第二十二章
その日は初めて同人誌を出した日だった。
『ひとつ屋根の下で姉妹ぐらし』
何年か前に百合姫で連載していた漫画の中で百合知識を多少仕入れながら思い付いた物語で、描いていてこの世界に似ているなと思いながら赤面しつつ、同人誌の良いところは自分じゃないから恥ずかしくないもんだった。実は朋美は中学時代に無性別小説をノベルアップという小説・漫画投稿サイトで描いていた。無性別が当たり前の世界で十五歳になったら性別を決められる世界で、主人公だけはずっと性別を決められないまま十五歳の誕生日を迎えたのだが、周囲の変化や自分の体の変化で少しずつ性別を持つような物語にしたのだが、当時の中学生にしては感受性が豊かな物語だが、そこそこ読者数もあり、原作であった性別モナリザが話題になっていたこともあり、評価もそこそこだった。
個人的には短編小説であった死後の世界がコメント付きで、レビューも良かった物語が書いて居て楽しかったし、それほど真面目に資料を集めた訳でもないのに筆の進むまま、気の向くまま書いていたのに評価されて、ほんの少しコンテストにも出ようかとか出そうかとか思っていたけど、初期投稿以外に良い物語も良い評価も得られる自信もなく、得たとしてもそれほど熱量のない物語を書いて良いものかという不安もあり、一作目で終えた物語だが、実は完全な一次創作はノベルアップでのあの一作と魔法世界と工業世界の戦記物語くらいだ。その戦記物語はオーバーロードという物語から着想を得て、ハリポタのアイディアとジブリアニメ天空の城ラピタから飛行戦艦ゴリアテのアイディアから走行飛行船を出していた。
初期投稿はそれなりに良かったけど、パソコンが壊れたからデータが全部飛んでから初期の頃に比べたら、あの頃よりも社会を知ってしまったからなのかなんなのか、作品が色褪せてしまった。
初期の頃みたいに良い評価は得られては居ないが、アカウントも消してしまったからもう二度と作者自身もアクセスできないが、それでもまあ、楽しい人生だった。
今も書いている『引退傭兵は静かに暮らしたい』だが、正直、こっちをマンガ形式に由美子に依頼している同人誌にする方が良いかなと思ったが、実はこっちはいつの日か正式に商業化デビューしたいという野望もあって、同人誌原作というのは置いておいた。逆に娯楽目的の『ひとつ屋根の下で姉妹ぐらし』は読んでいる人も楽しいかと思って書いた。
これに関しては何度かネット投稿をしながら書き直したから、朋美が原作であり、同人作家という奇妙な立ち位置だ。
これも売上が良かった。
メンヘラ要素は初期よりは薄いが多少娯楽強めでありながらそういう要素も入れている物語で、由美子の巻末四コマでこの物語の制作秘話も入れているから、人気になった。
まあ、由美子自身人気同人作家であり、別の名でコスプレイヤー(イケメン男装BLレイヤー)をしているから、そういうネームバリュー豊富だから売る上げが良かった。
十万とか口が避けても言えないし、引いているのは内緒。だから引くほどの印刷部数、依頼してたのね。
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