第62話 まとめて助ける
「え〜っと、ちょっとまってくれよ……一回整理させてくれ」
ひとしきり皆が落ちついた頃、俺はこめかみに手を当ててそうつぶやいた。
「まず、神村躑躅という少女が、現実逃避のために始めた理想の自分を思い描いた作品の主人公が脳内で意思を持った存在がツツジちゃんだと」
「うん」
「んで、神村躑躅には神村晴人っていう兄がいたが、これが行方不明になったと思ったら家族とか知り合いとか皆の記憶からも消え始めて、終いには最初からいなかったことになって、覚えているのは神村躑躅の心の中で生まれた存在であるツツジちゃんだけになってしまっていたと」
「うん」
「んで、その行方不明で皆の記憶から消えた神村晴人は、実は三十年以上も前にこの国で行われた聖女召喚の儀で召喚されていて、召喚失敗で処分されそうなところを助けたのがスカーレットのお母さんのヴィオレットと、クラーラやクロウの両親の三人だったと」
「そうね」
「んで、名前はバレてるからバルドって偽名を名乗ることにして、城を脱出した四人で世界を回って色んな脅威と戦いまくって世界を救って英雄になって、そのままヴィオレットと良い感じになりヴィオレットのクルエラ襲名と一緒にヴィオレットと結婚してスカーレットが生まれたと」
「そう、なるのか?」
「んで、しばらく幸せな生活が続いてたけど、スカーレットが七歳の頃に現れた死の魔王ってやつとの戦いに一人で赴いて、相討ちになって世界は救えたけど死んでしまったと……」
「そう、ね……」
「なるほど……」
俺はひとしきり状況を整理してから、腕を組んで座り直した。
「えっじゃあツツジから見たらヴィオレットは義理の姉でスカーレットは姪っ子になんの? クラーラと殿下は兄の友人の子供? なんか俺だけ蚊帳の外じゃない?」
「気にするとこそこか……?」
俺の総括にスカーレットが突っ込む。
「いや、でもそうか……余から見たらツツジは叔母様になるのか……」
「十歳年下の叔母はかなり複雑な家庭環境よね……」
「お母様がそれ言う?」
やはりスカーレット的にも思うところはあるようだ。そりゃあ見どころのある部下だと思ってた十歳年下の女の子が実は自分の叔母でしたとかそりゃあショックである。
「そっか……お兄ちゃんは本当に異世界に来てたんだ……」
「本当に?」
ツツジちゃんに尋ねると、彼女は少し照れくさそうに答えた。
「ツツジちゃんはね、はじめは私みたいな学園ものっていうか、あくまで憧れの自分だから、自分のいる日常からの延長線の話ばかり考えてたんだけど、いつの間にか異世界もの……いわゆる、別の世界に旅立って活躍する話ばかり読んだり見たりするようになってね。最後には忘れ去ってしまったけど、お兄ちゃんがいなくなってしまったこと、お兄ちゃんのことを皆が忘れていくことが怖くて仕方なくて、きっとお兄ちゃんは異世界に旅立ったんだって、そう思うようになってたみたいなの。お兄ちゃんは死んだんじゃなくて、いなかったことになったんじゃなくて、別の世界でみんなを助けて回ってるんだって、今もきっと幸せにすごしてるんだって、そう思ってたのね……。死んでしまって、もう会えないのは残念だけど、でも、この世界で家庭を持って、幸せな日々を過ごしてたみたいで、本当によかった」
「……」
微笑むツツジちゃんを、ヴィオレットはまたぎゅっと翼で抱きしめる。
「何言ってるの、あなたたちもこれから幸せになるのよ。私たち皆が付いてるし、外じゃああなたたちを心配してる人たちがまだまだ待ってるわ。とっととあのこを助けに行ってここを出るのよ!」
「出るって……私は体がないから出られないけど……」
そう言ってはにかむ彼女に、ヴィオレットは力強くこたえる。
「何言ってるのよ! ここにいるのは世界を救った英雄に、神に選ばれた使徒に、この世界を救うためにやってきた男の子よ? これくらいの不可能なんて、簡単にどうにかしちゃうんだから、ね?」
「ああ、そうだな。どうせ助けに来たんだ、やるならもうまとめて全部助けるくらいじゃねえと」
「うむ、まあ叔母様というのはまだかなり抵抗があるが……貴様も余の家族なのだから、もののついでにまとめて連れ出してやろう」
「わ、私、あなたとも友達になりたい」
全員で笑って、しっかりとツツジちゃんの目を見つめた。
「……ありがとう、みんな」
穏やかで、優しい笑顔で彼女は笑った。
そうだとも、俺たちは世界を救おうって言ってるんだ。心の中の友達がなんだ。私だけの友達なんてさせない、もうこうなったらみんなの友達だ。ツツジも、ツツジちゃんも、まとめて助け出してみんなで笑ってこの世界を出てやろう。
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