5話 選択肢

  促され中へ入ると、聖堂で何人か見たような、他の人より少し豪勢な装飾品をつけた中肉の神官が長机で席に座っていた。

どうやら会議室のようだ。


「初めまして、私はこの教会で司祭をしています。この度は誠にお祝い申し上げます。」

「ありがとうございます。三人の保護者のデルクと言います。」

「これはご丁寧にどうも。では早速本題に入りますのでどうぞおかけください。」


全員が座り終わると、「さて…」と司祭は話し始める。


「お話というのは今後の決め事についてでございます。今回喜ばしくも能力者に選ばれた三名には大きく二つの選択肢があります。」


「能力者が得られる特別待遇について、ですか。」


選択肢と聞いて疑問符を浮かべる僕らと違い、父さんは元々知っていたようだった。


「その通りです。まず一つ目は教会の干渉を受けず、今まで通り普通に暮らすこと。」


どの等級であれ、民が技能を授かるということそのものが国力もしくは協会の力に繋がるため、本来ならいずれの勢力が拘束したり契約したりして支配下に置くのが定石だろう。

しかし能力者のほとんどは国や教会からなんの制約も受けることなく普通に暮らしている。

 なぜなら技能にはそれぞれ適性があり、特に生産系や商才系の技能の場合は国や協会が管理するよりも、適度に援助する程度の方が技術力や経済力の発展に大きく寄与する場合があるためだ。

また、戦闘系技能の場合も自由な鍛錬や冒険を通してより屈強な人材が育ちやすいという側面がある。

加えて、伝説級以上の能力者は部隊や軍に匹敵するため、強行的な拘束は実質不可能と言える。

 そもそも技能を授かる条件は、人格、容姿、才能といった諸々の基準を超えた上でさらに神に見染められる必要がある。

というのが通説のため、能力者のような強大な力を押さえつけてまで、技能を用いた反乱や犯罪に備える必要はないのである。


「二つ目は教会の支援を受けて帝都中央大学に行き、高等教育を受けながら身の振り方を探していくこと。」


この国、もっといえば世界ではまだまだ教育は行き届いていない。

比較的大きな都市ならともかく、この街のようなちょっとした街でも識字率は五分ごぶと言ったところだろう。


「読み書き算術などの基礎知識から、魔術や剣術など、自分の学びたいことを学ぶことができます。」


強力な技能を持つ能力者と言えど、それを扱えるほどの知識と技術がなければなんの意味もない。

授けられたからと言って、体の一部のようにすぐに使いこなせるなんてことは無いからだ。


「二つ目の続きですが、大学を卒業したあとに国の役人や教会の地位の高いポストに付き、国や神に仕えることもできます。」


いくら能力者を直接支配したり管理しないからと言って、各勢力が能力者を囲い込みたいと思っているのは自明じめいである。

 信者として神に仕えたい、臣民として国に仕えたい、そういった考えの能力者も少なくないため、その技能を存分に活用するために卒業後は高い地位が約束される、ということだ。


「もちろん皆さんにはどのように選択してもらっても構いません。高等教育まで受けてあとは自分の好きなことをして生きるのも良いでしょう。ある程度までは途中で辞退することも可能です。しかし、能力者は貴重な人材ですので、国や教会でそれなりの地位を得た場合、それだけの守秘義務を負うことにもなるため、留意して頂かなくては行けません。」


ただし、そういった肩書きには当然責任というものがのしかかる。

地位が高ければ高いほど、組織の裏側や外部に漏らしては行けない情報などを知ってしまう。

そうすれば、当然それを隠すためにそう易々とは辞めさせてはくれない。


「期限は1週間後までに決めてください。子供たちが親御さんと相談するのは全く問題ありませんが、最終的な決定権は選定者本人にあるのでご理解ください。説明は以上です、なにか質問はありますか?」

「いえ、特には…。」

「でしたら本日は彼らの戸籍の登録と資料をお渡ししますので、また後日来てください。」


この神授式は十二歳になる子供たちの戸籍登録も兼ねている。

病気や事故で子供の命は安定しずらいので、十二歳まで生きられた子供たちが儀式で集まるこのタイミングが最適という訳だ。


「ちょっとまってくれ。」

「ん?なんでしょう。」

「俺は帝都に行く。今手続きしても別にいいよな?」


部屋を出ようと全員が立ったとき、アレクだけは座りながら司祭を見つめて言った。






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