第105話 54日目 1月14日(火)牧之原

「おぇー」


俺は、建物に入って直ぐえずいていた。

飲食店から匂う食べ物の匂いを嗅いだ瞬間だった。

俺は、奥歯を噛み締め一度外に出る。

あぶなっ、吐きかけた。


「慎くん、大丈夫?」

「あ、うん。匂いで吐き気がね…」

「私と同じ…あれ?慎くん妊娠中?」

「いやいや」


言われてみると悪阻のような感じ。

前ほど、仕事で無茶をしているわけではないし昨日も睡眠はしっかり摂っている。


「慎くん、それってもらい悪阻じゃない?」

「もらい悪阻?」

「うん、確か…えーと、クーヴァード症候群っていったかなぁ」


男でもなるのか。

知らなかったな。


「ふふ、慎くんがそこまで私の事心配してたんだと思うと嬉しいなぁ」

「えっと?どういうこと?」


俺達は、自販機へと向かう。

室内にはちょっと行けそうにない。


「えっとね、悪阻の酷い奥さんに同情して、同調するあまり同じ症状になるんだって」

「あ…同情…同調…」


そう言われると頬が熱くなる。

取り敢えず、水分だけは買おう。


「緋音、何飲む?」

「オレンジジュースかな」

「オッケー…俺は、水にしとこうかな」


俺達は、自販機で飲み物を買って車へと戻る。

そして、一呼吸置いてから運転を再開した。


「慎くん、大丈夫なの?」

「あ、うん。大丈夫…」

「慎くんは、薬を飲んだらどう?私は、飲めないけど慎くんは飲めるよね」

「ああ、確かに。あとで、薬買おうかな」


えっと、何の薬でいいんだろう。

吐き気だから、胃薬…胃酸抑制薬…胃粘膜保護薬…整腸薬かな。

後で調べてみようかな。

牧之原SAを出て、山間を縫っていく。

吉田IC、大井川焼津藤枝スマートIC、焼津ICを越えると日本坂SAが見えて来る。

そこを過ぎるとすぐに車線が増える。

日本坂トンネルだ。

左と右とトンネルが分かれている為に車線が多い。

長いトンネルである。

俺達は、左側のトンネルへ進む。


「日本坂長いんだよね」

「うん、慎くん疲れてない?大丈夫?」

「大丈夫だよ。休憩は、富士川でどうかな?」

「そこで、長めに休憩にしよっか」


富士川は、なかなか大きなSAである。

そして、富士川楽座がある。

富士川楽座は『食事ができ、遊びながら学ぶこともできる、多目的複合型施設』。

館内のいたるところから、富士山が望められるような造りになっている。

薄暗いトンネルをやっと抜けようとしている。

少し前方から光が漏れ出ている。

トンネルを抜けると正面に富士山がくっきり見えた。


「わぁ、富士山」

「綺麗に見えるね」

「運がよかったね」


富士山がくっきり見えるのは、浜松からしたら珍しい。

だって、直ぐにみられるものじゃないから。

でも、昔は浜松からでも見ることは出来たか。

今も、見えるときはあるけど。

昔ほどではない。

歩道橋の上から望んだ風景を思い出す。


「昔、歩道橋の上で見たね」

「懐かしいね」


車は、日本坂トンネルを越え安倍川を渡る。

静岡ICである。

約1時間。

割と速いペースでこれたと思う。

ここから、30分もしたら富士川に辿り着く。



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もらい悪阻

実は、過去に経験があります。

当時、全く食べる事が出来なくなりました。

病院行っても病気ではないと言われ、ガスター10の処方箋版を処方されるだけでした。

まあ、10年以上前の話なので今ほどクーヴァード症候群などと名前はなかったような気がします。

この話、実を言いますと天風自身の事が割と多めに書いてあります。

45kg…の話とかも実際の私の話だったり。

東京到着までには、富士川のあとに海老名が出る位の予定。

東京は、浅草のホテルの予定です。

まあ、浅草なのでスカイツリーとかの話も書きたい気はします。

さて、あと15話ほどになるかと思いますがお付き合いください。


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