34 緊張の下の平和
ゼルトンの動きが一時的に共産主義的思想の拡大を目指しているかのように見えたが、実際には他国がそれに警戒し、安全保障のために同盟を結び始めた。海を挟んだ強国トリスタンを中心とした一つの勢力と、アルバナ王国とノルデン王国を中心にしたもう一つの勢力が、まるで世界を二分するかのように同盟関係を築いていった。これにより、各国の緊張は高まりつつあったが、戦火はまだ直接的に表面化していなかった。
アルバナ王国の宰相であるフリーデリケは、この状況に一定の安堵感を覚えていた。彼女が最も恐れていたのは、ゼルトンの勢力が無制限に拡大し、アルバナ王国が直接的な脅威にさらされることだった。だが幸運なことに、ゼルトンはトリスタンを含む他国の強い圧力によって、動きを制限されていた。
「我が国はゼルトンと不可侵条約を結んでいます。それに加えて、この同盟の中での協力があれば、当分の間は平和が保たれるでしょう。」
フリーデリケは、安心したように小さく息を吐いた。
国内の改革を進めるための時間が確保できたことは、フリーデリケにとって重要だった。国の財政状況を立て直し、戦後復興を進めるためには、戦争に突入するわけにはいかない。彼女はこの一時的な平和を最大限に利用しようとしていた。
しかし、彼女の隣に立つ翔は、異なる見解を抱いていた。
「確かに今は平和が保たれていますが、いつまで続くのでしょうか?」
その目は、遠くを見つめながらもどこか曇っていた。
フリーデリケは立ち止まり、彼に向き直った。
「どういう意味ですか?」
「表面的な平和は、一時的なものに過ぎないのではないかと感じるのです。この不可侵条約や同盟関係が、私たちをがんじがらめにしているように思えてならないんです。」
翔の声には、明確な不安が感じられた。安全保障が強化されていることが、かえって各国間の緊張を高めている。彼は、その張り詰めた緊張が、いつか破綻してしまうのではないかと懸念していた。
「不可侵条約がある限り、少なくともゼルトンからの直接的な脅威はないはずです。それに、私たちの同盟国と共に協力していけば、国の安全は守れる。」
フリーデリケは冷静に答えた。しかし、彼女の声に含まれたわずかな迷いを、翔は感じ取っていた。
「そうだとしても、私たちが今進んでいるこの道は、いつか引き返せなくなる気がするんです。」
翔は続けた。
「国際社会が今のまま緊張を増し続ければ、小さな火種が大きな戦争に発展する可能性が高い。その時、どんなに不可侵条約や同盟があっても、戦争を避けるのは難しいでしょう。」
フリーデリケは少しの間、沈黙を守った。彼女もまた、心のどこかで同じ懸念を抱いていたのだ。彼女が焦点を当てていたのは、この短い平和の期間に国内改革を進め、国を強くすることだった。しかし、翔の言葉が彼女の中にわずかな不安を呼び起こした。
「あなたの言う通りかもしれない。でも、今はこの平和を利用しなければならない。国の財政を立て直し、復興を進めるためには、今が絶好の機会なの。私たちが強くなれば、どんな状況にも対応できる。」
翔はその言葉にうなずいたが、心の中で不安を完全に払拭することはできなかった。彼の頭の中には、第一次世界大戦前の状況が思い浮かんでいた。大国同士が互いに軍事同盟を結び、互いに牽制し合う。その結果、ちょっとしたトラブルが大きな戦争の引き金となった過去が、彼の中で生々しく響いていた。
その後数日間、フリーデリケと翔は国内改革の計画を進めながらも、国際情勢から目を離すことはなかった。
◇
ある晩、二人は再び会議室に集まり、国内の経済政策や同盟関係について議論を続けていた。国際的な緊張感が漂う中、フリーデリケは経済の安定が鍵であると考えていた。一方、翔は、軍事的な備えもまた必要だと主張した。
「経済の立て直しは重要です。でも、それと同時に、私たちは自国の防衛力を強化する必要もある。安全保障だけに依存していては、最悪の事態に対応できなくなる可能性があります。」
翔は冷静に言った。
フリーデリケは腕を組んで考え込んだ。
「確かに、その通りかもしれない。だが、経済が安定しなければ、軍事力を維持することも難しい。私たちが今注力すべきは、国の復興だと思う。」
翔はその考えを尊重しながらも、内心で感じていた危機感を隠すことができなかった。
「それは理解しています。ただ、国際的な情勢がさらに悪化すれば、私たちは準備不足で大きな混乱に巻き込まれるかもしれません。」
「あなたの懸念は理解できるわ。だからこそ、私たちが今できることをしっかりと進めていきましょう。どちらの側にも偏らず、経済と軍事のバランスを取ることが重要よ。」
翔は彼女の言葉に頷き、再び書類に目を落とした。フリーデリケの指導力と冷静さは、国内外の多くの困難を乗り越えてきた。彼もまた、彼女の決断に信頼を寄せていた。だが、国際情勢が今後どのように展開していくのか、それは誰にも分からなかった。
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