超絶不機嫌な王子様
第21話 超絶不機嫌な王子様
翌朝、私はアラームよりも少し早く目を覚ました。
寝ぼけ眼をパチパチさせつつ、スマホのアラームを解除しておこうと、なにげなく手を伸ばしたときのこと。
いつもならスムーズに動かせるはずの手が動かない。そればかりか、身動ぎすらできないという窮屈さを覚えた。
ーーそんなに疲れている訳でもないのにおかしいなぁ。
などと思いつつ、ゆっくりと視線を身体へと下げていった。
するとあたかも抱き枕のように、後ろからすっぽりと包み込むようにして、二本の腕がしっかりと身体に巻き付けられている。
そういえば、昨夜から桜小路さんの寝室で寝起きすることになったんだっけ。
寝起きでまだちゃんと働かない頭が覚束ないながらも、昨夜の記憶へ辿り着いたちょうどそこへ。
「眠いからもう少し寝かせろ」
桜小路さんの不機嫌な低い声が聞こえてきた。
寝起きだからだろうか、やけに掠れていて、何より色っぽい。
その声が、鼓膜を揺さぶるようにダイレクトに響いてくる。
しかも、背後から抱きしめた私の耳元に顔をぴったりと密着させている。
触れられている耳元や身体が燃えるように熱くなってきた。
たちまち穏やかだった鼓動が急激に加速し、ドンドコドンドコ太鼓を打ち鳴らすように暴れまわっている。
今にも心臓が口から飛び出してしまいそう。
けれどそんなオカルトな現象が起こるはずもなく、漫画やドラマでお決まりの、それはそれはド派手な悲鳴をあげてしまう。
「ギャ――!?」
そうしたら間髪いれず。
「朝からうっさいッ!」
桜小路さんの地を這うようなひっくい怒声が耳元で轟いた。
自身の声で鼓膜が裂けるんじゃないか、と懸念する間も、耳を塞ぐような僅かな隙さえも与えられないまま、私の身体は桜小路さんによって呆気なく組み敷かれてしまうのだった。
昨夜と全く同じ状況だけれど、全く違う。
何故なら、驚いた私が見上げた先には、寝起きだというのに今日も安定の、桜小路さんのイケメンフェイスが鼻先スレスレまで迫っていたから。
吐息のかかりそうな至近距離で、視界いっぱいに映し出されている、超絶不機嫌そうなイケメンフェイスの迫力ったらなかった。
あんなに騒ぎまくっていたはずの心臓が緊急停止して、息の根を止められるかと本気で思ったくらいだ。
そうは言っても、人間というのはそう簡単には死なないらしく、今もこうして生きているのだけれど。
そんなくだらない考察を脳内で繰り広げていると、桜小路さんがふっと意味ありげな笑みを零した。
見やると、桜小路さんの切れ長の瞳が怪しい光を放っている。
厳密にはそう見えただけなのだが、どういうわけかそこから目が離せない。
そんな私のふいでもつくかのように、耳たぶに唇を寄せてきた桜小路さんは耳を擽りつつ。
「朝から喚いて、俺の安眠を妨害するとはいい度胸だなぁ。そんなに俺に口を塞がれたいか?」
意地の悪い声音で意味深な言葉を囁かけてくる。
いくら恋愛経験の皆無な私でも、放たれた言葉の意味はすぐに理解できた。
……といっても、昨夜、『飽きない』とか『つい、構いたくなる』とかなんとか言ってたくらいだ。
きっとフリだけで、こういうことに免疫のない私の反応が面白くて、からかっているだけなのだろう。
そうだと分かっていても、背筋がゾクゾクするような妙な感覚に襲われて、得体のしれないその感覚に全身が呼応するようにさざめいてしまう。
なんだか無性に恥ずかしくなってきた。
自分で見ることはできないが、きっと顔どころか、全身真っ赤になっているに違いない。
そんな私のことなどまるで無視で、桜小路さんは私の顔のすぐ左側に手をドンッと突いてくる。
挙げ句に、もう片方の手では、しっかりと顎を捉えられ、気づいた時には、私は完全に逃げ場を封じられていた。
その不機嫌そうな口調といい、表情といい、どうやら安眠を妨害されて随分とお怒りらしい。
けれどなんだろう……。
昨夜と雰囲気が随分と違っているような気がするのは、気のせいだろうか。
ーーいや、気のせいなんかじゃない。
フリだけだと予想していた私の見当はどうやら外れ、危機的状況に追い込まれているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます