第18話 四人
遺跡の最深部に辿り着いた俺達は、そこにある扉を開いた。扉の向こうは薄暗く、石造りの広い部屋になっており、床は石畳で壁には謎の模様、ところどころに柱が立てられている。
正面には小刻みな階段があり、登った先にはいかにも何かありそうな台座が見える。
だが部屋に入る前に俺が感じた異様な圧は、より強く感じ取れるようになった。つまり、俺達四人以外の何かが部屋の中にいるということだ。
「俺達は四人いる。それぞれ前後左右に分かれて、何かいないかよく確認するんだ。前方は俺が引き受ける」
パーティーを組むことの利点の一つに、死角を減らせるというものがある。一人では絶対に前と後ろを同時に見ることはできない。
「僕から見える範囲には何もいないようだね」
「私も異常があるようには見えないかなー」
「私も特に怪しいところはないと思います」
全員が口をそろえて異常なし判定を出した。前後左右には何もいない。そうなると、残るは……?
「みんな今すぐここを離れろっ!」
俺の言葉を皮切りに、全員が転がるようにこの場を離れた。その直後、ついさっきまで俺達がいた場所に液体のようなものが広がっていた。
石畳に付着したその液体はまるで石畳を溶かすかのように、煙と共にシューッという音を立てている。
やがてその音がおさまると、石畳にべっこりと窪みが作られていた。溶かすかのようにではなかった。本当に溶かしていたのだ。
上を見上げると、高い天井にトカゲのような生き物が張り付いている。
天井が高いのにも関わらず、なぜトカゲのようだと分かったのか。答えは至極簡単、その魔物が巨大だから。薄い灰色のような体の四本足。真っ赤に染まった目の中には黒い点があるのが分かる。
その黒い点は時折り、真っ赤な目の中を移動している。おそらくは瞳なのだろう。それを見ていれば分かる、こいつは俺達を敵として見ているのだと。
そしてさっきの液体はおそらく、というかほぼ唾液で決まりだ。
「とりあえず地面に降ろさないことにはまともに戦えない。フレンとミザリアは柱の影に隠れて魔法で支援してくれ!」
「準備してたからいつでもいけるよ!」
「私は攻撃魔法で援護ですねっ!」
「ねえ、私は何すればいいの?」
「エイミーはミザリアの近くにいてくれ。俺とフレンは一人でもなんとかする」
「えっ!? それじゃあリーナス一人が敵の攻撃対象にならない?」
「前衛は俺だけだからな。それに——」
俺はそれ以上の言葉を言わなかった。いや、言えなかったというのが正しいか。頭上から再び、あの液体が落ちてこようとしていた。
今は命を賭けた戦闘中。俺達の会話が終わるまで敵が待ってくれるわけがない。
「とにかく早くミザリアのところへ!」
「うんっ!」
これで敵は俺を攻撃しようとしてくるはずだ。
「フレン、頼む!」
「分かった!」
フレンが能力アップの魔法を俺にかけた。体が羽のように軽くなり、剣を持つ手に力がみなぎり、普段とは比べものにならないほど剣が速くなる。
敵と直接対峙するのは俺だけかもしれないが、フレンもミザリアもしっかりと戦いに参加しているんだ。
お互いの長所を活かし、足りない部分は仲間が補う。それこそがパーティーを組む意義。
スラムは経験が乏しかったが故に、それに気が付かなかった。
地位や権力。それは結局得た者の資質によって、全く異なる結果を生み出す。
「ミザリア、あいつの目を狙ってくれ!」
「はいっ!」
ミザリアが魔法で無数の氷の矢を放つ。だが全てかわされてしまった。
その直後、敵の目に炎の矢が直撃し、真っ赤な目が燃え上がる。氷の矢はいわばおとり。ミザリアは無数の氷の矢で敵の回避ルートを制限し、タイミングを見計らって炎の矢を放つ準備をしていた。
これは紛れもなくミザリアの戦いにおけるセンスなのだろう。きっとAランクにだってなれるはずだ。
右目が使えなくなった魔物はバランス感覚を失ったのか、唸り声をあげながら地上へと降り、俺と対峙した。
あとは俺がこいつを片付けるだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます