第9話「残念なイケメン」


「ねーねー!!れんれん夜子に変身してみてー!!!」

「え?え…まぁいいよ。」


あの日から1週間。

俺らは俺の「暇。」の一言で適当な場所に集まった。

あれからなにも変化はないし、特に気にすることもなくなった。

噂のサイコパス小学生も、カラーコーンさんも1度も見ていない。


変化身へんげしん


「やこだー!!やこ!!すごーい!!」

「女の子になるの、なんかめっちゃ罪悪感あるんだけど………」

「まぁ、いいんじゃない。今頭の中で女装してる怜想像しちゃって吐きそう。」

「勝手に想像して勝手に吐こうとしないでくれる?」

「伊澄、俺もしちまったからやめてくれ」

「甘楽??」


声も見た目も夜子なので本当に頭こんがらがる。

絶対に夜子がしない口調と仕草でおかしくなりそうだ。

まじで頭の中でこっちは怜と唱えてないと……


「あ、やこジュースかってくるねー!!飲みたいのあるー?」

「あ、コーラ」

「はーい!!2人は?」

「俺はいいかなぁ、持ってきてるし」

「僕もいいよ、ありがとう」

「はーい!!」


そういって夜子はそそくさと自動販売機へ向かった。


「怜、戻れる?」

「…待って戻り方わかんない」

「おいどうすんだよ…!」


すると遠くから何かが走ってくる音が聞こえる。

もしかして…これは…………


「夜子ちゃーーーーーん!!!!!!!」


後ろから走ってきた人が怜に飛びかかり抱きつく。

…それは夜子じゃないぞロリコン…!!


「あっ…」

「うわっ?!?!えっと?!どうしました?!どなたで??!」

「……ん…??は?!夜子ちゃんだけど夜子ちゃんじゃない!!誰だお前は!!!!」


こ、この人はやばい…!!はやく怜からこいつを引き剥がさないと…!!


「たっだいまー!!…え…!??!なんでいるの?!」

「夜子ちゃん?!!夜子ちゃんだぁ!!会いたかったよぉ!!」

「…桜田…、その人は?」

「えーと、銀杏いちょう 朝日あさひおにいちゃん…。私のお母さんの友達の姉の息子なの…」

「遠ッ?!?!」

「いずいずはしってるもんね」

「うん、昔から夜子に執着するロリコ」

「伊澄侑ゥ、テメェは許さねぇからなぁ…!!」

「犯罪者って呼んだ方がよかった?」

「伊澄侑ゥ!!!」


怜も知らぬ間に戻ってるし甘楽はフリーズしてる……

まぁ、そりゃあそうか。

誰だってこの状況は混乱するか。


「あさひお兄ちゃん落ち着いて……、いずいずのことは殺さない約束でしょ?」

「そうだったねぇ♡♡ごめんねぇ♡」


夜子は俺を殺さない、という約束を朝日お兄さんとしている。

夜子の言うことは何でも聞くからね…このロリコンは。

というか、なんだ俺を殺さない言う約束って。

殺人鬼予備軍が過ぎるだろ。


「じゃあ、つまり伊澄侑は殺しちゃ行けなくても」


「お前らは殺していいんだよなぁ…?!?!」

「…は?!待ってください銀杏さん俺らは別に!!」

「俺は夜子ちゃんに近づくやつらはどんな手を使っても全員殺したんだよォ……やましい事があろうがなかろうが…お前らは殺さなきゃ行けねぇんだよォ!!」


朝日お兄さんの眼が紅く光る。

…これって…もしかして…


疾風しっぷう


朝日お兄さんから強風が吹いた。

周りに、砂や砂利が飛び回る。目に入りそうだ…。

飛ばされそうなのを耐え、甘楽と怜の方を確認する。

2人ともたえているようだ。

というか、標的はあの二人のはずなのになんで俺まで巻き込まれているんだ??


「はっ、よく耐えるひっつき虫…。これは俺の能力、俺だけの能力。俺が夜子ちゃんを守るための能力だ。能力は機密情報。だからお前らには結局死んでもらうしかないんだよォッ!!!」

「待ってください!!僕らも、その…っ!!能力使いで…!!さっきの…!!夜子の姿になってたのは…!!それで…っ!!」


怜は強風に耐えながら朝日お兄さんに説得をする。


「はぁ…?あぁ、そうかぁ。でも…、結局お前は死ぬんだよォ!!」

「暴論すぎるだろ!!」

「まって!それ以上はだめあさひお兄ちゃん!!」


『疾風』


「やめてあさひお兄ちゃん!!!」

「ごめんねえ。こんな奴らといっしょに…」


「あさひお兄ちゃんっ!!!!!」


夜子が焦った顔で、今にも泣きそうな顔で声を上げた。


「…夜子ちゃん?」

「みんな、やこの大事なお友達なの、お願い、やめて…!」

「な…、夜子ちゃん、俺は君のために」

「やこのためなんかじゃない!!あさひお兄ちゃんの、自己満足のためでしょ!やこのことなんかなんも考えてない!!」


夜子は朝日お兄さんの腕の中で涙を流す。


「おいおい、大事〜な子を泣かせてんじゃねぇかよ、ロリコン!」

「うるさい銀髪!!お前になにがわかる!!」

「お前もかよ!!!」

「うるさいのはあさひお兄ちゃんだよ!!あさひお兄ちゃんこそなにもわかってない!!やこのこと何も知らない!!」

「やこちゃ_」

「いずいずっ!!」


夜子は朝日お兄さんを振り払って俺に抱きつく。


「…今年で21だっけ。朝日お兄さん。」

「…それになんの意味が」

「もういい歳した大人なのに自分より何歳も下の子を泣かせて怖がらせてるの、なんとも思わないってわけ?」

「なっ…!!お、おれは…!!」


強風が止む。

朝日お兄さんの顔がわかりやすく曇る。


「…朝日お兄さん、まえにいっていませんでした?夜子のが好きだって。今はどうですか?泣かせてませんか?」

「夜子ちゃんは、俺が守るって」

「泣かせてるのに守ってるんですか?」

「…な………、そう…だね。」


身なりを整えて、甘楽が駆け寄ってくる。


「お前のくせにいいこというじゃねえか」

「うるさい銀髪。」

「なんかそっちのお前のほうが安心するわ…。」


朝日お兄さんは俺を見つめて


、俺が…、間違ってた…ごめん、いままで、ずっと…」

「もっと謝るべきひとがいる。」

「…!」


朝日お兄さんは夜子の手を取って見つめ、申し訳なさそうな顔で口をひらく。


「ごめんね、夜子ちゃん…」

「ううん、やこもね、大袈裟に言い過ぎたの。ごめんね」


夜子も謝ることないのに……

朝日お兄さんはその言葉に下げていた頭をハッと上げた。


「な、なんて…天使…!!」

「いずいずありがとう!かっこよかった!」

「そう?」

「なっ、なっ…!!夜子ちゃ…」

「あさひお兄ちゃんはださかった」

「ッ…………………………………………」


その言葉に相当やられたみたいで地面に手をついたまま固まった。

あんだけいっても夜子のことは諦めきれないんだなぁ


「顔はいいんだから何も喋らなければいいのにな…」

「それは思った…、銀杏さん、モテるでしょ。」


怜が問いかけてもなんの返答もない。

そりゃあそう。だっていま特大ショック受けてるんだから…。


「あさひお兄ちゃんはね、大学生で…、保育学科だっけ?すごくモテるんだよねー、めっちゃ昔に沢山の女子大生さんとあるいてるところみた。」

「ああ…保育学科な…。まぁ…そうか…。何大なんだ?」

「んー…?南…浜松大?」

「俺の兄ちゃんと一緒じゃん。21だから学年も一緒なのか。」

「甘楽お兄ちゃんいるの?」


甘楽は怜に指摘されてハッとした。

…兄ってバレたくないもんだっけ。

甘楽としては嫌なのかな。


「えっ…あ、えっといないいない!!忘れてくれ!!!!!!」

「…ふーん」


まぁ、いるんだろうな。

この人たちはみんな口が軽いのか?

…まぁ、怜は秘密とか言わなそうだな。

信頼できるのは怜くらいか。


「やこ………ちゃん、まだ、君を好きでいてもいい………かなぁ………………」

「周りに迷惑かけなければ!」

「ありがとう天使よ!!!!!」

「…まって、侑、今やばい状況かも」

「え?」


怜が俺の袖を引っ張って話す。

怜に言われて周りを見ると人集りが出来ている。

人々の目線の先は……、俺たち。


「…まずい」


散々騒いだからみんな集まったんだ………!!

とりあえずこのロリコンを引き剥がして逃げるか!!


「夜子!俺の手握ってて!!」

「えっ?うん?」

「へっ?」


このロリコンは夜子しか眼中になかったんだろうな!!ぽかんとした顔しやがって!


「銀杏さん、このままだと犯罪者っすよ!!!血縁関係もない大人が女の子に抱きつくってやばいからな!?!!」

「ええ?!あ!!そういうこと?!ちょっと待って!!」


やっと状況を理解した朝日お兄さんが、俺らの後を追いかける。


「髪型センター分けにしてイキってる場合じゃないよー」

「伊澄侑!!やっぱお前だけは許さねえ!!!!」



あの集団を振りほどき、人目の付きにくいところまで来た。


「ね、いずいず。コーラ走ってるときにたくさん振っちゃったから吹き出るかも…」

「すっかりコーラの存在忘れてた…、ありがと夜子。…開けるの怖いな…」

「ひ、ひさびさにこんなにはしった………」

「そうだ、銀杏さん…、能力のこと…」

「え?ああ…、ごめん。俺も能力使いで…、俺の能力は『疾風』。俺自身から風を発生させて周りのものを吹き飛ばすっていうやつ。」


へぇ、だから不自然なところから風が発生してたのか。


「それって最大とかだとどうなるんだ?」

「分からないね、そこまでやったことは無いから。基本人間って簡単に飛ぶからさ」

「えっ」

「冗談だよ…。」

「え!じゃーさ!あさひお兄ちゃんはさ!ちはちはしってるー?!」


朝日お兄さんは夜子から発された意味不な言葉に首を傾げた。


「ち、ちはち…は?」

「えーとな、お前のあだ名は変なところから持ってくるから分かりにくいんだよな。」

「俺にはつけてくれないのに…」

「ま、まぁまぁ…。」

「…えーと…。有村智早さん。知ってると思うんだが…」


朝日お兄さんは「あー、その人か!」とわかったような顔をして


「ニートの人か…、あの人今年で24だっけ?」

「多分この前年齢聞いたら23って言ってたからそう。」

『あのねぇ!!俺はニートじゃないの!!!』


突然、朝日お兄さんの携帯から聞きなれた声が聞こえた。


「ちはちはだー!!!!」

『相変わらずのあだ名呼びだねー。夜子ちゃん。』

「今回は有村さん関係ないだろ?なんで?」

『カラーコーンさんの事件を追うために監視カメラ1個ずつジャックしてたの。そしたら君たちがいたから気分転換にとでも思って携帯を乗っ取ったの。そしたら俺の事ニートとか今年で24とか…!!!』

「カラーコーンさんか…、あの話題の警備員でしょ?」

『そう。なんか調べてて思ったんだけどもしかしたらこのカラーコーンさん、なんだよねぇ。まぁ確信とまでは行かないけど。』

「有村さんお疲れ様」

『怜くんありがとうねぇ。……高野さんはそろそろ俺に給料だしてもいいっつーの………』


そう言い残して、智早さんは作業に戻ったようだった。


「…もうすぐ門限だし…今日はもうお開きにしよう。」

「うん!2人ともばいばーい!!」

「じゃーなー!」


いつもは夜子と二人きりで帰る帰り道だったが、今日は朝日お兄さんが居ることによって、ただでさえ夜子だけでも十分騒がしいのに、いつもより一層騒がしくなった。

…懐かしい気分になれた。

今日は騒がしさもあり、懐かしさもある1日だった。

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