第153話 一騎打ち

 これまで遠巻きにしていたガイアたちも、回廊から飛び降りて同じフロアにやってくる。

 その数は四十ほどにまで増えていた。

 ボスが到着したことで強気になったのだろうか。

 そう思ったけれど、すぐに違うとわかる。


 ガイアたちは俺とボスガイアを取り囲むように広く展開し、それぞれの武器を両手に握って、直立不動の姿勢をとったのだ。

 どうやらそれが彼らの作法らしい。


「これも逸話の一部かな?」


 生物としては理に沿わない振る舞いだ。

 数で圧倒しているにもかかわらず、わざわざボスとの一騎打ちに持ち込むなんて。

 きっと生まれつき備わっている習性なのだろう。


「これはどっちなんだろうなぁ。都合がいいのか悪いのか」


 乱戦になれば危険ではあるものの、逃走のチャンスもあっただろう。

 けれどこうもきっちりと囲まれてしまうと、逃げ出そうという気さえ湧いてこない。


「……やるしかないか」


 剣を構えたその時、ふと妹たちのことが気になった。

 俺を信じて送り出してくれた、みんなのことが。

 もしこの配信を観ていたら、きっと不安になっていることだろう。


 ここはゲートからそれほど離れた場所じゃない。

 もしかしたら駆けつけようとするかもしれない。

 俺はドローンを振り返って「大丈夫、心配しなくていいから」という意味を込め、微笑みながら親指を立ててみせた。


”唐突なキメ顔サムズアップ”

”何してんねんこいつ”

”観光地に来とんのか”

”せっかくだから記念に一枚、じゃないねん”

”お台場のガンダムで似たような写真撮ったことあるわ”


 ボスガイアが一瞬で俺との距離を詰め、斧を叩きつけてくる。

 あの巨体でありながら、野良ガイアたち以上に俊敏だった。

 いや真に驚くべきは、その膂力。

 叩きつけられた斧を中心に、広いフロア全体に放射状の亀裂が走る。


”ほらぁ! だから油断すんなって言ったじゃん!”

”この状況でよそ見するヤツがあるかアホ!”

”馬鹿め! 呑気に記念撮影などしよって!”


 舞った砂塵が、次の瞬間には風圧によって吹き飛ばされる。

 俺は斧の一撃を半身になって躱していた。


 ボスガイアが斧を床から引き抜こうとする。

 その斧を上から踏みつけた。

 ガクンとボスガイアの体勢が崩れ、追撃の槍の軌道が逸れる。

 軽く屈むだけで槍を躱し、体を起こすと同時に剣を振り上げた。


 ギギギギッと金属を引っ掻くような不協和音と共に火花が散る。

 手応えからして、外骨格の強度も野良ガイア以上のようだ。

 厄介極まりない。


 ボスガイアが再度、斧を引き抜こうとする。

 俺は足に力を込めてそれを阻止し、比較的装甲が薄そうな首元を目掛けて剣を振るった。

 ボスガイアは斧を手放し背後に飛ぶ。


 足元の大きな瓦礫をボスガイア目掛けて蹴り飛ばした。

 それと同時に剣を上空に放り投げる。


 ボスガイアがバールのようなもので瓦礫を粉砕した。

 予想していた通りの行動だ。

 蹴り飛ばした瓦礫はあくまで目隠しにすぎず、その影に隠れるように接近していた——自分の背丈ほどもある斧を振り上げながら。


「オラァ!」


 裂帛の声と共に斧を叩きつけた。

 ギリギリのところで差し込まれた大剣を砕き、外骨格にもヒビが入る。

 だがそれで斧もバラバラになってしまった。


 ボスガイアは一瞬怯んだ様子を見せたが、俺が無手であること、そして自分の手にはまだ槍とバールのようなものがあることに思い当たったようだ。

 攻勢に転じようと、グッと前屈みになる。


 俺は左手を高く上げた。

 その手の中に、放り投げた剣の柄が収まる。

 自由落下の勢いをそのまま利用するように、ボスガイアを切り付けた。


”うぉおおおお! ジロォオオオ!”

”カッケェ!”

”やっぱ別格やな”

”スタングレネードかってレベルの衝撃音と閃光やん”

”とんでもない一撃”

”いやでも、そこまでダメージを与えられていないような……”


「……渾身の一撃だったんだけどな」


 これまでたくさんのモンスターと戦ってきて学んだこと。

 強い手応えがあった時ほど、意外とダメージを与えられていないものなのだ。

 致命的な一撃は、むしろ豆腐でも切ったみたいな感触がある。


 現に今の一撃は、外骨格に一筋の溝を作っただけだ。

 なんなら大剣で防がれた斧の一撃の方が、ダメージは大きかったくらいだ。

 それらもすぐに、修繕されてしまったし。

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