2・まなみ、ネコと入れ替わる

第2話

日曜日。公園。

「るんるーん♪」

 まなみはカメラを掲げて、まなみはスキップをしていた。

「今日はどんなの撮ろうかなあ?」

 被写体を探した。

「あっ、あった!」

 見つけた。赤くて泥まみれのコーラの空き缶が。

「これはもしかしたら、商店街のスーパーで八十八円で売ってるコーラかもしれない。だとすると、なぜこんなところにそんなものが落ちているのか……。これは事件の予感!」

 という意味で撮影した一枚だった。

「おお!」

 もう一つ見つけた。木の根元に落ちている、コケむした石を。

「これはこれは……。毎日記録して、一年後どれくらいコケむしるか調べてみたいな」

 撮影した。

「おおーっ!」

 目を輝かせて見つけた被写体。それは、茶色いうんちだった。

「これは人のかな? それとも、犬かなあ? とりあえず、考え深いから撮影!」

 そこへ。一匹のネコが通りかかってきた。

「あ、ネコ」

 シャッターを切る前に、ネコに目を向けた。ネコもまなみを見上げた。

「……」

 まなみとネコはお互いを見つめた。

 そして、ネコがニャオと声を上げて、まなみに飛びかかってきた。

「わあっ!」

 ゴチンっとお互いに顔がぶつかった。

 図書館の帰りで公園のそばを通りかかるまい。相も変わらず制服姿である。

「ん? あれは……」

 茂みのそばで座り込んでいるまなみを見かけた。

「まなみだ。どうせまたろくでもないものを撮影しているに違いないわ。ちょっと声をかけてこようかしら」

 まなみのところへ向かった。

「こら、まなみ! あんたまた変なもの撮影してるんじゃないでしょうねえ?」

 注意すると。

「にゃあ?」

 まなみは、首を傾げながら、ネコのような声を上げた。

「は?」

「にゃおーん!」

 突然、ネコなで声を上げながら、まいにすり寄ってきた。

「ちょっ、ええ!?」

 驚くまい。

「まいちゃんまいちゃーん!」

 下から声が聞こえ、目を向けた。

「まにゃみはここだよ~!」

 そこには、しゃべるネコがいた。

「ええ? ネ、ネコがしゃべってる?」

 つぶやいて、

「ネコがしゃべってる!?」

 がく然とした。

「だからまにゃみにゃんだってば~!」

 ネコは泣き叫んだ。

「ままま、待って! 状況が読めないんだけどっ?」

 すり寄ってくるまなみをどけた。

 まなみは拳をペロペロと舐めた。

「ええ……」

 唖然とするまい。

「あ、そっか。あんたにそんなおこちゃまみたいな癖があったのね……」

「違うにゃ! ネコ、まにゃみの体で好き勝手するにゃ!!」

 ネコが怒った。

「またネコがしゃべった! もしかして、これはりかさんの発明?」

 まいはじっとネコをにらみ、持ち上げてじろじろ覗いたりしてみた。

「まいちゃ~ん。信じてくれにゃ~」

 涙目でうるうるしているネコ。

「なんとよくできた発明品だこと。でも、なんでまなみみたいな口調なのよ?」

 首を傾げた。

「だからまにゃみはネコと入れ替わって、そのネコが今まにゃみににゃってるのにゃ!!」

 怒鳴った。そこへ。

「あらまいちゃん。アイス食べる?」

 月菜が来た。

「つ、月菜さん? 突然アイスをくれるなんて、今日は読みづらい展開が多いわね」

 唖然とした。

「あら? なんでとろ子ちゃんネコになってるの?」

「へ?」

「ついでに、とろ子ちゃんになっているのは、ネコ? マンガみたいに、入れ替わっちゃった?」

「まさか、ほんとに……」

 まいは、ネコをそっと見つめた。

「ほんとだって言ってるにゃさっきからーっ!」

 自分を抱きかかえるまいの顔を引っかいた。


 三人と一匹は、月菜の住むマンションにやってきた。

「おじゃましまーす」

「どうぞ、入って入って」

 月菜は、自室に案内した。

「狭くてごめんなさいねえ」

 謙遜するが、月菜の部屋はホコリ一つないくらいきれいで、勉強机も本棚やクローゼットも整えてあった。

「まにゃみの部屋よりきれいだにゃ。まにゃみは床にいろいろ散らかり放題で、本棚ほんだにゃにゃんてもの、置いてにゃいし」

「月菜さんもまなみも自室があっていいわね。私の家は、ゆうきと共同だから、ゆうきが部屋を片付けないから、いっつも私が片す羽目になるし」

「まあ、私のお部屋の絶賛はここまでにしてえ!」

 うれしそうにして、声高らかに言う月菜。

「なんでまなみちゃんとネコは入れ替わっちゃったの?」

「月菜さんの魔法の仕業じゃないの?」

 と、まい。

「やっぱり! あんたのせいか!」

 ネコが怒った。

「ノーノー。第一、私は今日魔法の杖を持ってないし、ほうきもないわ。ただ、アイスを買いに来ただけだもの」

「じゃあ、やっぱりこのネコはりかさんの発明品?」

「違うにゃ違うにゃ! まにゃみは、いつものように公園で落ちてる空き缶やうんちとかを撮影していたら、急にネコが通りかかってきて、まにゃみを見つめるやすぐ、飛びかかってきたにゃ。そして、お互いに顔と顔をぶつけて、入れ替わっちゃったってわけ」

