第153話 誕生
「残光教団……力のあるものが世界を救うために動くべき、という理念は理解できなくもないが」
バラントはうむむと唸る。
「やり方が乱暴ではないか? いや、こんな事態になる前にエルフたちと対話をしようとしていたとしても、だ。彼女たちの母たる神樹そのものを取り除くことで異変を収めようというのは……」
苦言を呈するバラント。
「そうよね〜、私たちもそう思うわ」
ブロースターはうんうんと頷いた。
「でもそれが一番確実なのよね。神樹に取りついているのは「深淵」の手の者……といっても分からないわよね。まあとにかく魔王級にヤバい勢力が神樹を取り込もうとしているのよ。星を巡る偉大なる力の流れ、龍脈の要の一つである神樹が奪われるようなことがあれば大変よ。それなら、いっそ奪われる前に敵もろともぶち壊してしまおうって計画なの」
「奪われるくらいなら壊してしまおうって考えが乱暴なのだよな……」
言わんとすることは分かる、分かるのだ。しかしこう……と、バラントは腕組をする。
「どう思いますか姫様」
「うん……」
クラーラは静かに目を伏せる。重要な拠点、施設が敵や賊に奪われそうになり、それを阻止できない事態に陥ったとき、それを破壊することで被害を抑えようとするのは戦場ではままあることだ。あまり褒められた行いではないが、取り立てて非難されることでもない。そもそもこの事態に至るまで、彼女らは説得を重ね、崩壊する森を維持するために奔走している。それがいよいよ保たなくなったからこそ、神樹を焼き払うという決断に至ったのだ。
「賛同はできない、けど、否定することもできない、ね」
クラーラは歯噛みした。こんなとき、バルディンならどうしただろうか。目の前で困っている誰かに、そのすべてに手を伸ばさないと気がすまない彼なら、どうしたのだろうか。
「少し、少しだけ、待ってほしい。彼なら、バルディンならきっと……」
「バルディン?」
ブロースターは聞き返した。
「初めて聞く名前ね。彼、ってことは男の人? 珍しいわね、男が外を出歩くなんて」
「バルディンは、その、特別だから」
クラーラの返答に、ブロースターはしばし考え込んだ後立ち上がった。
「よし、そういう事なら私たちがエルフの里まで案内するわ。その、バルディンって子もエルフの里に向かってるんでしょう?」
「……どういうつもりだ?」
トロンが警戒するように問いかける。
「気になっただけよ。あなたたちがそこまで信頼するバルディン君のことがね」
そう言うとブロースターは手斧を仕舞い、辺りをキョロキョロと見渡す。
「ひとまず、ここには符を使って陣を張ったからしばらくは安全なはずよ。残るものと追うものを決めて―――」
「待ちなさい」
ぴしゃりと言い放つヴィオレット。騒ぎを起こさないよう、皆の前では小鳥の姿で何もしゃべらないようにしていたため、何も知らない第一騎士団の面々から動揺が伝わってくる。
「何か来るわ」
ヴィオレットの言葉に、トロンとバラント、そして第一騎士団の騎士たちが武器を構える。
「これは……まずいわね、この能力まで支配されていたとは」
一人、ブロースターは困ったように眉をひそめ、先ほど切り倒した神樹の根を見やった。
「黒いツタが地面から……」
うぞうぞと、まるで触手のように蠢きながら神樹の根に纏わりつくようにツタが伸びてくる。その不気味なツタは、ある程度まで地面から伸びると一つの大きなつぼみを作り上げた。
「……待って、これって」
そのつぼみの形に見覚えがあったのか、クロウは大きく目を見開く。
「神樹の、花? ということは、これは……」
妖しく蠢くドス黒い大輪の花を咲かせたそれは、みるみるうちに萎れ、人の頭くらいの大きさの実に変じた。
「エルフの……?」
困惑する彼女たちをよそに、黒い実は黒煙を吐き出しながら膨れ上がり、ひび割れ、内より出てきた二本の腕がそれを引き裂いた。
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