第3話 真実は、いつも一つ!
━━うららかだった昼下がり、お天道様は相も変わらずお空の上で、お大尽を気取っているそのさなか、白昼堂々と起きた大事件。隣のおうちのザヴォエル君(仮)とそのお友達を挽き殺した犯人とは━━
「後半へ、続くぅっ!」
「バカをやってないで手伝え、このスカポンタン」
そよ風の吹く、長閑な街道沿い。
遠くから鳥のさえずりが聞こえる、けだるい陽気の中。
およそ似つかわしくない、殺戮の跡と格好の一団がそこにいた。
一人は
双子だろうか、鏡写しのごとき風体の
片方は深緑色の外套を豪奢な緋色の
もう片方はカーキ色の
大きく視線を下げると、そこにはずんぐりむっくりな
他方、此方はさらに猟奇的な。
並んだ死体の前で腕を組みながら唸っているのは、蒼髪の
その隣で死体を並べるという猟奇的な行動をしているのは、白金色の髪を短く刈り込んだ
まるで、一仕事を終えたばかりの農夫のような気だるげな雰囲気を漂わせ、彼らはこの珍事件の後始末をしているのであった。
「珍しいですね。こんな所で
「このためだけに
鎧袖一触、言葉通りに一分足らずで
「……残しておくべきだったか……」
「必要はないでショウ。尋問したところで、彼らがホントのところを話すとは思えまセンッ」
「……そのポーズは……?」
「モストマスキュラー、デスッ!」
「…………ふむ……、……そうか……」
前衛組は、死体から形を保っている装具の類を引っぺがして見分していく。見覚えのある刻印や装飾など、手掛かりになりそうなものを虱潰しに。
他方、後衛組は別の方向でアプローチしていく。
「まあ。話そうが。話すまいが。逃れることは。できません」
半魔人種の青年アルケが、奇麗なままの
一際体格のいい有翼鬼だ、生前はさぞ方々を荒らして回っていたのだろう。死体でなければ、アルケの細腕では抗うことなど出来はすまい。
強者の死体を恣にするそのことに、ほの暗い悦びを覚えつつ、アルケは一つの呪文を紡ぎだす。
『
本来交わらぬはずの生者と死者との境を取り払う呪文。
どんなに口の堅いものでも、たちどころに答えを述べさせてしまう、まさに冒涜的な呪文の一つといえよう。欠点があるならば……
「どこに向かっていたの?」
「レ、レ……レリトア……」
「どこから来た?」
「ツ、ツヴィングトルム」
「他に襲った街は?」
「まだ無い」
「他の部隊は?」
「拠点に」
「長の種族は?」
「…………知らない…………」
この、融通の利かなさだろう。
「つまり?どういうことだ?」
一行の
「この先にある
「ふむ、なるほど」
「リーダーのそれ、なんも分からんちゃい、みたいな時になんか言うの、やめた方がいいぜ」
「ふぅむぅ、なあるほどぉっ!」
「いっったぁい!!」
真人種の青年、双子の片割れソワラがいつものように頭目にちょっかいをかける。その返しはまたいつもの如く、鉱石人種特有の剛力と岩石の表皮を最大限に生かした
他方、痛みに悶えるあられもない姿には、世間一般の
「でも、どうすんの。山向こうに掃除しに行くの?いっぱいお迎えが待ってるのに?」
見目以外のどこが似ているといえるのか、真人種特有の
さもありなん、山越え自体は彼らにとっては造作もないが、問題は別にある。
「……補給が、できん……」
一行の中ではストッパーより、坑削人種のオッぺケペーが答える。
今回は
さらに言えば、こちらは
「言っては何ですが。わざわざ向かう必要は。無いでしょう。これだけの戦力を。収穫もなしに失った以上。慎重に動くでしょうし。大兵力を動かしたなら。それこそ国軍の仕事」
アルケが端的に否定の根拠を出す。
さもありなん、今回の一件は彼らにとっても悪鬼の軍勢にとっても事故のようなもの、偶発的な遭遇であった以上、一行にはこれ以上タダ働きをする意味もないのだ。言っては何だがここは辺境、人域と蛮地とが日々目まぐるしく入れ替わる土地。
このレベルの軍勢は早々見かける物でもないが、それは其れとして襲撃自体は引っ切り無しに起こり得る場所、はっきり言って自助努力が根付いているこの辺境で、必要以上の支援はあまり褒められる事でもないのだ。
