episode 0020 よく考えて結論を出せば良いさ
「ははは、さすがに駆け出しの冒険者には手が出ない値段かな?これでも安くしてる方なんだがな」
驚愕している僕に向かってゲッツさんは笑い掛けてくる……のだが、よく考えたら買おうと思えば買える金額だ。
ただ、いつ使うとも分からない革鎧にいきなり金貨3枚を払うのは、先の事を考えると良策とは思えない。
そこで僕は思い切ってゲッツさんに尋ねてみることにした。
「本当に必要になったころに、お願いして作ってもらっても同じくらいの値段ですか?」
「製作依頼って事だな。加工の仕方や仕上げにとれだけこだわるかにもよるけど、似たような感じで倍の値段になる事はないぞ」
なるほど。オーダーだから少し高くなるのかも知れないが、極端に高くなる事はなさそうだ。
「だが、依頼の場合は革のなめしから始まる事も多いから、出来上がるのに一ヶ月は掛かると思ったが良いな」
そうか、今あるやつを買うのと、製作依頼で作ってもらうのでは、使い始められる時期がだいぶ違うのか。
どうする……この革鎧を買っておくか、今はまだやめておくか……
「悩んでるなら2、3日考えてみたらどうだ?そのくらいなら取っといてやる事も可能だぞ」
ゲッツさんの言葉にユリアンさんが大きく頷く。
「武器や防具はその時買いそびれると、案外それより良いのをその後見つけられん事が多いな。まあ、買うかどうかは何日かしてからで良いから仮押さえしておきな」
そう言うものなのか……ゲッツさんもユリアンさんも、無理やり僕に売ろうと言うよりは必要かどうか、支払えるかどうかちゃんと考えろと言う事なんだろうな。
僕は方針が決まって頷く。
「ゲッツさん、3日考える時間もらえますか?この鎧を買うか、買わないか、その間に決めます」
僕の言葉にゲッツさんは穏やかな笑みで応える。
「分かった。今後の活動スタイルによって必要な物は変わるから、よく考えて結論を出せば良いさ」
そう言うとゲッツさんは豚革の胴鎧を、元あった棚ではなく工房になっている奥にしまった。他に買い手がつかないようにしてくれたのだろう。
革と革鎧についていろいろ教えてくれたお礼を言って、僕はゲッツさんの革鎧屋を後にした。
外に出ると既に日はだいぶ傾き、山間部の盆地と言った地形に存在するラングフェーターは、他の領地より少し早い夜を迎えようとしていた。
大通りは荷物を詰んだ馬車や人力車が行き交い、買い物帰りの人が足早に自宅を目指す。
素材などさまざまな成果を抱えた、あるいは負傷したメンバーを抱えた、冒険者達はギルドを目指して歩いて行く。
領主館でしか過ごしてこなかった僕からすると、顔が見えない領民と言うのは、こうやって物を作り、商売を行い、糧を得て生きて行くものだと言う事を少しずつ実感させられる。
これが王都ゲゲンストゥックだったら、同じように感じる事が出来ただろうか。
隣国モンターギュポワレと国境を接する辺境であるラングフェーターだからこそ、人々は逞しく力強く、この地に根を張って生きている。
僕は乗合馬車の行き先を間違えた。
でも、たどり着いた場所は間違いなんかではなく、始めからここに来る事が決められていたかのような、正しい道のように思えた。
よし。しばらくはラングフェーターで過ごそう。
どのくらい滞在するかまだ決めてないが、ラングフェーターの冒険者として恥ずかしくない程度になったら、外に出てみよう。
その時は「ラングフェーター所属の冒険者」として。
もちろん何らかの理由でラングフェーターに居られなくなるかも知れない。
そんな事はないに越した事はないけど、もしそんな事が起きるその前に、冒険者として独り立ちしなくては。
そのためには乗り越えなきゃいけない壁がいくつも立ちはだかっている。
最大魔力と最大体力の低さはその最たるものだろう。だが、最大魔力は固有スキルのダブルで増やせる事が分かった。
なら、同じ方法で最大体力も増やせるじゃないかと考えている。
でも、冒険者としてそれだけでは立ち行かない。武器の使い方、魔法の種類、素材の剥ぎ取り、安全な野営のしかた、食材の確保……簡単に思い付いただけでも一月二月でこなせるものじゃない。
そう考えたら、最低一年はラングフェーターに腰を据えて、せめて冒険者ランクをDランクまで上げる必要がありそうだ。
宿に戻ったらおかみさんに、宿の滞在延長をお願いしよう。最低100日だな。いくらになるんだろう?
10日滞在で大銀貨5枚だったから、100日で単純に10倍で金貨5枚か。朝晩の食事がついて100日もいられるなら、その間に稼ぐ参段はつけるれそうた。
よし!宿に戻って温泉に入って、晩ご飯を食べたら固有スキルで最大魔力の強化だ!
何だか楽しくなってきたぞ。領主館に残っていたら、こんな経験全くできなかったはずだ。
考えながら歩いていたら、楯と酒杯の合歓の木の灯りが見えてきた。
どのくらいの滞在になるか分からないが、ここが僕にとっての新しい家なんだ!
明日からどんな事が起こるのか、この家で期待しておこう。
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