2-17 この二人は姉妹か?

【ロプ村内】


 エドナは、ロプ村で怪我人の治癒をしていた。


「これで最後なんだよ」


 治癒の光を当てた、傷が塞がっていった。


 エドナは、ようやく怪我人全員の治癒が終わった。


「おお、怪我人全員を治療するなんて。お嬢ちゃんは、神に派遣はけんされた天使様てんしさまじゃ」


 たった今、怪我を治癒して貰った村人の老人がお時期をした。


「……だけど、全員ではなかったんだよ」


 エドナが見ていたのは、シーツの上で、泣く女性の姿だった。そのシーツには、膨らみがあった。


 そのシーツで被せていたのは、中には、ガイザックから婚約者の女性を助けようとして返り討ちにあった男性の遺体だった。


「気を止むではない。其方そなたがいなければ、死人が多くいただろう。感謝をしてもしきれない。……それにしても、大分だいぶ、時間が立つが、ガイザックを追いかけた其方の連れが心配じゃの」

「はうう。カチュアさん達大丈夫かな?」


 エドナは、ふっと顔を見上げると、村の入り口辺りに人影が見えた。


「あれは……カチュアさん!? カチュアさんなんだよ!」


 村に入ってきたにはカチュアだった。それに加え、ルナとアルヴスもいた。


「無事だったんですね!」

「何とかなったわ~」


 エドナはカチュア達の元へ走り出した。


 しかし。


 ズリッ!!


「あ!」


 エドナは足を滑らした。


「はわわわわわわわ!!!」


 ボヨーーーーーーーーン!!!


 足を滑られたエドナは、カチュアの胸元に突っ込んでいった。さらに、勢いよく突っ込んだため、カチュアを押し倒してしまった。


 エドナは、さらにカチュアの谷間へ入っていてしまった。


「うおおおおおおお!!! うらやましいいい!!!」

「なんという、けしからん、けしからん光景だーーーー!!!」


 カチュアの胸元に入り込んだエドナを見て、兵士達が大声を上げていた。


「はわわわ!!! ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」


 カチュアを下敷きにしてしまったエドナは、慌ててカチュアの上から降りた。


「うん、だいじょぶよ~」


 そんな二人の光景を見つめるアルヴス。


「どうしたんですか? 兄様。お二人さんのことを不思議そうに見て」

「いや。あの二人って、姉妹か?」

「え? 違いますよ? どうして、そう思ったんですか?」

「あの二人、姉妹見たいに仲が良く見えるんだよ。雰囲気も似ているし。パッと見、性格は似ていないようだけど」

「そうですね、カチュアはおっとりしている方ですが、エドナさんは明るい方ですね」

「それと、位置は違うけど、二人共、ピョーンとねた髪の毛が特徴だよな」

「カチュアさんは頭の天辺で、エドナさんはおでこと隣接しているところですよね? 不思議ですよね、あの髪。何故、できるんでしょうね?」

「後は胸がデカい所か」

「もう! そこも見ていたんですか!? 兄様はいつからスケベになったんですか?」

「男性は大半はスケベだ。ただ違うのは、スケベ心持って、迷惑を掛けているか、掛けていないかの違いだ」


(まあ、俺が気にしていたのは、姉妹かどうかではなくではなく、カチュアの嬢ちゃんがエドナの嬢ちゃんにぶつかってしまったことだ。カチュアのお嬢ちゃんなら、今のを避けるか受け止められると思ったがな)


