第18話

かつて、不祥事を起こした末、王家から追放された1人の男がいた。



そんな男が曾祖父で、自分にも王家の血が流れているなど知らずに生きていく筈だった。



事実、両親ですら血筋の事など露程つゆほども知らずにいたらしいのに。



全てはこの忌々しい目のせいだ。



金色の左目だけならいざ知らず、魔物と同じ赤い色の右目。



この赤い目のせいでどれ程のそしりを受けてきた事か。



光の神子みこが絶対的な善で崇拝の対象であるのと同時に、魔物は絶対的な悪であり恐怖だ。



神子の目を持ちながら、何故魔物の目など持って生まれたのか。



まさか魔物の血が流れているなんておぞましい事はあるまい。



今となっては曾祖父が何をして王家を追放されたのかは知らないが、もしかするとその辺りと関係するのだろうか。



「神子様、先ほど報せがごさいまして、王妃様がお風邪を召されたとの事ですので、本日の御予定は中止となりました」



「では、王妃様の為に祈ります」



自身が王族の端くれなのだと言う自覚は無いが、年に幾度か王族へ謁見する事がある。



殆どは王か王妃だが、幾人か居る王子や王女が加わる事もある。



大概は向こうから勝手に予定を伝えられ、こちらはそれに合わせて宮殿へ足を運ぶだけ。



特に何をするでもなく二言三言、他愛もない言葉を交わすだけで、大昔の儀式か何かの名残で形骸化されたものなのだそうだ。



光の神子は神の使いであり、本来ならば王からさえも敬われる立場にあるらしいが、僕に限っては例外だ。



侮蔑と嫌悪、忌避すべき存在。



金色の目がある以上、僕が光の神子である事は覆らない。



けれど同時に、魔物と同等に見られているのも事実だ。



ここは白い壁や天井に囲われ、カーテンや文机、何から何まで全てが真白い。



不浄な穢れを全て払拭する為の白。



魔物が立ち入れぬよう、結界が張り巡らされた塔の最上階にあるここは更に何重にも強化して結界が張られているのだ。



この空間を『光の間』と呼び、ていよく僕を閉じ込めている。



体を動かす為に城内を散策する事もあるが、それですら騎士の護衛があって初めて許可される上に、数多の視線に耐えなければならない。

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暁闇 舌に乗せたちぇりー @sitaninosetacherry

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