「まいちゃん、この子いいカメラ持ってるのに、道に落ちてる空き缶とかうんちとかを撮るの?」

「まあ、そういう子です……」

「にゃあ?」

 まなみが首を傾げた。

「ほら、お手」

 月菜は、まなみに手を差し出した。

「にゃ」

 まなみは、お手をした。

「伏せ」

「にゃ」

 伏せをした。

「お座り」

「にゃ」

 お座りをした。

「あははは!」

 月菜が笑った。

「まにゃみでそんなことするにゃ!」

 ネコが怒った。

「てかなんでネコなのに犬のしつけがわかるの?」

 唖然とするまい。

「ちんちんかいかい!」

 月菜が指示すると、

「いい加減にするにゃ!」

 ネコが顔を引っかいた。

「君もこんなやつの言うことを聞かにゃくっても……」

 まなみは、まいに顔をすり寄らせてきた。

「ち、ちょっと……」

 ほおずりをしてくるまなみに、赤面状態のまい。

「おお!」

 声を上げる月菜。

「あわわ! まにゃみ、お嫁に行けにゃい……」

「いや、今はまなみの体に移ったネコが甘えてきてるだけだから! 勘違いしないでよねえ!」

「にゃおーん」

 まなみは甘えるのをやめない。

「ち、ちょっとそんなに甘えてこないで?」

「にゃーん?」

 いつもは見せてこないうるんだ瞳を見せてきた。

「!」

 少しときめいた。

「まあ、そういうことで、しばらく様子見てみたら?」

 月菜は勉強机に隠していたポテチを開けながら言った。

「ちょっ! 元に戻してくれにゃいのにゃ!?」

「うん」

「な、なんでよ! あんた、魔法使いでしょ?」

 まいも困惑した。

「実は。先月の定期テストで魔法を使ってズルしたのが親にバレて、今魔法の杖を三ヶ月間、没収中なのです!」


 途方に暮れながら、住宅街を歩くまい、まなみ、ネコ。まなみはまいの制服の袖を掴み、子どものようについて歩いていた。

「まにゃみはこれからどうしたらいいのにゃ……」

「ネコ……。じゃなくてまなみ」

 まいは言った。

「うち、ネコ飼ったことないけど、もしかしたら許してくれるかも」

「ほんとに!? ていうか、事情を説明すれば別に……」

「いや、ネコと入れ替わったなんて話、親どころかゆうきも信じないわ。だからあんたは捨てネコのフリをしてなさい」

「ええ? じゃあ、まにゃみは元に戻るまでの間、まいちゃんちのペットってことにゃの?」

「そういうことになるわよ」

「まいちゃんには絶対服従……」

 青い顔をした。

「そういうのはないから……」

 唖然としてつぶやいた。

「にゃおーん」

 まなみがすり寄ってきた。

「で、本体はどうするにゃ?」

 ネコがジト目でまいを見つめ、聞いた。

「あんたの家に帰せばいいでしょ?」

「じゃあ、お母さんとはどうかかわるの?」

「え、えーっと……」

「ていうか、まにゃみの本体がいないにゃ!」

「ええ? あれだけ手を離すなと言ったのに!」

 あたりを見渡し、探した。

 まなみは、しゃがんでドブを覗き込んでいた。

 そして、ドブに手を入れようとした。

「うわあああ!!」

 まいとネコがかけ寄り、無事ドブに手を付けることを避けることができた。

「はあ……」

 ため息をつくまいとネコ。

「まいちゃん! お母さんと二人きりじゃ心配にゃ。お泊りとか適当に伝えて、連れてってほしいにゃあ……」

「で、でも明日月曜日よ?」

「学校近いし、朝、ついでに必要にゃものは取りに行けばいいにゃ!」

「でも……」

 まいは、ワキを毛づくろいするように舐めるまなみを見て答えた。

「わかったわよ」

「ありがとにゃ! 元に戻ったら、アイスおごるにゃ」

 ということで、金山宅に足を運んだ。


 金山宅。

「またまなみ、家出してきたのか?」

 ゆうきが聞いた。

「ああ、そうか。その理由わけもあったわね」

 まいが納得した。

「は?」

「おほん。なんでもないのよ。今度は家出じゃなくて、純粋にお泊りしたいって頼まれたのよ」

「ふーん。じゃあさ、ゲームしようぜ。まなみ、お前パズルゲーム得意だろ?」

「ダメよ!」

 まいが手のひらを掲げ、断った。

「え、なんで姉ちゃんが拒否権出すんだよ?」

「ダメなものはダメなのよ!」

「んなアホな。古より伝わる母のうんぬんかんぬんみたいなこと言いおってからに」

 ふてくされた。

「古?」

 唖然とするまい。