「立てるか?」


 アルヴスは微笑ほほえみながら、倒れているカチュアの手を掴み、引っ張ったら、カチュアは立ち上がった。


「あの~。もしかして、ルナちゃんのお兄さんですか?」

「ああ、アルヴスだ。君はエドナだよな?」

「はい。あたし、エドナなんだよ」

「ルナから聞いている。治癒術の使える子だったな。よろしくな」


 アルヴスは、右手を出した。それに対してエドナは、握った手から二本の指を立てた。


「あの~じゃんけんですか?」

「……いやいや、違うから」


 アルヴスは「クスクス」と笑った。


 エドナが、ふっとアルヴスさんの足元を見ると、顔の形が崩れた、ボロボロの恰好をした男の人が寝そべっていた。


「あ! 怪我していますね。治しますんだよ!」

「いや、こいつはガイザックだ」

「そうなんですか? でも……顔が」

「確かに、こんな顔にされて可哀想だな。これから囚人になるけど。治した方がいいな」

「よく『可哀想だな』って言えましたよね」

「ルナちゃん?」

「この人……ルナの兄ね。顔面が潰れたガイザックを、うつ伏せにした状態で、拘束術を……あ! この鎖みたいな奴ね」


 ガイザックの体と足首に鎖が巻かれていた。


「それで巻きつけたガイザックを、ここまで地面に引きずって来たのよ、この人。もう、酷いですよね?」

「こういう時に使うのがサドかな? 村長さんから聞いたことがあるんだよ。……でも、意味は分からないんだよ」

「間違っていませんよ、エドナさん。この人、サドですから」

「おいおい、失礼だな」

「失礼って、兄様は囚人を雑に扱い過ぎるんですよ。いくら悪いことをしても、ぞんざいに扱うのも人の倫理が欠けますよ」


(そんなことしているから、外道殺しの異名が付いちゃうんですよ。その異名のせいで、貴族達が兄様のあることないことの作り話を、皇帝様に吹き込まれるんですよ。だけど、皇帝様は「外道殺しなら、悪いことをしなければいいのでは?」という理由で、貴族達の話を全く受け入れていないみたいです)


 エドナはガイザックっに治癒術を使った。ガイザックの顔が戻っていったが、ガイザックは気絶したままだ。


「これでよし」


 アルヴスはエドナを凝視していた。 


「君はいったい」

「え? エドナですよ」

「いや、まあ、そういうことじゃなくって……まあ、いいや。それにしても君の治癒術は凄いな」

「そうなんですか? ルナちゃんにも、同じことを言われた記憶はあるんだけど、そうなのかな?」

「そうだな。見た感じルナよりかは年が下に見えるのに、この高度の治癒術を扱うなんて」

「ルナちゃんって、何歳だっけ?」

「ルナは十三ですよ」

「十三歳なんだ。あたしは十五歳なんだよ。ルナちゃんは年下なのに、あたしよりも、しっかりしているんだよ」

「ルナよりも年上だったのか。よかったな、背は若干だけど勝って。胸は完全惨敗ざんぱいだが」

「兄さま!!!」


 ルナはアルヴスの腹部に何度か殴っている。


(しかし、ルナのパンチが弱過ぎるのか、痛がる様子はないな。笑っていやがる)


「まあ、とにかく、一度、アヴァルの街に戻ろうか。本当はタウロの街に行きたいが、ここからじゃ遠すぎる」

「兄様、なんで平然で話を進められるんですか?」

「仲良しですね」

「そーね~」


(この光景を見てどこからそんな発言が出てくるんだが。本当に、吞気すぎるな。このノーテンキコンビは)


「ん? ところで、この穴は何だ?」


 村内の地面には十二か所の爆発で開けたような穴があった。


「まさか敵襲か?」

「いや~それは……」

「はうう、恥ずかしいんだよ! あの穴は、あたしがやったんです」

「この複数の穴がエドナさんの仕業? ……あああああ!!! まさか」

「これがお嬢ちゃんの仕業って、どういうことだ? 確か、皆の治療をしてくれたんだよな?」

「そうじゃよ。ただ、怪我人のところに向かうたび、お嬢ちゃんが転んでしまって、そのたびに、こういった穴ができたんじゃ」

「はっはっは、ツッコミが追いつかん。そうなると、どんだけ、転んでいるんだよ? てか、どんな転び方をすれば、こんな、爆発後みたいな穴ができるんだ?」


 アルヴスは呆れながら笑っていた。


「エドナさん。よく転ぶんですよ。出会ってから、ここに来るまでにも転んで色々壊していますよ」

「もう、好きで転んでいるわけじゃないんだよ!」

「兵器じゃないか。カチュアのお嬢ちゃんよりも、強いじゃないのか? もはや、転べば無双ができるんじゃないのか?」

「もー! そんなこと言われても、嬉しくないんだよー」




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