2-3 お節介な女の子

【アヴァルの街。街中】


 声がする方へ向いてみると、ピンク色の髪を左右に結んでいる猫のような細い目をした女の子と、その女の子よりも身長がずっと高い黒の入った赤髪の男性が揉めていた。


(あの二人が着ている黒い服。まるで白衣はくいみたいだね。黒色の白衣。それはもはや白衣と言うべきか? そもそも、白衣って何?)


「それに、街中で騒ぐなよ。子供じゃないし」

「ルナだって、子供じゃないですよ!」

「いや~。確かに、年齢の割には大人びているよな、お前は。でもな、仮に中身が大人びていたとしても、『子供じゃない』と言う子ほど、危なっかしいんだよな」

「なんでよ!?」


 ピンク色の髪の猫目の女の子は、彼女の特徴でも言える猫目をさらに目を細めながら、黒の入った赤髪の男性の顔へ近づいていった。


(本人は顔を近づかせているつもりでいるが、背丈の差があり過ぎで全然男性の顔まで届いていない)


「そんなに怖い目をするなよ」

「目つきが悪いのは生まれつきです! ルナはこの目が気にしているんです。ルナはこの目で愛想ないって言われているんです」

「猫見たいで可愛いと思うんだけどな」


 黒の入った赤髪の男性は頭をかいた。


「そ、そ、そんなこと言うの、に、に、兄様だけです!」


 ピンク色の髪の猫目の女の子は顔を赤らめた。


「アルヴス殿。こちらにいましたが」


 二人の男女の元に一人の男性が駆けつけて来た。


「おお! 部下君ではないか」

「アルヴス殿。私には、ちゃんとした名前があるのですが……」

「いや~。すまん、すまん。なんせ、部下君の名前は長過ぎるうえ個性的な名前だから、指示とか出す時に困るんだよな」

「それを言われたら痛いですね。名前の件に関しては、私も名付けてくれた親に文句言いたいですよ。周りの人達には笑われてしまう始末です」

「まあ、それは置いといて。ルナは俺が帰ってくるまで、この街で留守番だ。いいな?」

「もう! 兄様のバカ! アホ! 大バカ!」


 『兄様』と呼ばれていた黒の入った赤髪の男性は、部下と呼ばれた男性を連れ、ピンク色の髪の猫目の女の子を置いて、どこかへ行ってしまった。


 カチュアとエドナは、その光景を見ながら足を一歩、動かしたら。


 ゴローーーーーン!!!


「はわわわわわわわわ!!!」


 ドォーーーーーン!!!


 エドナは、足元になんかを踏んだようで、滑る様に転んでしまった。


「エドナちゃん、だいじょぶ?」

「いたた……! なんとか……。また、派手に転んじゃったんだよ」

「大丈夫ですか? かなり、派手に転んだみたいですけど」


 エドナに声を掛けたのは、さっきの黒の入った赤髪の男性と揉めていた、ピンク色の髪の猫目の女の子だった。


 ピンク色の髪の猫目の女の子が手を出すと、エドナはその手を掴み立ち上がった。

 

「はうう~。大丈夫です。あたし、よく転びますので……」

「『よく』って、『よく』が付く程、人ってそんなに転ぶものなんですか? そんなに、転んでいたら、そのうちお顔が別人に変わるみたいに変形しますよ」


(思わず助けましたが、何ですか? この人? ルナよりも若干背が低めなのに、お胸が育ち過ぎています。人って、身長が低くっても、ここまでお胸が育つものなんですね)


「ああ! やってしまったぁぁぁぁぁぁ!!!」


 エドナが立ち上がると、太ったおじさんが訪ねてきた。


「すまねえな、嬢ちゃん! 俺はそこで店を開いている者なんだけど」

 

 この太ったおっさんは店主のようだ。


「俺の落としてしまった、リンゴのせいで転んでしまったようで……」


 地の上に、潰れたリンゴが転がっていた。エドナはこのリンゴを踏んで転んでしまったようだ。


「あたしは、大丈夫なんだよ」

「本当にすまない! お詫びに、俺の店のリンゴを沢山やろう」


 店主は木箱をエドナ達の前まで持ってきた。その木箱の中には沢山のリンゴが入っていた。


「あの~。いくらお詫びでも、そんなに貰って持ち運べないのでは?」

「よいしょ~」


 カチュアは木箱を片手で持ち上げた。


「どーしたの~?」


 木箱を持ち上げた姿を、呆然として眺めていたピンク色の髪の猫目の女の子。


「いえ、なんでもないです……」


(この人、なんで軽々と、木箱を軽々と持ち上げているんですか? かなり重たいはずなのに)


「本当に悪かったな。良かったら、俺の店に尋ねて来てくれ。じゃあな」


 謝罪した店主は、お店へ戻っていった。


(この伝説の女将軍のような蒼い髪に瞳の美人さん、かなりのお胸の大きさを誇っていますね。ルナが出会って来た中では、断トツに大きいです。ここまで、お胸って育つものなんですね。……あれ?)


 まだ、その場にいたピンク色の髪の猫目の女の子が、カチュアとエドナのことを見つめていた。


「あれ? あなた達! おっぱ……じゃなかった……! ええとお」


(大きなお胸に目が行き過ぎて気付くのが遅れましたが、二人から感じるのって……)


「あの……どうして、そんなに睨みつけるんですか? 猫ちゃんのような細めの目で」

「は! 失礼しました! この目は生まれつきです。別に睨みつけているわけではないではないです」

「あ! そうなんだ! 猫ちゃんみたいで可愛いと思ったんだよ」

「か! 揶揄からかわないで下さい!」

「はう! ごめんなさいなんだよ!」

「あ! いいえ! すみません! 急に怒鳴ってしまって! 申し訳ございません!」


 ピンク色の髪の猫目の女の子はお辞儀をした。


「それよりもあなた達! よく見たら、体中、かなり汚れていますよ!? 何かあったんですか!?」

「え?」


 エドナは自身の服装を見て回わした。


 カチュアとエドナの服は、かなり泥まみれに汚れていた。


「本当なんだよ。街に着くまで、服の洗濯はしていなかったんだよ。もう村から出て七日の間、お風呂すら入ってなかったんだよ」


(七日? 七日と言えば……)


