第2話 それぞれの過去

「・・・残りの人生…ですか」


唐突に聞かれたそんな言葉にびっくりした。

しかもこんな内容の事を初対面の、しかも女の子に聞かれるなんて経験がないから。


でも、それよりも今、いやずっと・・・。

空虚とも感じる人生を歩んでいた実感があるからこそ、僕の確信をついた問いかけに言葉が出なかった。


「・・・」


何にも想像できない。

やり甲斐を感じることがいつか見つかるかなって、気づけば21年。

これまでずっと見つからなかった・・・

焦りの気持ちというより、虚無な感じが強い。


考えても考えてもなにも思いつかなかった。


「・・・・ん…わからない・・・ですね」


本来、答える必要もない返答。

笑けてくる。もう大人なのに真剣に考えた末、出た言葉がそれだった。


「あっ・・・そうですか・・・」

「…そうしたら、今やりたいことはありますか?」


「ん・・・」


それもない。

自室で、ゲームやら友達と話すやら、楽しいことはある。

ただ、それは時間を過ごすだけのことに過ぎない。

だから、それが今すぐしたいことか?

って考えると別に・・・って。


もしかしたら考えすぎなのかもしれないけど・・・。

また、返答する言葉が見つからなかった。


「…思い浮かばないかもです(笑)」


「そうなんですね・・・いつかそうゆうものが見つかりますよ」


「あっあなたは何かあるんですか?今後の人生とかも!」


居た堪れない気持ちを誤魔化すように、同じことを聞き返した。


「私ですかー?うーん・・・やってみたい事はありますよ〜!」


「えっいいじゃないですか!聞いてよかったらなんですけど、それってなんです!?」


「それは…恋です」


「えー素敵じゃないですか〜!」


女性らしい!

と、同時に少し羨ましいとも思った。

恋愛やお付き合いは経験あるけど、自分から恋したいとかって思った事ないから。


「え〜なんかいいなぁ〜」

それでもなぜか、口に出る言葉と感情は楽しそうな感じだったのはびっくりしたのを覚えている。


「想像するだけでも、ドキドキもするし、ワクワクもします!!」


すごい楽しそうに話すその子はそう言いながら、自分を包むように体を抱きしめ、足元は水面でゆらゆらとワルツのように踊っていた。


「恥ずかしいんですけど、私まだ恋した経験がないからどんなのかなぁ〜って!」


「へ〜!意外です!!」


スゴイ活発で、元気な感じの子。

可愛い系な感じの見た目は好む男性も多いはずって勝手に。


「そんなそんな(笑)」


「ですよ〜!」


「ありがとうございます!(笑)」


「いえいえ!そう感じましたから〜!だから学生時代とかモテたでしょ〜!」


彼女の空気にノッてしまい、突っ込んで聞いてしまった。


「えへへっ・・・」


「ほらね〜」


「・・・実はそんなことなくって、ちょっと色々あったから・・・」


先ほどとは空気が変わったのを感じた。


「あっ….ごめんなさい」


「ううん、大丈夫。本当に大丈夫だから」

そんな彼女は何かを思い出すかのように、後ろで手を組み足で水面をスゥーと揺らしながら答えた。


「でも、だから・・・恋はしちゃダメなんです」


「・・・えっ??」


さらに空気が変わった。


「だから・・・」


聞かれたことに対しての怒りでもない、ショックでもない。

そう、すごいもの哀しそうな感じの顔と空気になり、ゆっくりと夜月を見上げた。


「・・・私の人生も」


「・・・」

なにも言えなかった。


そりゃみんな色々あるよね。でも、少し違う感じ・・・

こうタブーみたいな感じではないけど、彼女が何か抱えていたものがあるんだって。

それは、多分僕らでは経験しないようなこととか・・・。


「・・・あっ、ごめんなさい。こんな空気にしてしまって」


「えっあっ・・・いやそれは僕が、、、本当にごめんなさい」


「本当にだいじょーぶ!」


「あっ、、、ありがとう」


そう答えた彼女はまた先ほどのような笑顔で人差し指を立てながら答えてくれた。


「う、うん!」


それに応えるように同じく人差し指を立てながら返事をした。


「・・・」


「・・・あはははは」


「くふふふふ!」


張り詰めた空気が緩んだ。

それは、こんな朝にお互いに人差し指を立てながら向き合ってる自分達がおかしくなって、2人して自然に笑い合っていた。


少し罪悪感が薄れた。


ピピピッ…


「・・・あっ」


と、突然。

自然の中、唐突に電子音が鳴り響く。

左腕につけてるスマートウォッチが鳴った音。


朝5時から24時まで、時間が切り替わるタイミングで時計を見なくてもわかるように設定していたものだった。


「・・・えっ…」


「ほら、もう5時だって!」

左腕で鳴ったスマートウォッチの時間を確認し、そのまま彼女にも見せた。


「あっ・・・そうですね」


またさっきとは違う感じで空気が変化した気もするけど、続けて話した。


「もう、1時間くらいここにいるってびっくりですよー!」


「なんか、色々とお話ししちゃいましたね」


「ですね!でもなんか楽しかったですよ!」


「うふふ(笑)私もです」


「よかった!…あなたはまだここに?」


「えっ??」


「僕はそろそろ戻ろうかなって」


「まだ夜明け前ですしね(笑)」

「私は・・・もう少しここに」


「そうですか!水に入ってると体冷えるので、程々にですよー」


「ふふふ(笑)ありがとうございます」


「じゃあ、僕はこれで。おやすみなさい」


そう言いながら、踵を返した。


ジャリ…

ジャリ…ジャリ…


「あっあの!・・・」


後ろから彼女が声が。


その場に立ち止まり、振り返る。


「は、はい!?」


「あの・・・よかったらなんですけど・・・」

「あなたのお名前を聞いてもいいですか!?」


少し照れた感じで聞いてきた。

戸惑った・・・でも、すぐ返事した。


「もちろんですよ!僕は、はるとって言います!」


「はるとさん!うん、ありがとう〜」


すぐに答えてくれたことに嬉しがりながらもちゃんと聞こえるように答えた。


「私は、りつかって言います!」


りつか、それがその子の名前だった。


------------


最後までお読みくださいまして、誠にありがとうございました。

いかがでしたでしょうか?


不定期になりますが、順次更新していきますので、作品をフォローしてお待ちいただけますと幸いです。


引き続きよろしくお願いします。

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