないではと危機感を抱き始めた。

 痛感して気が重くなったと思ったら、すぐ横から草むらが揺れる音が聞こえた。

 「ん?」

 凛人は目をそこに移すと、次は上から何かを蹴った様な音がした。

 つられて上を見ると、全長が120cmはありそうな鳥のようなモンスターが凛人目掛けて飛びかかってくる寸前だった。

 「うわぁ!?」

 転びそうになりながらも、ギリギリで回避することに成功。

 飛びかかってきたモンスターは、二つの首をもつ、全身白色の鳥型のモンスターだった。

 純白の翼などは美しく思えるが、目は青く大きく一つ目で、よく見たら複眼だ。

 そんなモンスターが空中で静止しながら、こちらの様子を伺っている。

 今は静止していてとも、先程猛スピードで来られてはたまったものではない。

 「〈砲――――!」

 「〈ツインベノム〉」

 凛人よりも先に、今まで気だるそうにしていた篠塚が動いた。

 右手に発現させた紫色の魔法陣からは、毒の塊でできた二体の蛇が現れ、空中でモンスターに牙をたてた。

 苦しいのか、鳥らしい甲高い悲鳴が響くと、毒牙が突き刺さったところからモンスターの体が徐々に紫色へと変化し始める。

 やがでは全身を侵食し、毒牙から解放されたモンスターはピクピクと痙攣したのを最後に、二度と動かなくなった。

 「ま、こんなもんかな」

 鳥型モンスターを倒し、篠塚は少し満足そうに微笑む。

 「てなわけで、黛、引き続き邪魔ならないようによろ」

 唖然としている凛人に軽く手を振って篠塚はその辺を見渡し始めた。

 「篠塚さんまであんなの使えるのか・・・・」

 「おーい二人とも、そろそろ移動しよう!」

 凛人と篠塚に対して、瀬野村が次の行動を呼び掛けた。

 「わかった!すぐに――、」

 篠塚と共に凛人は瀬野村と天宮寺のところに駆け寄ろうとした。

 そして瀬野村のすぐ近くまで来たところで、天宮寺の顔目掛けて何かが飛んできた。

 真っ先に気づいた凛人は叫ぶ。

 「天宮寺くん!横――!!」

 気づいた天宮寺は、くるくると回転しながら飛んでいく何かを天宮寺はほぼノールックでキャッチした。

 「チッ!」

 鬱陶しそうに天宮寺はキャッチした何かをその辺に放り捨てる。

 天宮寺に向かって飛んで来たものの正体は、小さな石の斧だった。

 小さいものの、当たればそれなりの痛みと怪我を負ってしまいそうなものだ。

 我に帰って凛人は石の斧が飛んできた方向を見てみると、生い茂る木々の中から七体の緑色をしたモンスターが現れた。

 「あの見た目は、ゴブリン?」

 凛人は現れたゴブリンらしきモンスターが石槍や木製の混紡などを持っていることを確認して身構えた。

 ゴブリンに集中していくうちに、また別の場所からは他のモンスターが現れた。

 一体一体はそれほど大きくはないが、犬や猫とほぼ同じ大きさのカブトムシやハエなど、虫や甲虫のモンスターが十体以上。

 さらに別の場所からは、極め付きと言わんばかりに現れた三体のモンスターは全て異質な感じだった。

 内二体はどういう原理なのか不明だが、宙に浮きながらずたぼろの布で全身と顔を覆っているモンスターなのだが、不気味さに加え、布の袖から見える白骨化した両手を見る限りモンスターより幽霊や亡霊を思い浮かべてしまう。

 残りの一体は、獰猛な野生動物のようなモンスターだ。見た目はジャガーや虎に近い。全身金色の体毛を靡かせて、グルルルルと唸り声すらあげている。

 不自然なのは、目が本当の意味で燃えていることと尾が4本あることだった。

 何より、体には不気味な紋章が広がっていた。

 だが着目すべきと頃はそこではない。

 そもそもモンスター一体に興味をを持っていること場合ではない。

 それに気づいたのは、五人の中で一番の分析力を持つ瀬野村。そして凛人だった。

 「瀬野村、」

 「わかっている。囲まれたようだな、俺たちは」

 周囲からいくつも現れたモンスター達による群れの中心に、第六班は身を置かれていた。

 おびき寄せてしまったのだ。周囲のモンスター達を。

 「こんな数、聞いてない!」

 そのせいで凛人ははっきり言って緊張が爆発しそうだった。

 逃げ道なんてない。かといって活路を開く自身もない凛人はパニックに陥る寸前でもあった。

 自分なりに頑張ろうと決めたのは自分だ。けれども、こんな事態を突破できるような力は凛人にはない。

 緊張と恐怖で生唾を飲み込んで、凛人は隣にいる日比谷を見たが、思わず「は?」、と言ってしまいそうだった。

 こんな状態なのに、日比谷はモンスターの群れを見つめて笑っていた。

 天宮寺も同じだが、そもそも萎縮するような人格ではないことくらいはわかっている。

 でも、そんな反応を取っていたのが意外だった。

 「日比谷、なに笑ってるんだよ。この状況、とてつもなく不利なんだけど」

 「ねぇさぁ、凛人。あたしね、一学期から対モンスター系のゲームにはまってんの!!」

 「だからなんだってんだ!」

 「ならテンション上がっても不思議じゃないでしょーが!!」

 「まずゲームと現実の区別をはっきりさせようか!」

 「てかそういう凛人は大分びびってるけど、別に退避しててもいいよ。おいしいところは全部持ってくけどね!てなわけで、ちょっと行ってくるね!!」

 それを言い残して日比谷は、同じくウズウズとしている天宮寺よりも先に走り出していた。

 「あっ、おい日比谷!!・・・・ッ!!」

 凛人はそんな日比谷の背を目で負いなが、少しの迷いに困っていた。

 勇敢に立ち向かって少しでも己を証明させるか。それとも安全な場所でおとなしくするか。

 凛人がもっとも問題視していた己自身の選択の遅さが、ここで出てしまった。

 そんな凛人を置き去りに、他の面々はそれぞれ動き出した。

 「あ~だっるい。もっと楽だって聞いたのに、テンション下がるわ本当」

 「厄介なのはあの三体くらいか。後は気をつける必要ないかな」

 篠塚と瀬野村の二人はすぐさま戦うことを決意しているようだった。

 残る凛人は二人を交互に見つめ、頭を抱える。

 「こんなの、僕だけ逃げたら本当に落第生じゃないか!」

 そうして凛人も戦いを決した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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