第9話 登校日
翌朝。
「ふわ~あ」
「眠そうだね一哉は」
「まあな」
凛人は一哉と共に朝の街並みを歩いていた。街並みといっても通いなれた通学路ではなく、異世界シェルフォード王国の街路。歩くだけであちこちに目線が行ってしまう。
凛人達の目的地はもちろん、黄昏ヶ丘高校だ。
「それにしても、異世界召喚されて次の日から授業とは、ゆとりもあったもんじゃないな。眠いったらありゃしない」
ある意味では登校初日となる朝。一哉はとても眠そうだ。
「どうしたんだ一哉。さっきから随分と眠たげだけど」
凛人の問いに一哉は欠伸をしながら答える。
「実は俺、慣れない環境だと寝付きが悪いんだよ。部活の合宿の時はしょっちゅうだったぜ」
「へぇ~、珍しいなぁ。まさか一哉がそんなタイプだったとは」
「こればっかりは仕方ないだろ。お前の数学の点数が上がらないみたいにな!」
「さらっと人を侮辱するな!」
「悪い悪い」
異界の地での初登校日なのに凛人と一哉は普段通りの会話であーだこーだと言い合う。
すると――。
「おーっす黛」
背後から挨拶と共に背中をバシッと叩かれた。
「いてっ!」
「ケッ!こんくらいで痛がるなよな」
「なんだいきなり・・・って植元・・・うわっ、鈴森さんまで引き連れてる」
振り向くと、朝っぱらにも関わらずバリバリカップル状態の植元と鈴森がいた。相変わらず鈴森は植元の左腕に嬉しそうにくっついている。
「よっ!黛!」
「黛と有野おはよー」
「ああ、おはよう。というか二人とも、朝からそんな状態なんてよっぽと仲がいいね」
「なんだぁ嫉妬か!おいミカリ~、黛の奴どう思うよ」
「まっ、黛って背も低い方だし、純みたいにすごくカッコいいって訳じゃないから仕方ないんじゃな~い?それに彼女もいないし」
「朝っぱらくっついているような二人組にそんなことを言われる筋合いもないけどな!」
「ダメだぞ凛人。二人の逆撫で攻撃をもろに食らったらろくなことがない」
「そう思っちまうのもしゃーねぇーよな、何せ高二で恋愛未経験の二人組にはそう聞こえてしまうだろうしからよ」
植元からの完全なる煽りを食らい、凛人と一哉はピタリと足を止めて植元を睨み付ける。
「ねえ一哉、背負い投げってどうやるんだっけ?」
「見せてやろうか?目の前にちょうどいい
一哉が怨念を込めた眼差しで植元の前に立ちはだかる。凛人は心の中でザマーみろと思うが、植元は「あっ、ヤベ」と慌て、なぜか鈴森も少し青ざめている。
ちなみに一哉は柔道部で優秀選手にも選ばれた逸材。その巨体から繰り出される技を決められたらたまったもんじゃない。
「落ちけって!何もお前らのこと馬鹿にしたわけじゃないんだからよ」
「じゃあなんだってんだ?」
「まあほら、言葉の綾ってやつだよ!意味はあんましわかんねえけど。そうだそれより――これ見てくれ」
と言って植元は制服の胸ポケットから生徒証を取り出した。
凛人は一旦怒りを忘れ、植元の出した生徒証を見る。
植元純(17)
所属・黄昏ヶ丘高校二年三組
魔法適正・70
スキル【
スキル内容
・
・
・貫通力増大
・範囲拡大
「スキル!?植元ってスキル持ってるの!?」
「おう。【
「スキルがあって魔法適正が70もあれば十分だと思うけど・・・・一哉はどうだった?」
「俺は残念ながらスキルはない。ほら、これが俺の結果だ」
一哉も植元同様、胸ポケットから生徒証を見せる。
有野一哉(17)
所属・黄昏ヶ丘高校
魔法適正・89
スキル・なし
スキル内容・なし
「本当だ、スキルはな・・い・・・89!?魔法適正89!?高っか!!」
「だろ?『鑑定』してくれた人も中々びっくりしてたんだぜ」
有野にスキルは無かったが、魔法適正が以上に高い。
魔法適正89は分かりやすくいえば、魔法だけなら優等生レベルだ。
隣にいる二人がここまですごいとなると、凛人は少なからず劣等感を感じてしまう。そんな凛人に一哉はおだやかに聞く。
「凛人。お前はどうだったんだ?」
「僕?僕はそんなに・・・・あっ、待って」
ふとそこで昨夜のやり取りを思い出す。学生寮の外で、フィーネという女性の祝福者となったあの一件。
どんな力を与えられ、どんなことが出来るのかは定かではないが、祝福者という名だけで言葉では言い表せないほどの存在であるのは確かだ。
思わず凛人はにやけてしまう。
「ふ、ふふふ。そうだったんだった」
「なにがどうしたんだってんだ?変な笑みまで浮かべて」
「よっぽど悪かったのか?」
「いーからミカリ達に見せてみて。どうせたかが知れてるだろうし」
やたら目ったらに言われるが、今の凛人にとってそれはそよ風以下の攻撃とすら感じる。
なぜなら――我が生徒証には国王すらも衝撃を受けるほどの内容が記されているいるからだ!
「三人とも・・・・」
スッと胸ポケットに手を添える。
「まあ一哉も植元も十分すごいけどさ。僕のもそれなりに・・・いいや、見たら本当に悶絶するかもしれないんだよね。僕が持っている力は。なんでかは見れば分かると思うけど」
「そうか」「へぇ~」「ふ~ん」
興味なさそうな三人。
だが凛人は、とても心踊って生徒証を見せたくてウズウズしている。
そして時は満ちた――。
「というわけで――見よ!これが僕の祝福者としての力だ!」
一世一代の威力で思いっきり生徒証を見せつけた。
これ以上無いほどのドヤッ顔で。
「スキル無しで魔法適正35か。逆にすげぇよ」
「はぁ!?」
「何が祝福者だよ。祝福者になったのはお前じゃなくて倉山だろうが」
「そ、そうだけどぼくにも・・・」
「黛アンタ、夢見すぎ」
「めちゃくちゃ冷めた顔でそんなこと言わないで!」
あまりにも期待外れすぎるお返しが来たところで、自らの生徒証を見返した。
そこには祝福者の人智を越えた力――ではなく、一国の王が落第生と呟いてしまうほどの、昨日みた時と全く同じ内容があった。
「なんで?嘘だろ?もしかして騙された!?」
祝福者の祝の文字も無い惨状を見た凛人は、それでもと思い生徒証の端から端をくまなく見つめる。
だがそれでもやっぱり、何も変わりはない。
予想外の悲劇をただただ受け入れるしかない凛人は、何度も昨夜のことを思い浮かべてはフィーネの顔を思い出す。
確かにあの時「祝福者になってほしい」と頼まれたはずだ。
なのにこれはどういうことなのだろうか。
(おかしいだろ。祝福者になってって頼まれたのに何も変わらないのは。どういうことですかフィーネさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!)
「結局、黛は落第生てこったな」
「あ?」
シンプルに落ち込む凛人に植元が容赦ない追い討ちをかける。
「なんて言ったんだ今?」
「いや~、俺も鑑定のあとにチラッと噂で聞いただけなんだけどよ。どうにも黛が鑑定の時に、アドミスのおっさんから落第生って言われったって聞いたんだよ。この目で確認して理解したけどな」
「待って。噂ってことはつまり――」
「おう。もうお前のことはバレてんじゃね?」
「ふ、ふざけるなよ。冗談じゃないだろ!」
思わず叫ぶ。誰が広めたのかは知らないが。本当にとんでもないことをしてくれた。
その怒りでフー、フーと野生動物みたいな吐息をすると、一哉が愛想笑いを浮かべて黛の肩をポンと叩く。
「いちいち落ち込むな。スキルは仕方ないとして、魔法ならこれからの学習で伸びるだろ。伸び代があると思えば伸びる。そう思えばいいだけだ」
「一哉・・・まさかお前にそんなことを言われるなんてね」
「悪いかよ」
「いや、少しは落ち着いたよ。ただ、僕がこれからどんな目で見られるかは分かったもんじゃないけど」
「あんまり気にすんなよな?とりあえず、もう学校に着くからそろそろ雑談もこれくらいにしよう。何があるかなんて分からないんだからな」
一哉のその言葉に凛人も植元も鈴森も口を止めた。
もう目の前には見慣れた校舎がある。
だが見慣れているのは建物そのものだけ。
門をくぐったその先には、一体何が行われどんな学びを享受するかも不明。
その意識があるからこそ、凛人達はまるで始業式の日に感じた緊張と似た感覚を感じながら、校門をくぐった。
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