ふたり組
「金目のものを出せ!」と、ナイフを持った強盗は、レストランの客たちに向かって叫んだ。人質にされたウェイトレスは、青ざめている。
店員のひとりは、強盗の片割れの指示通りに、レジの金を鞄に詰めていた。
その様子を、客である愛坂狂次と慧三は横目で見ている。
「きょーちゃんさぁ、最近調子どう?」
「普通です」
「そっか。オレはねぇ、元気だよ。ちなみに新年の抱負は、“人の嫌がることをする”にした」
「偉いですね」
「まあね~」
けらけら笑う慧三。
強盗など、どこ吹く風である。
「おい、そこ! うるせぇぞ!」
強盗のひとりが、愛坂兄弟がいるテーブルにやって来た。
「財布出せ。そっちのお前は、腕時計もだ」
「はい」
「は~い」
狂次の高級な革財布と、慧三が彼女からもらった財布が、強盗に回収される。
狂次は、腕時計を外し、メリケンサックのように握ってから、強盗の顔面を殴った。強盗は倒れて、起き上がらない。
すかさず慧三がナイフを取り上げ、レジまで走って、もうひとりの強盗をナイフの柄で殴って気絶させる。
狂次は、自分と弟の財布を取り返してから、「お騒がせしました」と一礼して、慧三の隣まで歩いて代金を支払った。
「美味しかったです」
「あ、ありがとうございました……」
レジ横にいた店員に礼をし、ふたりは店を出て行く。
「お疲れ、きょーちゃん」
「慧三君も、お疲れ様です」
「年末年始って、犯罪増えるらしいよ~」
「そのようですね」
警察に事情聴取などされては堪らないので、彼らは早足で去る。
「嫌な世の中だね~。不景気だしさ」
「はい」
「きょーちゃんのとこは、仕事減ったりしてない?」
「問題ありません。給料も減っていませんし」
「ふーん。よかった」
「あ、コンビニへ寄ります」
「りょ」
ふたりで、コンビニへ入った。狂次は、缶コーヒーを。慧三は、ハイライトを、それぞれ買う。
その後。狂次の自宅へ行き、ふたりでソファーに並んだ。
「んー?」
「どうかしましたか?」
「きょーちゃんが、強盗ぶん殴ってるとこ、動画上がってる。あの状況で撮る~?」
動画投稿サイトに上げられたそれのタイトルは、“謎の包帯男! 強盗をワンパン!”である。
「やれやれ。協会に連絡して、削除します」
「きょーちゃん、目立つからな~」
「慧三君も、だいぶ目立ちますけれど」
「きょーちゃんほどじゃないから」
狂次は、釈然としないらしい。
煙草をふかしながら、慧三は笑った。
「アレ?」
慧三は、笑みを消して、関連動画として出てきたものを再生する。
「謎のチャイナ男、強盗を返り討ち、ですか」
「あはは。オレも撮られてたわ。きょーちゃん、消しといて」
「分かりました」
クスリと笑い、狂次は了承した。
こんな日でも、ふたりには普通の一日である。
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