第89話 円卓、ドローン

 私たちは拠点に入る。

 即席の建物のはずなのに、内装もちゃんとしていた。

 高級そうな家具が置かれ、仮眠室まである。

 普通に住めそうだ。


 その中でも特に目を引いたのが、圧迫感を与えるほどの立派な円卓だった。

 確かにこの建物は、仮設なのに信じられないほどに豪華だ。

 UDのボスとジローの二人を招くのだから、この超VIP待遇も当然と言えば当然なのだが。


 それでもこの円卓だけは、明らかに浮いていた。

 敵幹部が集合している、漫画の見開きページとかに出てきそうな円卓なのだ。

 動線も遮っているし、異物感が凄まじい。


(あえて円卓にしたってことだよね、これは。なんて悪趣味な……)


 そう考えてから、ヘンドリックさんのことを思い出す。

 私はオランダの文化に疎い。

 それとも個人の思想だろうか。

 なんにしても、これは弔意ちょういの表れなのだろう。


 五脚ある椅子に、それぞれが着席していく。

 私は最後に余った椅子に座った。

 扉から一番遠い席、いわゆる上座だった。

 両サイドにアマンダさんとお兄さん、斜め向かいにアンリとギンがいる。


(……あれ? なんか私がボスみたいになってない?)


 ちょうど真向かいにある扉を開けて、誰かがこの部屋に入ってきたら、そんな間違った印象を与えてしまいそうな気がする。

 ジローとアマンダ・D・ホプキンスを左右に控えさせるなんて、どんな陰の実力者だ。


 とはいえ席を変わると言い出しても、面倒臭がられるだけだろう。

 上座がどうとか、そんな小さなことにこだわる人たちではなかった。

 ちなみにオランダ渡航にキャスパー博士は付いてきていない。


「漏らすじゃ済まないからな」


 なぜか胸を張ってそう言っていた。

 その点に関しては、私も同じだ。

 なのに同行したのには、ちゃんとした理由がある。

 ダンジョンリンク社で開発中のドローンを利用できないかと思ったのだ。


 ダンジョン配信用のドローンは、かなり高価だった。

 地上のものをそのまま流用することができないからだ。

 ダンジョンでは配信以外の通信が不可能で、そこには無線通信も含まれる。


 つまりコントローラーでドローンを制御することができないのだ。

 当然、冒険者が発信機を持ち、それを追尾するなんてこともできない。

 全ての機能がドローン単体で完結していなければいけないのだ。


 自動識別、自動追尾、自動フォーカス、自動回避etc。

 必要な機能を上げたらキリがない。

 軽量小型が必須のドローンで、それだけの機能を詰め込むのは至難だ。


 そもそも大きな音がでるドローンは配信に向いていなかった。

 ダンジョンのアイテムを使うことで静音化には成功していたけれど、それでもどうしたってノイズが乗る。

 最高級品ともなるとほぼ無音だけど、その分値段が跳ね上がり、高級車が買えるレベルだ。

 そうやすやすと手が出せる代物ではなかった。


 その対策のために、ダンジョンリンクの配信プラットフォームでは、動画と音声を別個に受け取り、音ズレが起きないように自動補正する仕組みを採用していた。

 そのおかげで、価格をかなり抑えることができたんだけど……。

 でも全く予想だにしていなかった問題が起きてしまった。


 激しく動く冒険者がピンマイクをつけるわけにもいかず、チョーカー型の配信マイクを開発した。

 でもそのチョーカー型マイクは「首輪」と揶揄されて、蔑まれるようになったのだ。

 実力や実績とは関係なく、高級ドローンを使っていることが配信者のステータスになってしまった。


 そのせいで駆け出しの配信者が借金をしてまでドローンを購入し、その返済のために無茶な攻略をして、それが事故に繋がるなんてこともあった。

 中には開き直って、チョーカー型マイクを蝶ネクタイ型に改造して変声機まで取り付けたり、自撮りを貫いたりする人もいるんだけど……。

 でもそういう人は少数で、ドローン格差問題は配信者界隈に根付いてしまっていた。


 ちなみにお兄さんのドローンは特注で、完全に近い無音を実現している。

 それだけじゃなく、お兄さんの動きについていくための機動力や、深層階の過酷な環境で撃墜されないための人工知能など、とにかく最先端技術の結晶だった。

 もし市販するなら、高級車どころか都内の一等地に一軒家が建つくらいの……。


 話が逸れてしまったが、要するにダンジョン配信用ドローンは、まだまだ発展途上なのだ。

 今ダンジョンリンク社で開発を進めているのは、遠隔操作が可能なドローンだった。

 配信は可能なのだから、コメント機能を利用(あるいは悪用)して、地上からドローンを操れないかと考えたのだ。


 実は着想自体はずっと前からあった。

 でも実用化は諦めていた。

 やりすぎたらダンジョンエラーを引き起こしてしまうリスクもあるし、そもそも実験できる場がなかった。


 それがUDのおかげで、一気に開発が進んだのだ。

 まだまだ試作段階だけど、実用化されたらダンジョン攻略のセオリーを根底から覆すかもしれない。

 未踏破の階層を事前にマッピングしたり、魔物を撹乱して討伐の手助けをしたり。

 そうなれば、ダンジョン攻略の安全度が跳ね上がることになる。


 試作段階とはいえ、新型ドローンは有用だった。

 特にあの異形の神に対しては。


 従来の魔物なら、ドローンが近づけばすぐに撃墜されてしまう。

 でもあの異形の神は、悪意がある分、攻撃性はそこまで高くない。

 ヤンさんの武器に興味を持ったくらいだから、ドローンが近づけば面白がって意識がそちらに向くかもしれなかった。


 そうなれば、遺体回収という目的がスムーズに進むんじゃないか。

 そういう思惑があって、私は付いてきたのだ。





 ——————


 更新が遅くなって申し訳ありません。

 プライベートで色々と立て込んでおりました。

 これからまた可能な限り、毎日更新をしますので、よろしくお願いいたします。

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