第43話
弥生さんを車に乗せ、僕は家に向かった。
弥生さんは、捨てられた子猫の様に怯え、小さく身体を丸めている。
静まり返った空間。気まずい雰囲気。
僕は、何か話さなければと思い、必死に言葉を絞り出した。
「さっきドアを叩いていたのが、彼氏ですか?」
「はい、そうです」
「怪我は無いですか?」
「大丈夫です。電気を消して居留守を使いました」
「弥生さん、夕飯は食べました?」
「まだ、です……彼が3時間ぐらい外に居座っていたので、買い物にも行けませんでした」
「家に着いたら、何か作ってあげます。僕と一緒に食べましょう」
弥生さんは、ゆっくり頷くと、
「優しくしてくれて、ありがとう」と言って泣き出した。
「弥生さん、ごめんなさい。僕のせいで、こんな事になっちゃって」
「なんで謝るんですか?マスターは私を助けてくれた……」
「いや、僕が悪いんです。おばさんに怒られました」
「えっ?……どうしてですか?」
「弥生さんに、寂しい思いをさせたからです……。でも僕は、弥生さんが嫌だからとかでは無く、何を話せばいいか分からなくて……緊張してしまうんです」
「突然他人と生活する事になったら、誰だってそうなります」
「いや、僕は異常なんです……精神科の医師だったくせに、人と話すのが苦手になって、人の目が怖くなって。ほんと、かっこ悪いですよね?」
「かっこ悪くないです。今のマスターもシャイで素敵ですよ。でももし緊張したら、私をかぼちゃだと思って下さい。それなら話しやすいでしよ?」
「かぼちゃ???ですか?かぼちゃに見えません」
「じゃあ、じゃがいも」
「もっと無理です」
「じゃあ、チロル」
「もういいです。かぼちゃにします」
弥生さんが、笑ってくれたので、僕はホッとした。
手に汗をかくほど、緊張した時間だったけど、会話のキャッチボールができて、嬉しかった。
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