「旅の方ですか。……それは大変だったですね! 宿屋に行けば、桶風呂おけぶろがありますよ。ルナが案内します」

「よかった。丁度、宿屋を探していたのよ〜」

「カチュアさん。宿屋に案内してくれるのは良かったんだけど……あたし達、お金がないんだよ」

「あら? そーだったわね~。どーしましょ~?」

「それなら、ルナが立て替えます! 後で、仕事でもしてお金を返せばいいですから」

「ほんと!? ありが……」


 エドナがお礼を言おうとしたところで、ピンク色の髪の猫目の女の子は、カチュアとエドナの腕を掴んだ。


「さあ、行きますよ! こっちです」


 ピンク色の髪の猫目の女の子は、カチュアとエドナの腕を掴みながら歩き出したんだよ。


「はわわわわわわわわわ!! 自分で歩けるんだよーーー!!」


 途中で、エドナは転んでしまった。しかし、それでも、お構いなくピンク色の髪の猫目の女の子はエドナの腕を引っ張って行った。


「はわわわわわ!!! お尻が引きずられるんだよ!!!」

「エドナちゃん、だいじょぶ?」


 カチュアは、エドナと違って引っ張られても転ばないで、普通に歩きながらピンク色の髪の猫目の女の子に引っ張られていた。


「はうう……転ばないなんて、カチュアさんが羨ましいんだよ。どうすれば、転ばないで済むのかな?」 




【アヴァルの街。宿屋前】


「お二人さん、着きましたよ」


 カチュアとエドナの前には小さな建物だった。


「はうう。ここは?」

「宿屋ですよ。宿屋としては、大きいほうですよ。さあ、中に入りましょう」


 ピンク色の髪の猫目の女の子は、カチュアとエドナの腕を引っ張りながら宿屋に入っていった


「いらっしゃいませ!」


 宿屋に入ると優し気な雰囲気を持つ女性が元気に挨拶をした。


「あ! モニカさん。お部屋って空いてますか?」

「ルナちゃん! どうしたんですか!? そんな、怖い目をして」

「これは生まれつきです。気にしないで下さい」

「あはは。そうじゃなくって……。私、なんかしちゃったかな?」


(もしかして、モニカさんのお胸を睨みつけてしまったからかな? さっきから、大きな胸を見続けたから、つい敵視するように見てしまいました。なんせ、今まで見て来たお胸の中では断トツに大きい人と、ルナより背が低いのに大きい子がルナの手元にいますから)


「いいえ! 何でもないですよ! ほんと! 何でもないです!」

「あら? そうなの? ……ところで、ルナちゃん。その二人は?」

「え? ああ、このお二人さんですね。この二人は……」


(……そう言えば、名前は、まだ聞いていませんでした。でも、その前に)


「取り敢えず、お客さんですよ。モニカさん。この二人に、お部屋の手配をお願いします。ついでに、お風呂もお願いします」

「え!? ……あら、よく見たら、体中、汚れているわね。今、用意するね。取り敢えず、お代はいいから」

「いいえ、今払います。モニカさんは、商売で宿屋を経営していますし特別扱いしてしまうと、それに漬け込む人がいますから」

「も〜! ルナちゃんは、相変わらず、真面目さんね〜」


 ピンク色の髪の猫目の女の子がお金を取り出そうとする。


 ドーーーーーン!!! ちゃらーーーーーん!!!


「な、な、な、何事ですか?」


 ピンク色の髪の猫目の女の子が、左下側の方を見ると。エドナが、顔面から思いっきり床にぶつかっていた。


「……! しまったです!」


 ピンク色の髪の猫目の女の子が、エドナが転んでいるにも関わらず転んだまま引きずっていたため、ピンク色の髪の猫目の女の子が突然手を離したために手を繋ぎっぱなしだったエドナが、さらに転けてしまったのだ。


「あぁぁぁぁーーー!!! ごめんなさい!!! 大丈夫ですか!?」

「はうう……大丈夫なんだよ。よく、お顔をぶつけるんだよ!」

「それは、それで、大丈夫なんですか?」


(リンゴを踏んで転んだように、この子は、よく転ぶらしいです)


「あれ? なんか、さっき『ちゃらーーーーーん』と音がしたような……」


 周りを見渡すと、金色の小さな円盤が三枚落ちていた。


「これは……」


 ピンク色の髪の猫目の女の子は、落ちていた金色の小さな円盤を一枚拾った。


「あ! それは、あたしのです」


(見てみると、思った通りです。でも、さっきは、持っていないと言っていたから、もしかして)


「あの~もしかして、あなたは、これがお金だってことは知らなかったのですか?」

「これがお金ですか!? 村長さんから、旅に出る時に必要だからって貰ったものなんだよ。そっか! これがお金なんだ」


(お金を見たことないって、どんだけ、世間知らずですか? この人は? そんなことよりも)


「そこに行けば、浴場だから、体を綺麗にしてらっしゃい!」

「はーいなんだよ」「は~い」


 ピンク色の髪の猫目の女の子が指をさした方向に、カチュアとエドナは走っていった。


「そう言えば、聞きそびれちゃったけど、あの二人は?」

「あ! 結局、お二人の名前を聞きそびれました。」

「ボロボロだったけど、何かあったのかしら?」

「以前なら、旅途中で遭難そうなんなんですけどね。以前なら」

「もしかして、ヴァルダンの襲撃と関係あるのかしら?」

「あの二人に、聞きたいことありますから、浴場から出てきたらルナに教えてください」

「わかったわ」

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