主人公の退職から始まります。
お局さんに対する啖呵にあれだけの啖呵を切れるのは羨ましいですが、まあ真似はできません。とにかく主人公の気持ちは分かる。
その後なんやかんやあってシェアハウスに住むことに。
そこの住民との交流を通して自身の進み方を考える物語。
人は多かれ少なかれ悩みを抱くものだと思います。
しかしそれを他者に見せる機会もあまりないのでしょう。
シェアハウスに住むとなったら全くの他人と生活をすることになるわけですが、だからこそ見えてくるものはあるでしょうね。育った環境とは違う視野が開けてくるはず。
他者の抱える問題への立ち向かい方を知れば、自分の眼の前問題も少し変わって見えてくるはず。
とりあえず今の悩み事を誰かに打ち明けてみようかな、そんな気持ちになりました。
とても丁寧な文体で、設定もよく作りこまれていました。
是非読んで頂きたい一作です。
海沿いのシェアハウス『そよ風の物語』。
そこへ仕事から解放されたい一心で移り住んだ主人公のアッキーが自身の進路に悩みを抱えながら住人たちと心を通わせる物語です。
それぞれの心に悩みや葛藤を抱える住人たち。特に美大生の美冬との関わりが重要で、双方の視点で紡がれる重要な局面が深く胸に迫ってきます。
時を共にするにつれ、アッキーは美冬の言葉に自分の知らない自分の存在に気づかされ、自身の進路について深く考えるようになります。それはさながら心理学でいうジョハリの窓を思わせるようです。
シェアハウスの二階窓。その心の窓を開けて聞こえてくる波風の音がなんとも心地よく、自然界の「1/fゆらぎ」として洗練された感覚美に陶酔したくなるほど。
独特な表現として特筆したいのは、『風』の存在。この物語でいう風はただの風ではないのです。心に寄り添う、温かく柔らかで優しいそれは……
「私は動かない絵と同じなんだ……」と時間が止まってしまった自分を嘆く美冬。その静止時間を再び動かせるのアッキーという存在。心の風を思わせるシーンは感動的です。
選ばれた言の葉たちに風が紡がれ、止まった時が再び流れていく。
さながら「1/f ゆらぎ」を思わせる洗練された文章とタイトルの持つ深い意味に支えられ、読む人の心を捉えるおおらかな力を感じます。
今日も優しい色の風が吹いていく。
誰かの心を動かす風でありたい。