水の空の物語 番外編 夏澄の泉サイダー

近江結衣

第1話 ふしぎなサイダーの泉

 風花は、友達で水の精霊の夏澄と、川原で他愛ない話をしていた。


 学校のこと、友達のこと、精霊のこと。穏やかな時間が過ぎていく。話は尽きない。


「サイダー?」

「うん、夏澄くん。サイダー。甘くて酸っぱくって、しゅわしゅわなの。人の世界にはね、そんな水もあるんだよ」


 川原の土手にすわり、風花はさらさらと流れる水面を見つめていた。


 となりでは夏澄が青い瞳を輝かせて、同じように川原を見ている。


 風花と夏澄はいつものように並んですわり、川原を眺めていた。


 夏澄は、じっと風花の話を聞いてくれる。


 水の精霊というのは、本当に優しい。人にはない優しさを持っていて、風花をいつもどきどきさせる。


 水色の髪に青い瞳。

 川原を見つめるときの澄んだ瞳。


 水の精霊はとても純粋できれいだ。

 まぶしすぎて特別で、すごくすごく憧れる。風花はまた目まいを覚える。


「風花はサイダーが好きなんだね」


「うん、大好き。子供のころ、ママが何度も作ってくれたんだよ。雨水を濾過してね。天然水に近いから、すごくおいしいの。夕立サイダーっていうんだよ」


 いいねと、夏澄は微笑む。


「なんとなく、風花に似ているイメージだね。風花はお母さん似?」


「うん。一目で親子って分かるっていわれるよ」


「サイダーかあ……。そういえば、俺、サイダーみたいな泉を見たことあるよ」


「え?」


「湧き水にぷちぷちが混ざっていたんだよ。飛雨の話では、炭酸泉っていうらしい」


 炭酸泉?! つまりサイダーの泉?!


「ええっ?! どこに?」

「南の山の中だよ」

「うそ……」


 湧き水と一緒にサイダーが湧いているってことだろうか?


 そんな話、聞いたことない。


「精霊さんの世界の泉なの?」

「ううん。風花の世界の泉だよ」


 うそ……。

 サイダーが湧く泉なんて、あるはずない。

 だが、夏澄が嘘をいっているようには見えない。

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