「にゃにゃ!」

 まなみはキッチンに向かい、塩やコショウの瓶を手で転がして遊んだ。

「なにやってんだお前?」

 首を傾げるゆうき。

「あ、あはは! 最近のマイブームなのよね?」

「マイブーム?」

「ほ、ほら。手でなんでも転がして、感触を楽しむっていうマイブームがあるみたいよ。おっかしいわねえ」

(そんにゃマイブームあるわけにゃいにゃ!)

 ネコが心の中でムッとした。

「ふーん。ていうか、ネコなんてよく拾ってきたよな」

 ゆうきは、ネコを抱き上げた。

「かわいい!」

 抱き上げたネコを掲げ、ほほ笑んだ。

(お、弟君の純粋で無垢にゃ笑顔、初めて見た……)

 ポッと顔を赤らめた。

「まずはお前の相手をしてやるよ」

 ゆうきは、ネコを抱えて、居間に向かった。

「よし、今のうちに」

「にゃ」

 まいとまなみは、部屋に向かった。

「まなみ、いや、ネコちゃんいい? あなたはしばらくここでおとなしくしているのよ? なにか興味があるものがあっても触ったり噛みついたりしたら、めっ!」

 きつく、でもやさしく注意した。

「……」

 ポカンとした様子のまなみ。

「な、なんだか外見がまなみだから、変な感じね。ていうか、りかさんに電話しなくちゃ!」

 まいは、すぐにりかに通話をかけた。

「出るかしら? もうすぐ夕方の六時だけど」

 かかった。

「あ、もしもしりかさん? 実は信じられないと思う話かもしれないけど、まずいことが起きてさあ。まあ、それで力を貸してほしいのだけど……」

 まなみは、部屋のまわりを見渡し、立ち上がった。

「は? い、いやいや別にあなたのこと偉大な科学者とか認めたわけじゃないわよ? ただ、身近に頼れる存在がいたまでの話よ」

 まなみは、タンスを見つけ、適当に三段目を開けた。まいの下着がたくさん入っていた。

「この際笑ってもかまわないわ。まなみと野良ネコがぶつかって、入れ替わったみたいなの。それで、発明品でなんとか元に戻せないかなあと思ってさ」

 まなみは、まいのブラジャーを出して、まじまじと見つめた。

「わ、笑ったわね!? ま、まあほんとのことだからね? なんなら、今野良ネコもまなみも家にいるから、動画を撮影して送ってあげようか」

 まなみは、まいのパンツを出して、頭にかぶった。

「は、酔ってるって? そっちでしょ酔ってるのは! もう切るわ!」

 と言って、まいは通話を切った。

「とりあえず、あれだけ酔ってるようじゃ、話にならないわね。どうやら企業さんの接待でリムジンに乗せてもらったみたいだけど、りかさんも車酔いがひどいみたい、目を回している雰囲気だったわ」

 と言って、ため息をついた。

「どうしよう?」

 肩をすくめた。

「にゃ?」

 まなみは、まいの下着をすべてタンスから放り出し、散らかしていた。

「にゃあああ!!」

 まいの悲鳴が外までこだました。

「へへへ! 子ネコネコネコ、コネ子ネコ!」

 ゆうきはネコを膝の上に乗せ、いじくり回していた。

「おいゆうき。いい加減やめたらどうだ?」

 困惑しているたけし。

「にゃにゃっ!」

 ネコは、ゆうきから離れ、ツメで顔を引っかいた。

「いって~!」

 顔に傷をつけて、もん絶した。

「言わんこっちゃない」

 たけしが呆れた。

「弟君にはもてあそばれて、もうこんにゃの散々だ!」

 ネコは走って、まいとゆうきの部屋へ向かった。

「にゃんとにゃく来たで!」

 部屋の前に来ると。

「こらあああ!!」

 まいが、パンツを頭にかぶり、ブラジャーを口にくわえて四つん這いになって逃げているまなみを追いかけていた。

「ひえええ!!」

 ネコが目と口を見開き、叫んだ。

 ゴチンとまなみとネコが顔からぶつかった。

「いたた……」

 額をさするまなみ。

「つかまえた!」

 まいがまなみの肩を押さえた。

「ったく。こんなことしたら、めっ!」

「まいちゃん?」

 二人の間に沈黙が走った。

「にゃお」

 ネコはひと鳴きすると、走って玄関から飛び出していった。

「ネコは? あれ、ネコはー?」

 ゆうきはネコを探し回った。

「まいちゃん、めっ!」

 まなみがウインクをして真似をした。

「うるさい……」

 まいは照れていた。

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