「そうですネ。他に襲われた街もないようですし、報告だけしてワタシ達はのんびりしていまショウ。それで依頼が来るのなら、その時改めて受けるかどうかを考えても問題ないでショウ」
一行の中ではヘンタイながらも地頭はいい、
一行としてはタダ働きとならなければ問題は無いといえば無いのだが、模範としての姿を求める層がいる事も理解はしている。それに迎合するかは別問題だが、実際無償の奉仕が肌に合わない者が多いのも事実であり、また後々のことを考えればきちんと対価は受け取るべきとの考えは、一行の中では浸透している考えではあるのだ。
「どちらにしろ、日が暮れる前に街には着きたい。もう少しで着くのだから、話は歩きながらにしよう」
頭目としての権限で、クリフが話を切り上げる。
三々五々と承諾を返した面々は、そのまま支度を整え歩き出す。
殺戮の跡など無かったかのように、和気藹々と街道を行く一行。
お天道様の指し示す先へ、気まま勝手に、早々にバカ話を繰り広げ、自然体で歩を進める。
点在していた骸も既に無く、戻ってきた鳥の囀ずりからは数分前に起きた惨状など、誰も想像出来ないほどに長閑であった。
悪鬼の軍勢、それは、数がいれば出来るものではない。
どだい、協調性、利他主義、知識の集積と研鑽といった、歴史や伝統を象徴するものを持たないからこそ、彼等は
数を集めた所で烏合の衆の方がマシ、縄張り争いを繰り広げ、最終的には屍の山の出来上がり。
何てことも珍しい事ではない。
それでも、悪鬼が群れるのは、生存戦略以上の理由がある。
それは、力による支配、ただ一つ。
そうして出来上がった軍勢が、
それでも、今は無きその光景を、他の者が見ていたなら、少しばかり話が違っていたかも知れない。
討伐数、四十体。
逃走数、零。
頑強な砦に籠った人族の一軍に、一時間で
況してや六人ぽっちでなどと。
本来で在れば、幾つもの城郭都市が陥落し、事態を重く見た
勝鬨を上げる人族たちが戦記の演目を終えるまでに、どれ程の人間の血が、涙が流れるのか。
あるいは、その途上で有志らが立ち上がったとして、悪鬼どもの暴虐をどれほど押しとどめられたものか。
矮巨人屠殺者一体だけでも、腕利きの傭兵が六、七名は欲しいというのに。
どれだけの規模の
そんなものはこの辺境にはなく、どちらであったとて何のお話にもならなかったろう。
ただ後世の歴史書にて、一行二行書き記されるだけの悲劇。
それを覆して見せたのは、而して別の意味でお話にならない我らが一行。
率いる頭目の名はクリフエッジ。鉱石人種の
歌によって味方を鼓舞し、盾になって味方を守り、その手槍でもって露払いを為す。自他ともに認める司令塔にして
その横で、陽気に周囲を盛り立てるのはソワラ。真人種の
呑気に空を仰ぎ、鳥たちと語らうのはディケイ。真人種の
彼の道行きに世界は障害を置かず、遍く命が彼と共に涙を流し、星々とすら語り合う。生粋の
危なっかしい相方の手を引き歩くのがアルケ。半魔人種の
肉体持つ異端の半魔人種。密やかに、而して知らぬ者なきその名は『
祈りと感謝、感情と知性でもって味方へは恩恵を、敵対者へは制裁を与える。
最後方で一人、
鎧を纏い、操縦桿を握る。異色の姿から付いたその名が『
一歩一歩、歩を進めるのに合わせて、特注の
愚直なまでに剣の道を突き進み、その果てに一つの真理にたどり着いてしまった『
その一振りに込められた意味を理解できるものは居らず、その生い立ちを想起できる者も居ない、孤高の剣士。一行の
集った理由も様々な、而して今は、
乗り越えた荒波は数知れず、だれもが知るその偉業。どんな貧村にも僻地にも、たちどころに駆けつけて、救いを齎す救世主。
彼らの越えてきた冒険譚を思えば、これくらいの出来事は、誰に語られる事も無く。
ただ空を行く者たちだけが、小さな命の行く末を、じっと見つめているのであった。
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